Dr. Bill Lumsden Interview
マイケル・ジャクソンとの友情へ捧げる
シングルモルト
「グレンモーレンジィ スピオス」
March 2018
text miyako akiyama
1843年創業の老舗ながら、つねに革新的なウイスキーを造りだしてきたウイスキーハウス「グレンモーレンジィ」では、年に一度、数量限定でスペシャルなシングルモルト「プライベート・エディション」シリーズを発表・販売してきた。
ある年は希少品種の大麦に注目したり、またある年はマディラワインのカスク(樽)で追加熟成を加えるなど、多彩な試みがウイスキー愛好家やコレクターを魅了してやまないこのプロジェクトの第9弾が今春発売された。最新作はいったいどんなシングルモルトなのか、グレンモーレンジィの最高蒸留・製造責任者であるビル・ラムズデン博士に話を聞いた。
Dr.ビル・ラムズデン
スコットランド生まれ。Heriot Watt大学でPhd(バイオケミストリー)を取得後、95年にグレンモーレンジィ蒸留所のマネージャーとして入社。98年に最高蒸留・製造責任者に就任。
「最新作のプライベート・エディション第9弾は通常のバーボン樽の代わりに、アメリカのライ・ウイスキー樽で熟成させたものです。さかのぼると古い話ですが、1997年にマイケル・ジャクソンがライ・ウイスキーのサンプルを私にくれたのがきっかけ。マイケル・ジャクソンといってもあのポップスターじゃないですよ(笑)。世界的に著名なウイスキーとビールの評論家でしたが、惜しまれながら2007年に亡くなりました」
当時ライ・ウイスキーは絶滅の危機に瀕しているといってもいいほど手に入りにくく、貴重な味わいを楽しんだラムズデン博士はふと、通常バーボン樽で熟成させているグレンモーレンジィをライ・ウイスキー樽で熟成させたら面白そうだと思いつく。そこから樽を実際に手に入れるまで10年、樽詰めしてからさらに10年。実に20年越しの思いが込められた1本がこのほどようやくリリースされたというわけだ。
「私は実験好きなので常に30ほどのアイデアを試行錯誤しています。その中から毎年、自分の厳しい基準をクリアして、これなら面白いと思えるものをプライベート・エディションとして発表しているのです。だからこれはマーケティング的な視点からではなく、純粋に私の個人的な興味や喜びを追求している実験的なプロジェクト。ウイスキー愛好家の方に一緒に楽しんでいただければうれしいですね」
ライ・ウイスキー樽はグレンモーレンジィにスパイスの風味を与えたことから、ゲール語でスパイスを意味するスピオスと名付けられた「グレンモーレンジィ スピオス」が誕生した。
「グレンモーレンジィ オリジナルは華やかな風味で、女性にも人気です。スピオスはもっと骨格豊かな味わいで、ウイスキー通の方に好まれそう。スパイシーなニュアンスがあるのでタイ料理など香辛料の効いた料理とペアリングしてもいいんじゃないかな」
惜しいのは、ラムズデン博士にインスピレーションを与えてくれたマイケル・ジャクソン氏にこの「グレンモーレンジィ スピオス」を味わってもらえなかったこと。
「彼との対話は私に多くのことを気づかせてくれました。だからこのシングルモルトは彼との友情へ捧げるオマージュでもある1本。でも実は第10弾(2019年リリース予定)もマイケルからもらったヒントから生まれたものになりそうなんですよ。まあ、まだ実験中なのだけれど」
このインタビュー中、Experiment(実験)という言葉が20回は出てきただろうか。ラムズデン博士は身長190センチはあろうかという大男だが、いま進行中のアイデアについて語るときは少年のように輝く瞳が印象的だ。
「いまはすっかり一般的になったシングルモルトのバーボン樽での熟成も、初めて行ったのはグレンモーレンジィ。樽は風味が失われないように2回までしか使用せず、またその木材も決められた森林で育ったオーク(樫)のみ使用するなど、徹底的にこだわっています。つまりグレンモーレンジィは昔も今もチャレンジを続けるパイオニア的なウイスキーメゾンなんです」
この春は、完成した「グレンモーレンジィ スピオス」をひっさげ、各国でお披露目してまわる日々だそうだが、世界で会った人々、交わした会話、味わった酒や料理の数々が、彼の次なるチャレンジの基となる。今、このときしか出会えない「グレンモーレンジィ スピオス」との幸せな邂逅を私たちも存分に愉しみたい。
グレンモーレンジィ スピオス
¥11,000
全国主要百貨店、酒類専門店などで数量限定発売中
MHDモエ ヘネシー ディアジオ
Tel.03-5217-9731