Budapest with Turkish Airlines
ドナウの都に息づく、静かな美 ―ターキッシュ エアラインズで巡る、冬の東欧① ―
February 2026
成田空港のラウンジで味わったトルココーヒーの芳醇な香りから、旅は静かに始まった。ターキッシュ エアラインズでイスタンブールを経由し、ブダペストとプラハへ──。その航路は想像よりも近く、そして東欧は驚くほど洗練されていた。旅の前半となるブダペストでは、“静かな贅沢”という言葉の本質に出会った気がした。
text nobuhiko takagi
トルコを感じる大型ラウンジ
旅のスタートは、成田空港第1ターミナル南ウイング、サテライト4。ターキッシュ エアラインズの新ラウンジは、異国の香りと静けさが同居していた。2025年2月にオープンしたばかりのこの空間は、約800㎡の広さを誇り、ゆくゆくは1,500㎡へと拡張されるという。ターキッシュ エアラインズではイスタンブールに次ぐ、トルコ国外で最大級のラウンジである。
ラウンジにはソファ席のほか、ビジネスパーソン向きのカウンター席、シャワールームや授乳室、男女別の礼拝室も完備。
ビュッフェには、トルコの名物ピデやロクム、トルコティー。そして日本人に嬉しいカレーや寿司まで揃う。もちろん、シャワールーム、VIPルームも完備しており、ビジネス利用者にも家族利用にも静かに羽を休めるのに理想的な空間となっている。搭乗を前に、香ばしいトルココーヒーを味わいながら、これから始まる東欧への旅に思いを馳せる。
VIPルームは2室あり、会議室としても利用が可能。
イスタンブール経由のフライトは驚くほどスムーズだった。国際線も国内線もターミナルが一体化しているため、複雑な乗り継ぎも不要。「世界で最も多くの国へ就航する航空会社」というギネス記録の名に違わぬ快適さであった。旅の序章から、ターキッシュ エアラインズ流の“おもてなし”を感じた。
ドナウの輝きと迎賓の夜
ブダペストに到着すると、東京とは2、3段階ほど冷たい冬の空気が頬を打つ。それが旅への高揚感へとつながっていく。宿泊先は、セーチェーニ鎖橋を望む、「フォーシーズンズ・ホテル・グレシャム・パレス」。1906年に完成したハンガリー・セセッション様式の傑作建築で、鉄とガラス、幾何学模様のタイルが織りなす美は、さながら芸術作品だった。ロビーには繊細なアイアンワークが連なり、柔らかな光が床に反射する。そこで煌めきを放つのは、大きなクリスマスツリーと、その前で踊るバレリーナの衣装。ここでの滞在そのものが、芸術鑑賞の時間となる。
ブダペストのフォーシーズンズは、世界の中でも建築もサービスも立地も良いと評判。
訪れたクリスマスシーズンにはロビーにクリスマスツリが飾られ、バレリーナのパフォーマンスも見られた。
夜はドナウ川に浮かぶ船上レストラン「Spoon the Boat Restaurant」へ。ライトアップされた王宮の丘を眺めながら、フォアグラやテンダーロインステーキに舌鼓を打つ。デザートとともに注文したのは、世界三大貴腐ワインのひとつで、ハンガリーの名ワイン「トカイ」。ハチミツのような金色の輝きが、ブダペストの夜景の色と共鳴していた。
船上レストランはドナウ川から王宮の丘を眺められる絶好のロケーション。
ヨーロッパの多くの都市が均質化していくなかで、ブダペストの光景は圧倒的に独特で、中世の街並みを色濃く残していた。建築も街も、人々の意識までもが、美の秩序を保ちながら静かに呼吸している。
文化再生の現場──リゲット・ブダペスト計画
翌朝、フォーシーズンズの素晴らしい朝食を満喫。朝から再びフォアグラという、この上なく贅沢な背徳感。隣の席では誰にも気づかれずにハリウッドスターがひとりで優雅に朝食を摂っていた。窓から眺めるドナウ川の景色を、名俳優と共有できたという満足感に浸りながら、いよいよ街へと繰り出す。
クラシックな設えが美しいフォーシーズンズの朝食会場。
訪れたのは、英雄広場に隣接するヴァーロシュリゲット(市民公園)。ここはヨーロッパ最大級の文化インフラ開発エリアで、「リゲット・ブダペスト」というプロジェクトが進行中。約100ヘクタールの広大な敷地に、美術館、博物館、音楽施設、温泉施設、動物園、スケートリンクなどが並ぶ。東京でいうと上野や神宮外苑に近いだろうか。都市の未来と芸術が融合する“文化都市の実験場”なのである。
ヴァーロシュリゲット(市民公園)にあるセーチェーニ温泉。温泉施設と思えない19世紀の建築。
2022年に開館した、森の中に佇む「音楽の家」は、藤本壮介氏による設計だった。全面ガラス張りによって自然と溶け合うこの空間では、音楽にまつわる展覧会・常設展のほか、さまざまなジャンルのコンサートが行われているらしい。まるで「音楽を森に返す」という思想を体現しているかのようだった。
