Gucci Osteria da Massimo Bottura Tokyo Head Chef, ANTONIO IACOVIELLO
伝統と革新の世界を受け継ぐグッチ オステリアの味をつむぐ人
May 2022
現在、グルメ界を席巻している話題といえば、2021年10月に銀座にグランドオープンした、グッチがコラボレーションしたレストランである。そのヘッドシェフにインタビューすることがかなった。
text misa yamaji
Antonio Iacoviello/アントニオ・イアコヴィエッロ
カンパニア州生まれ。トラットリアを営んでいた祖母を見て育ち、料理人の道へ。サントロペのアラン・デュカスのレストラン“ビブロス”、“ドンアルフォンソ 1890”、“ノーマ”などで研鑽を積む。モデナ“オステリア フランチェスカーナ”のオーナーシェフ マッシモ・ボットゥーラ、フィレンツェ“グッチ オステリア”のヘッドシェフ カリメ・ロペスに薫陶を受け、2021年10月“グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ”のヘッドシェフに着任。
2021年、創設100周年を迎えたグッチ。そんなアニバーサリーイヤーに世界3店目となる“グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ“が、銀座にグランドオープンした。グッチ オステリアの第一号店は、クリエイティブ・ディレクター アレッサンドロ・ミケーレがデザインを手掛けたフィレンツェの“グッチ ガーデン”内にある。
グッチの社長兼CEOマルコ・ビッザーリと幼馴染みでもある世界的なトップシェフ、マッシモ・ボットゥーラとコラボレーションし、イタリア伝統料理を遊び心を持ってクリエイティブに表現。100年という伝統を持ちながらも常にフレッシュなエネルギーで前進するグッチの哲学に重なる料理の世界に浸ることができる。
「このプロジェクトについて、マルコとアレッサンドロと話したときのことをよく覚えています」とマッシモは振り返る。
「食は人間の成り立ち、着こなしは人の内面の表現です。つまり食とファッションは文化と伝統を異なる形で表現しています。そして最もイタリアで愛されているものでしょう。それらをノスタルジックではなく、批判的な視点から過去を見つめ、現代的な目と心、手法を持ちながら過去を未来に繋ぐという点がアレッサンドロと私は非常に似ていました」
オリジナルメニューの“ラーメンになりたいパルミジャーナ”。アーリオ・オーリオで仕上げたパスタを、ナスのブロードでラーメン風に。
“サバ ナポリから東京へ”。熟成したサバとスティックセニョールをあわせたひと皿。
食とファションという別の世界で、イタリア文化がつむいだ記憶を現代的に生き生きと、自由に広げていく。グッチとグッチ オステリアは異なるアイデンティティを持つが、共通の信念に基づいていることがわかるエピソードだ。
そんなマッシモの思いを東京で継承するのが、ヘッドシェフのアントニオ・イアコヴィエッロだ。グッチ オステリア本店で経験を積み、その手腕を買われて東京店をまかされた。東京店のメニューは、マッシモが監修し、アントニオ率いる東京チームで開発。登場する料理は、“サバ ナポリから東京へ”や“ラーメンになりたいパルミジャーナ“などウィットに富んだものばかりだ。
「どの料理も、マッシモや僕の心の中にある幸せな料理の情景を、日本の食材を使い、イタリア料理のテクニックで料理しています」とアントニオ。例えば“サバ ナポリから東京へ”のインスピレーションの源は、アントニオの故郷でよく食べられているサルシッチャとブロッコリーの組み合わせから。なんと、日本の熟成鯖が、サルシッチャの風味と似ていると感じたのだという。
「“ラーメンになりたいパルミジャーナ”は僕の故郷のナス料理パルミジャーナと日本のラーメンからインスピレーションを得たパスタ。アーリオ・オーリオのパスタにペースト状のナスのパルミジャーナを添え、ナスのブロードの優しい味わいで全体をまとめるイメージで作りました。マッシモと料理について話す中で、彼の閃きは僕をより自由にしてくれるのです」とアントニオは語る。
その言葉通り、初めて触れる日本の食材に素直に向き合い、イタリアで息づく食の記憶を織り込みながら生み出す料理は、のびやかで自由で瑞々しい。グッチのファンタジックな世界観で食す、日本とイタリアが融合した伝統と革新を感じる料理は、誰も知らない魅惑の世界へ誘(いざな)ってくれる。
“プロント ルイーザ… ビッザへのオマージュ”。マッシモ・ボットゥーラとグッチCEOのマルコ・ビッザーリの幼い頃の思い出の料理を、日本の食材で鮮やかな逸品に。
ヒグチユウコ氏のイラストが印象的なファサードをくぐり、グッチデコール コレクションのウォールペーパーで彩られた歩廊を通って最上階のレストランへ。
“Room of Mirrors”と名付けられたプライベートダイニングルーム。ヨーロッパのアンティークミラーが重厚感を醸し出す。
THE RAKE JAPAN EDITION issue44