ESSENTIALS OF THE MASTERS: FRANCO PRINZIVALLI

世界の一流が愛するもの
フランコ・プリンツィバァリー

May 2021

イタリア最高峰のサルトであり、無二のマエストロ、フランコ・プリンツィバァリー。

良質なものだけを重んじ、決して自分をひけらかすことのない控えめで温厚な人柄がにじみ出る。

 

 

text miki tanaka

photography alessandro ottaviani

 

 

 

FRANCO PRINZIVALLI/フランコ・プリンツィバァリー

イタリア・カルタヴトゥーロ(シチリア)出身。マリオ・ドンニーニを師にドメニコ・カラチェニの流れを継ぐイタリアで最も重要なサルトのひとり。30歳で「Forbicid’oro(金の鋏)賞」受賞、後には同賞最高選考責任者も務める。日本滞在経験もあり、日本では三陽商会から2017年までライセンスラインを展開。

 

Q1. 長年愛用しているダブルのスーツで。広めのピークトラペルがプリンツィバァリー氏らしい。足元には、今は亡き、幻の靴職人、ベンティヴェーニャの靴。座っている革張りのソファは昔、引退したサルトの店を買い取った時に一緒に引き取ったもので、愛着のある一品だ。

 

 

 

 

Q1. 一番好きなジャケット、スーツはどんなモデルですか?

 私にとってジャケットとは、すべてボタンを閉じて座った状態で手を上げても、袖がつったりジャケットの裾が上がらないような作りであること。そしてジャケットを着たままで体を動かしても楽である、ということが大事だと思います。モデル自体は問題ではなく、私もシングル、ダブルのどちらも好きですし、数をたくさん持っている必要もなく、何着かのよいものだけを持っていればよいのです。

 

 昔、とあるお客様が「お金の使い方は金持ちからではなく、紳士から見習え」と言っていました。つまり2着のスーツを買えるお金があっても、1着のいいスーツを手に入れるだけで十分。紳士はよいスーツを作ってそれを長く着るものです。

 

 ただ、素材については、私は英国生地へのこだわりがあります。イタリアの素材がよくないというわけではないのですが、英国生地はとても丈夫で耐久性があるからです。作りがよくて長く着られるクラシックなスーツにはやはり英国生地が向くと思います。また私の修業時代は英国生地がメインでしたから、そのノスタルジーもありますね。

 

 

 

Q2. 一番好きなシャツは?

 私はクラシックなス・ミズーラのシャツしか着ません。ワイドカラーの白シャツがメインです。シャツだけに限りませんが、私は好きになったらずっと同じ形のものばかりを身に着けています。むやみに何かを変えることは危険だと思っています。

 

シャツはすべてス・ミズーラで、ほとんどが白のワイドカラー。シャツはすべて長年オーダーしているシャツ職人の手によるものだ。

 

 

 

Q3. 一番好きなタイは?

 ネクタイは、派手な色や大胆過ぎる柄はあまり好きではありませんが、スーツやジャケットがクラシックな分、無地よりは柄や色が入ったもののほうが多いです。主に小紋やレジメンタルですね。色はネイビーの地のものが多いですが、暗めの緑や茶もあり、差し色として赤などの華やかな色が入ったものもよく使います。太さに関しても、太すぎず細すぎない9cmぐらいの正統派のネクタイが多いです。

 

ネクタイはクラシックなジャケットに合わせ、小紋やレジメンタルなど大胆過ぎない柄や差し色が入ったものを。オリジナルのネクタイには、金の鋏が目印のロゴが入っている。

 

 

 

Q4. カジュアルアイテムのお気に入りは?

 私は土日でもクラシックなジャケットを着てタイドアップしていることが多いので、一般的にいうところの“カジュアルスタイル”はあまりしません。ス・ミズーラのジャケットなら快適なので、これで十分リラックスできますから。郊外に行くときなどは、ニットにジャケットというスタイルです。冬にはそれにカセンティーノのコートを羽織ります。これは内側にギンガムチェックの裏地が施された遊び感覚も入っていて、お気に入りの一着です。

 

あまりカジュアルスタイルをしない氏が、あえてカジュアルアイテムとして挙げたカセンティーノのコート。もちろんエレガントなスタイルに合わせることも。

 

 

 

Q5. 一番好きな靴は?