ヴァーロシュリゲットの森の中に溶け込むような「音楽の家」。
「民族学博物館」は、地中に沈み込むようなフォルムのユニークな建築で、土地の記憶を静かに抱え込むように建っている。都市計画の詳細についても展示されており、古都が未来へ呼吸をつなぐための新しい鼓動を感じられる。ブダペストという都市が“文化”を通して再生していく、その瞬間を垣間見た気がした。
上空から見ると民俗学博物館のユニークな建築がよくわかる。
街歩きとオペラ、優雅な午後
ランチは、いま世界各地で注目を集めている「タイムアウト・マーケット ブダペスト」へ。ミシュラン掲載店を中心に、伝統的なハンガリー料理店、地中海料理店、アジアン料理店など約20店舗が並ぶ洗練されたフードコートである。前菜、メイン、ドリンク、デザートすべて異なる店で注文できる自由なスタイルで、一人旅にも家族旅行にも便利。若者を中心に地元の人々も多く訪れており、ブダペストの日常のエネルギーを感じられるエリアにある。
昨年、大阪にも開業した「タイムアウト・マーケット」。メディアの編集者が今ホットなレストランを厳選。
ブダペスト観光の目玉のひとつとして欠かせないのが、2022年に大規模改修された「ハンガリー国立歌劇場」。19世紀ネオルネッサンスの建築は歴史的価値が高いが、かつては貴族の社交場として機能し、その文化的価値も感じられる。約25mの高さにある天井画や煌びやかな装飾に囲まれた舞台は圧巻。まさに芸術の殿堂である。
豪華絢爛な国立歌劇場。装飾や絵画は思わず息を呑むほど美しい。
午後は「Párisi Passage Café & Restaurant」でコーヒーブレイク。アール・ヌーヴォー装飾が美しい吹き抜けの空間で、音楽家たちによる生演奏が流れる人気のカフェ。ドボシュトルタやエステルハージィトルタといった伝統菓子を頬張りながら、19世紀のカフェ文化の豊かさに触れる甘美な時間が流れる。街を包む空気には、確かな品格と温度が感じられた。
天井の高い吹き抜け空間で、生演奏を聴きながらクラシックなカフェ文化を楽しめる。
ホテルへ戻る途中に訪れたのは、旧市街の中心地にある「聖イシュトヴァーン大聖堂」。ハンガリー王国の初代国王イシュトヴァーン1世にちなんで名づけられた、ブダペストを代表するランドマークで、ハンガリー国会議事堂と並んで最も高い建造物である。この荘厳なドームに、ハンガリー初代国王イシュトヴァーン1世の右手の聖遺物(ミイラ)が安置されている。大聖堂の周辺ではクリスマスマーケットが開かれ、グリューワインの香りとともに、聖と俗、静寂と賑わいが美しく交錯していた。
ブダペスト観光のハイライトのひとつ、聖イシュトヴァーン大聖堂は、事前予約が必要。
クリスマスシーズンは大聖堂周辺にクリスマスマーケットが広がる。
王宮の丘に立つ、歴史の記憶
翌日はドナウ川の反対側、王宮の丘へと向かう。この丘全体がユネスコの世界文化遺産に指定された、ハンガリーの歴史を感じられる美しい場所だ。現在は、19世紀末からの姿を再現する大規模な復元プロジェクトが進行中で、破損した建物の修復や石畳の再整備が進み、往時の王宮建築やマーチャーシュ教会、漁夫の砦などが少しずつその姿を取り戻しつつある。
修復の進む王宮には美術館や博物館、庭園など見どころが盛りだくさん。
丘の上から眺めるドナウ川と国会議事堂の光景は、この街が長い歳月を経てもなお、美を誇りとして守り続けてきたことを静かに物語っていた。ブダペストでは、過去は懐古の対象ではなく、現在とともに息づくもの。それこそが、この都市が放つ格調の源なのだろう。
王宮の丘から眺めるブダペストの街並み。言葉を失う美しさだ。
丘を下りた後は、「IDA Bistro」でランチをとった。ハンガリーの食文化を現代的に再構築したレストランで、伝統的なグラーシュ(煮込み料理)やシュニッツェル(カツレツ)といった料理が目玉。繊細なソースやハーブの香りを効かせ、クラシックでありながらモダン、重厚でありながら軽やか──そのバランス感覚は、この都市そのものを映しているかのようだった。
クラシックな味を洗練された形で再解釈し、エレガントさとカジュアルさを融合させた人気のレストラン。
ブダペストの魅力は、派手な観光資源ではなく、“美意識が生きている街”であること。建築も音楽も美食も、時を重ねながら成熟していく。その魅力は、今なお進行する都市の再生プロジェクトによって、さらに磨かれ続けている。華やかさよりも、知的な静けさを湛えた光景に、この街の豊かさと穏やかな気品を見た。
ドナウ川の向こうに見える国会議事堂もまた、この都市のランドマークのひとつ。
取材協力:ターキッシュ エアラインズ、Visit Hungary



























