FERRARI PUROSANGUE
想像を遥かに超えた、フェラーリ初の4ドア
July 2023
実は過去に何度も企画されてきたフェラーリの4ドアモデルだったが、動力性能がフェラーリらしくないことを理由にそのたびキャンセルされている。それだけに初の4ドア、新型プロサングエの性能は我々の想像を遥かに超えてきた。
text jun nishikawa
Ferrari Purosangue
12気筒エンジンを積むSUVスタイルのモデルは今春をもって世界でもとうとうプロサングエのみとなる。812シリーズ直系となる6.5L・V12は実用トルクを上げるべく専用チューニングを受けている。全長×全幅×全高:4,973×2,028×1,589mm/エンジン:V12 6,496cc/最高出力:725 cv / 7,750 rpm/最大トルク:716 Nm / 6,250 rpm/最高許容回転数:8,250 rpm/乾燥重量:2,033 kg/最高速度:310 km/h以上/0-100 km/h 加速:3.3秒/0-200 km/h 加速:10.6秒 ¥47,600,000~
ブランド初の4ドアモデルとなったプロサングエ。マラネッロ(フェラーリの本拠地)は決してそう謳わないけれど、世間からすればこれは立派なSUVスタイルだ。「フェラーリも、ついに!」。そんな反応の中には好意的なものも多かった反面、流行に堕したと言いたげなものも少なくなかった。いわく、「(他のブランドと同じく)ただ数を稼ぎたいだけだろうよ」。
プロサングエを台数稼ぎのSUVだと信じて疑わない人こそ一度は試してみるべきモデルであることを、筆者はスキーシーズン真っ盛りの北イタリアはトレント自治県で開催された国際試乗会で身を以て体験した。
これはもはやSUVというカテゴリーに括っていいクルマではない。なぜなら他のスポーツカーブランドが作る“真のSUV”とは、その走りの質がまるで違った。れっきとしたスポーツカー、スーパーカーなのだ。否、それもいうなら“フェラーリ”だ。プロサングエは背の高いスタイルの4ドアモデルであること以外、これまで通りの、いやひょっとするとそれ以上にマラネッロ産らしい駿馬であった。
ウェルカムドアとマラネッロが称する、いわゆる「観音開きドア」もプロサングエの特徴のひとつだ。ドア数を増やしつつもホイールベースを抑え、軽量化にも役だった。ワンタッチでの開閉も可能。室内はデュアルコクピットスタイルとし、4席のどこに座っても“フェラーリ体験”が可能だ。しかも全席快適仕様だったから驚くほかない。
どうしてマラネッロだけがそんなことをなしえたのか? 理由は三つある。伝統的な2シーターFR(フロントエンジン後輪駆動)である812シリーズ直系の6.5リットルV12自然吸気エンジンを完全なフロントミッドシップとしたこと。全長を2ドア4シーターのGT4ルッソとほぼ同じに収め、重量増を最小限に抑えることができたこと。そして最後に、これが一番キモなのだけれど、全く新しいアクティヴサスペンションシステムを搭載したこと。この三つの理由によって、これまで背の高いモデルではあり得なかった運動性能をプロサングエは手に入れた。逆にいうと、そういうクルマでなければマラネッロは生産を決意しなかった。スポーツカーを作り続けてきた歴史を覆してまで高級SUVブームに便乗しようとは決してマラネッロは考えなかったのだった。
走り出した瞬間から“違い”がわかる。前輪が思い通りに動く。後輪と腰がよくできたシートにサポートされて繋がっているような錯覚も覚える。要するにボディサイズを感じさせない。一体感に満ちているのだ。大柄なハイト系モデルではあり得ないドライブフィールだ。そのうえ視線が高く見晴らしがきくので、とても運転しやすい。その証拠に初めて走る、しかもところどころ凍った狭いワインディングロードを、水を得た魚のように駆け上がった。シャシー制御の緻密さもプロサングエの特長だ。
乗り心地もよかった。スポーツカーらしく、やや硬めながら弾性もしっかりあって、不快な突き上げなどは皆無。ボディ骨格がしっかりしているので気になる振動もない。ひょっとすると同門のGTスポーツカー、ローマより快適かもしれない。ちなみに後席の乗り心地はさらによかった。
ダメおしはターボやハイブリッドではない純粋な内燃機関の最高峰、12気筒エンジンの胸を空くサウンドだろう。決して爆音ではない。道が空いたときを狙ってアクセルペダルを踏み込めば、抑制の効いた咆哮がドライバーの身体に染み渡ってくる。クルマ好きにはたまらない瞬間だ。
この跳ね馬は間違いなく歴史に残る。全く新しい4ドアGTスポーツカーの誕生だと言っていい。