Brioni - CEO MEHDI BENABADJI —Interview—
THE TALENTED MR.BENABADJI

サルトリアルの世界は、才能より情熱

November 2022

ブリオーニがローマで創業してから3/4世紀。このブランドは、イタリアの首都を代表するサルトリアルを提供し続けている。そのCEOは、いかにしてブランドを導いて行くのだろうか?メディ・ベナバジに、その哲学を語ってもらった。

 

 

 

text scott harper

 

 

 

Mehdi Benabadji/メディ・ベナバジ

ブリオーニCEO。コンサルタントとしてさまざまなラグジュアリーブランドに関わった後、2003年にケリンググループに入社。ブリオーニがグループの傘下になった11年以来、ブランドの戦略および開発ディレクターを務めた。まさにブランドを熟知している男だ。直近では最高執行責任者(COO)としてグループのロジスティクスや生産管理の責任者を務めていた。

 

 

 

 

 ローマを代表する事物を挙げてみよう。音楽なら作曲家オットリーノ・レスピーギの『ローマの松』(1928年)、映画ならフェデリコ・フェリーニ監督の『甘い生活』(1960年)だろう。そしてサルトリアルの世界では、老舗ブランド、ブリオーニの右に出るものはないであろう。

 

 1945年、テーラーの巨匠ナザレノ・フォンティコリとビジネスパートナーのガエタノ・サヴィーニによって設立されたファッション・ハウスで、1952年にフィレンツェのピッティ宮殿で史上初のメンズファッションショーを開催し、その7年後にはプレタ・クチュールという新しい概念を打ち出した。

 

 ブリオーニが歩んできたサルトリアルの足跡は、新しく発売された書籍『Brioni: Tailoring Legends』(出版元:Assouline)で詳しく紹介されている。ファッション史家のオリヴィエ・サイヤールが執筆し、小説家のブレット・イーストン・エリスが序文を寄せているこの本では、ブリオーニがいかにしてノーベル賞受賞者、国家元首、ラップスターたちの御用達ブランドとなったかが綴られている。

 

 当然ながら、長年にわたる映画界への関わりにも触れている。昨年は、ブラッド・ピットとのコラボレーションによる7ピースのカプセル・コレクションを発表し、話題を呼んだ。現CEOのメディ・ベナバジがブリオーニに入社したのは、2020年の初頭のことだった。それまで彼は、ルイ・ヴィトン、ベルルッティ、エルメス、そしてブリオーニの親会社であるケリングで、長きにわたってマーケティングを担当していた。彼のミッションは、この困難な時代に、ブランドの輝きを取り戻すことだ。ベナバジは、この仕事にどのように取り組んでいるのだろうか。

 

 

ファッション史研究者のオリヴィエ・サイヤールが執筆し、小説家のブレット・イーストン・エリスが序文を手がけた『Brioni: Tailoring Legends』。ブリオーニの傑出したヘリテージを、貴重な資料やオリジナルのアーカイブ写真とともに紹介している。約28×35.6×5cm

 

 

 

 

―今回発売された本について教えて下さい。

「私たちが何者であるかを説明し、卓越したサルトリアルについて語ることは大きな喜びです。そこで、卓越したテーラリングとヘリテージ、そして1950年代から続く映画との深いつながりを紹介する本を出版することにしたのです」

 

 

―映画とブリオーニのつながりとは?

「名作『甘い生活』でマルチェロ・マストロヤンニが着用したローマ風スーツはあまりにも有名ですが、私たちと映画界との関係はそれだけにとどまりません。イタリアのチネチッタ・スタジオ(ローマ郊外の映画撮影所)ブームの際は、多くの有名俳優が映画制作のためにローマを訪れ、ブリオーニの顧客となったのです」

 

 

―最新のキャンペーンでは、ジュード・ロウとその息子ラフ・ロウを起用していましたね?

「父と息子の間に存在する本物の絆を描きたかったのです。そして、ジュードとラフ・ロウ(2020年の短編映画『The Hat』で共演)は完璧でした。彼らは、父と息子という関係を超えた友情で結ばれていました。まるで相棒のような……。キャンペーンの撮影では、まるでスパーリング・パートナーのように、お互いにやり取りをしていました」

 

 

 

ブランドアンバサダーのジュード・ロウとその息子ラフ・ロウを起用した2022年春夏広告キャンペーン。ロンドンでクレイグ・マクディーンによって撮影され、ジュード・ロウとラフ・ロウ親子が2人揃ってステージに立つ初めての作品となった。ビジュアルと動画では、ふたりの表現へのこだわりや情熱、自然な親密さが捉えられている。

 

 

 

―ブリオーニの年齢ターゲットは?

