Audemars Piguet Global Brand Ambassador
CLAUDIO CAVALIERE ーInterviewー

理想の音色を求めて

November 2020

時計史上最も豊かで美しい音色を奏でることができるミニッツリピーターが、オーデマ ピゲから誕生した。これはもはや、複雑なメカニズムを持った“楽器”だ。

 

 

text tetsuo shinoda

 

 

 

Claudio Cavaliere/クローディオ・カヴァリエール

1972年スイス・ジュネーブ生まれ。機械工学と経営学を学び、1997年にモバードグループに入社。グッチの時計部門を経て、2007年にオーデマ ピゲに入社し、プロダクトとマーケティングを担当する。2014年からは、知識と経験を買われて“グローバルブランドアンバサダー”にも就任。オーデマ ピゲの本物のストーリーを伝えるという大役を担う。

 

 

 

 高級時計の華である超複雑機構の世界に異変が起きている。高額モデルの代名詞トゥールビヨンが価格破壊を起こし、“時計の価格とは何で決まるのか?”という疑問を突き付けられているのだ。

 

 そんな中、時計機構ヒエラルキーの最上位とされるミニッツリピーターは、ユニークな進化を続けていた。キーワードとなるのは“音質”だ。

 

「ミニッツリピーターとは、複数のハンマーがゴングを打ち鳴らし、その音の組み合わせで時刻を知らせる機構です。繊細な調整が必要となる微細なパーツが多いだけでなく、最も重要なスペックが“音の心地よさ”であるため、大量生産は不可能。どうしても機械化できません。ミニッツリピーターは楽器と同じであり、ピアノの調律と同じように、人間の耳だけが頼りなのです」

 

 オーデマ ピゲのアンバサダーとして、ブランドの価値を語るクローディオ・カヴァリエール氏は語る。

 

「オーデマ ピゲでは、理想の音を求め、数年前から研究を重ねてきました。人間の脳が心地よいと感じる音を追求し、さまざまな音源をコンピューターで解析し、理想の音を構成する要素を探したのです。懐中時計の音は大きいがノイズも大きい。腕時計は音が小さく、防水を意識するとパッキンによって音が籠ってしまう。長所と短所が生じる理由を分析することで、理想の音に近づけていったのです」

 

 

8年かけて開発したコンセプトウォッチを、さらに1年かけて商品化させた「ロイヤル オーク コンセプト・スーパーソヌリ」。ミニッツリピーター、トゥールビヨン、クロノグラフを搭載している。手巻き、Tiケース、44mmAudemars Piguet

 

 

 

 結局、澄んだ音色を大きく鳴らすという理想形は、ケース構造が解決した。合金製の共鳴板に直接ゴングを取り付け、その上からケースバックを取り付ける。共鳴板とケースバックの間には隙間を作って音を大きく響かせるのだが、これはギターの構造を模しているそうだ。

 

「このモデルは防水性もあるので、必要なら毎日使えますし、騒がしい雑踏の中でも音が聞こえます。じっと聞き耳を立てる個人的な楽しみから、周囲の人を巻き込んで音をシェアできる時計へと進化したのです。音楽はみんなで聞いたほうが楽しいですよね。それと同じですよ」

 

 ミニッツリピーターは限られた愛好家のためのマニアックな機構だ。しかし“音を楽しむ”という能力を得たことで、豊かなライフスタイルウォッチへと姿を変えたのであった。

 

 

来日に合わせ銀座ブティック内には音響解析装置を備えたアコースティック・ラボが設けられた。

 

本記事はISSUE12(2016年9月24日発売号)にて掲載されたものです。
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