 もうだいぶ前に亡くなってしまった、ミラノの伝説の靴職人、アンドレア・ベンティヴェーニャの靴を今でも愛用しています。ベンティヴェニアはとても洒落た人で、彼が私の師匠ドンニーニの顧客だったことから知り合い、師匠亡き後は私の顧客になりました。当時は、私が作るスーツ1着と彼が私のために作る靴2足とを交換していました。彼の靴は流れるようなラインに独特の想像性があり、トゥがどっしり地についているところが好きです。40~50年たった今でも彼の靴をたくさん所有していて、消耗した部分は直しながら大事に履いています。

 

 

Q6. どんな鞄を愛用されていますか?

 鞄は持ちません。鞄に入れて持ち歩くものがないからです。旅に出るときも大きなトランクを持つのは嫌なので、小さな手荷物用のトランクにすべて詰めていきます。例えば日本に行くときも、一週間ぐらいの旅なら手荷物用の小さな鞄を持っていきま す。

 

 

Q7.愛用の腕時計を教えてください。

 ずっと愛用している腕時計はパテック フィリップのカラトラバです。18Kイエロー ゴールドの手巻きの時計で、多分80年代 のものだと思います。もう15~20年前の ことになりますが、日本の時計商のお客 様にスーツを作った時、そのお客様が スーツをとても気に入ってくださり、プレゼ ントしてくれたものです。時計そのものが 美しいので、気に入ってずっと付けていま すが、実は長い間、どこのブランドのもの かを意識したことさえもありませんでした。

 

日本の時計商の顧客からの贈り物、パテック フィリップの「カラトラバ」。時計の美しさは愛でるが、ブランド名は意識していないのがプリンツィバァリー氏らしい。

 

 

 

Q8. その他ファッションアイテムで愛用しているものは?

 アクセサリー類にはさほどこだわりはない のですが、最近はカフリンクスをよく使用し ています。特に大事にしているのは、ロンドンのサルトからプレゼントされたもの。昔、 キャメルアワードという、メンズファッションの賞を受賞したのですが、その時審査員をやっていたこのサルトと、その後20年ぶりぐらいに偶然ばったり出会ったのです。このカフリンクスはその時にプレゼントされ たものなのですが、昔の思い出もあり、偶然の出会いも嬉しく、思い入れのある一 品となっています。

 

20年ぶりぐらいに偶然再会したロンドンのサルトからプレゼントされたカフリンクス。最近はカフ付きのシャツをよく着るので、愛用している。

 

 

 

Q9.愛車を教えてください。

 今では自分は高齢になったので、運転はやめました。孫と一緒に過ごすことが多いので、孫を乗せて運転することには危険 を感じたのです。

 

 

Q10. お気に入りのフレグランスは?

 アザロ・プール・オムが好きで、もう30年以 上も使い続けています。何でも好きになったものはずっと変えない主義で、この香水もそのひとつです。

 

長年愛用している、アザロ プール・オム。紳士が愛する香水として知られる。

 

 

 

Q11. 一番好きなレストランはどこですか?

 最近はレストランで食事をすることはほと んどありません。孫たちが我が家に来ていることが多いので、小さい子供(その上、 孫は双子!)を外食に連れていくのは大変 だということもありますし、私はダイエット中 なので、妻が厳しく栄養管理をして料理 をするため、必然的に家で食事することになります。塩分、糖分を控え、パスタは 全粒粉、という感じでいろいろ制約があるもので……(苦笑)。

 

 

Q12. お気に入りのインテリアは何ですか?

 私のサルトリアの家具は、すべて私にとっ て愛着があるものです。生地棚は、この 部屋のサイズに合わせて友人の家具職 人がオーダーメイドで作ってくれたもので すし、革張りの椅子は、昔、引退したサルトからサルトリアごと払い受けた際にそこ にあったものを、その後、引越してもずっと 使い続けています。

 

 

Q13. お気に入りのお酒はありますか?

 ワインが好きなので食事の際には必ず、 1~2杯、赤ワインを飲みます。私はそれ ほどワイン通ではないので、あまり銘柄の こだわりはないのですが、私の故郷であ るシチリアのネロ・ダーヴォラや妻の故郷の トレンティーノのメルローのワインを飲むこ とが多いです。バカンスでシチリアに行っ た際などは、地元の人たちの自家製ワイ ンを飲むのも楽しみです。

 

出身地シチリアのネロ・ダヴォラ種のワインがお気に入り。写真は「マンドラロッサ」。

 

 

 

Q14. 今までで一番よかったと思うホテルは?