「ブリオーニのスタイルに年齢は関係ありません。エレガントでスタイリッシュであることに年齢的なボーダーはなく、ジュードとラフはそれを完璧に体現しています。それぞれの着こなしは個性的で、自分なりの素晴らしい“ツイスト”があります」

 

 

―パンデミックの影響はどんなものでしたか?

「パンデミックによって、人々はこれまで以上にイージーな服を求めるようになりました。スーツにも新しい着心地が求められています。しかしこれはブリオーニにとってアドバンテージとなり得ます。なぜなら私たちは常に着心地のよさ、軽さを追求してきたからです。私たちのジャケットは、決して肩にずっしりとした重みを感じさせるようなものではありません。先日、ミラノで発表した“ジャーニー”というスーツは、エラスティック・ウエストで快適でありながら、着る人を美しく見せるものです。見た目と着心地のよさを同時に実現しているのです」

 

 

 

 

 

 

―ブリオーニに入社したときの気持ちは?

「ブリオーニにCEOとして参加したときは、まるで里帰りしたような気分でした。私はすでに2012年から2015年までこのブランドで働いていましたが、当時はケリング・グループに買収されたばかりでした。買収のプロセスに携わり、ブランドがグループにうまく溶け込めるようにしたのです。このメゾンに対する私の情熱は、決して消えることはありません」

 

 

―ブランドとして大切なことは?

「トレンドを気にすることは大切ですが、常に原点に立ち返ることも必要です。それはもちろんローマン・エレガンスです。これはいつの時代も、自由な感覚で身につけることができます。デザイン・ディレクターのノルベルト・スタンフルは、クリエイティブでありながら、クラシックでもある新しい着こなしを提案しています。ノルベルトが目指すのは、控えめで、着る人をリラックスさせ、自信を与えるエレガントな服です」

 

 

―歴代のアンバサダーについて教えてください。

「アンバサダーの多くは、すでにブリオーニを着用していた有名な俳優たちです。クラーク・ゲーブルやジョン・ウェインなど……。私たちは彼らに特別な機会やイベントのための衣装を提供し、友人になりました。独自のスタイルを持ち、着飾ることを楽しみ、素晴らしいパーソナリティを持っていた人々です」

 

 

 

ブリオーニの2022秋冬コレクションより。ブラウン系でまとめたカジュアル・スタイル。

 

 

 

 

―いま人々が服に求めているものとは?

「厳選された価値ある逸品を買う。それが人々がますます求めているものです。私たちのお客さまは、ファストファッションよりもスローラグジュアリーを好まれています。パンデミックは私たちのビジョンを変えるものではなく、スタイルを再確認するものでした。ブリオーニの服は長く愛用できるように考えられています。お客さまは職人技や品質を高く評価してくださっていますが、同時にモダンなカットや完璧なフィット感、着心地のよさも求められています」

 

 

―レジャーウエアのラインが充実してきていますね?

「レジャーウェアはブリオーニが特に力を入れているものです。なぜなら私たちはお客様に、ウィークディと週末におけるすべてのワードローブを提供したいと考えているからです。サルトリアルの専門知識をレジャーウェアに取り入れています。私たちのDNAは、コレクション全体に存在しているのです」

 

 

―今回のパンデミックについて、どう考えますか?

「どんなに優秀なビジネスリーダーでも、今回のパンデミックを予想することはできませんでした。こういった事態においては、レジリエンス(復元力)が大切です。いかに素早く適応するかということです。曖昧さを受け入れ、物事を完璧にコントロールするという考えを捨てなければなりません。そして、自分の価値観で前進し、新しいチャレンジに対してチームを鼓舞していくのです」

 

 

―経営上のポリシーは?

「これまで受けたアドバイスの中で、最も優れたものは、“会社の資金は自分のポケットマネーと同じように管理しなさい”というものです。父からは、“どんな道を選んでも、自分の信念を貫けば、物事はうまくいく”というアドバイスをもらいました。私は他人と自分を比較しないようにしています。人にインスパイアされることは多々ありますが、基本的に人間はそれぞれ違う存在です。勇気と誠実さこそ、この世で一番大切なものだと思っています」

 

 

―何かご趣味はありますか?

「音楽を演奏することは、最高の気分転換です。他のメンバーと一緒にいいバランス、ヴァイブを見つけることがとても楽しいのです。これまでにもらった最高のプレゼントは、チーム全員のサインが入ったベースギターです。これはとても感動的な体験でした。私はどんな分野でも、才能よりも情熱が大切だと信じています」