 今は改装されたようですが、往年のホテ ルオークラはとても素晴らしいホテルで、 日本によく行っていた頃、このホテルを使 っていました。立地条件もよく、ホテルにも品格があったのを、今でも懐かしく思い出します。

 

日本有数の老舗ホテルのひとつ「ジ・オークラ・トーキョー(旧ホテルオークラ東京」。氏はホテルにもクラシックさと品を求める。https://theokuratokyo.jp/

 

 

 

Q15. 別荘はお持ちですか?

 私の故郷であるシチリアのカルタヴトゥーロと、妻の故郷であるトレンティーノのスポルマッジョーレにそれぞれ家があります。南イタリアの海に近い街と、北イタリアの山にある街はとても対照的なので、夏のバカンスでは半分を妻の故郷、半分を私の故郷で過ごして、海と山の両方を楽しんでいます。

 

 

Q16 好きなエアラインは?

 イタリア人としてはやはりアリタリア航空でしょうか。利用する機会も多いですし。

 

 

Q17 ベストな映画は?

『ゴッドファーザー』はやはりすごい映画だと思います。最初の作品を見たのは日本だったのですが、最近、改めてDVDで全作を見ました。私がシチリア出身だからと言って、ミラノのサルト仲間が本をプレゼントしてくれたので、原作も読みました。

 

マフィアの世界を描いた本をフランシス・フォード・コッポラ監督が映画化した名作『ゴッドファーザー』。

 

 

 

Q18. 好きな本は?

 1冊は、ヘレン・ヴァン・スライクの『The Rich and the Righteous』。ストーリーはビジネス界の話なのですが、そこに出てくる父と息子の関係が興味深く、終盤で父親が息子に謝罪するシーンに感動します。もう1冊は『Leoni di Sicilia 』。かつての自動車レース「タルガ・フローリオ」のスポンサーでもあった富豪一家が財を築くまでの話ですが、自分の故郷であるシチリアが舞台ということもあり、好きな本です。一方、 日本語は読めないけれど大事にしている本は、故・落合正勝氏が書いた服飾に関する本達です。私が作ったスーツの写真を表紙に使い、文中でも私のことについて書いてくださっていると聞いています。落合氏は最初に出会ったときから、私のスーツを認めてくださり、初めて一緒にレストランに行った時は、ろくに食事もしないでスーツの話をしたのを覚えています。落合氏との友情は特別なものでした。今でも私にとってとても大切な人です。

 

左は故・落合正勝氏の著書、右は愛読書の『The Rich and theRighteous』と『Leoni di Sicilia』。

 

 

 

Q19. 今一番夢中になっていることは?

 8歳になる双子の孫、ヤコブとエミルと一緒に過ごす時間をとても大切にしています。息子夫婦は共働きなので、孫たちは頻繁に私のところに来ています。そして週に2回は必ず私の家に泊まりに来ます。孫たちは私のようなサルトになりたいそうです。でもそれはなぜかと言うと、日本に行きたいからだそうなのです。私が日本でサルトとして仕事をしていたことを聞いて、どうやらサルトになれば日本に行けると思っているようです(笑)。

 

 

Q20. 今一番欲しいものは?

 穏やかに暮らせること。そして記憶力……。年とともに段々忘れっぽくなっていくので、記憶力をなくさないでいたいですね。

 

 

Q21. 貴方の他にお洒落だと思う人は?

 私の師匠、マリオ・ドンニーニです。ドンニーニは、ドメニコ・カラチェニとともに、かつてのミラノのサルトリア界を支えた名サルトで、本人の着こなしもとてもエレガントでした。私をサルトとして育ててくれただけでなく、結婚式の時の保証人(仲人のようなもの)をしてくれたり、私の人生において公私ともどもとても大事な人でした。

 

プリンツィバァリ-氏が敬愛する師匠、故マリオ・ドンニーニ。ドメニコ・カラチェニのもとでミラノサルトリア界を牽引した名サルト。

 

 

 

Q22. 今度の休日は何をする予定ですか?

 今年の冬には妻の故郷であるトレンティーノに行き、孫たちはそこでスキーをしたのがかなり楽しかったようなので、雪がなくなる前に、孫たちをもう一度トレンティーノに連れて行ってやりたいと思っています。私自身はスキーはやらないのですが(苦笑)。

 

サルトの仕事に興味津々な8歳の双子の孫、ヤコブとエミルとともに。孫たちにとっておじいちゃんは憧れの存在で、その仕事ぶりが見たくてサルトリアにやってくるのだとか。そんな孫と過ごす時間をとても大事にしているプリンツィバァリー氏は、今では生活のリズムまでが、すっかり孫中心になっているという。

 

 

 

 

本記事は2020年3月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue33