Frédéric de Narp Interview
日本人より日本を知る男
April 2017
バリーCEO
フレデリック・ドゥ・ナープ氏インタビュー
Frédéric de Narp フレデリック・ドゥ・ナープ
フランス・ブルターニュ出身。1991年、日本においてカルティエ・インターナショナルのセールスアソシエイト(販売員)からキャリアをスタートし、25歳の若さにて、フラッグシップであった銀座店の店長に抜擢された。スイス、イタリアにて上級管理職を歴任した後、カルティエイタリア支社のCEOに就任。2005年にはカルティエ北米支社のCEOとなった。その後ハリー・ウィンストンに移り、業績好転に貢献するなどし、2013年よりバリーのCEOに着任した。現在はロンドンに妻と7人の子供とともに暮らしている。
「初めまして。こんにちは。日本は大好きな国なのです。私は日本から、多くのことを学びました」
驚くほど流暢な日本語を操るのは、バリーのインターナショナルCEO、フレデリック・ドゥ・ナープ氏だ。西洋人の外見を持つ氏が、まるで本当の日本人のように日本語を話すので、こちらが混乱してしまうほどだ。生まれはフランス、ブルターニュだが、17歳のときに日本のことを知って以来、この国に首ったけなのだという。
「最初は一介の販売員でしたが、23歳のときに池袋西武店のディレクターとなって、24歳で副店長として本店に戻り、25歳で本店の店長になりました」
これは当時としても、異例のスピード出世である。どうすれば、そんなことが可能だったのだろうか?
「店頭販売においては、お客様に『私は大切にされているな』と感じてもらうことが大切なのです。だから日本人のお客様のことを一生懸命ケアしましたし、またお客様も私のことを好きになってくれました」
もうひとつの秘密は、少林寺拳法で培った、礼節の精神だったという。
「日本にいる間は、少林寺拳法の道場へ通っていました。少林寺拳法では、強さと同じくらい礼儀も重んじる。そこで学んだことは、強い弱いに関わらず、同じ人間として、相手をレスペクトすることです。販売においては、礼を持って相手に接することは、とても大切なことです」
そんなドゥ・ナープ氏は、現在では、スイスきってのラグジュアリー・ブランド、バリーのCEOを務めている。最高品質の靴や鞄、革小物で知られるバリーは、欧州でも指折りの老舗である。
「バリーの創業は1851年。メゾン・ブランドとしては、あのエルメスに次ぐ古い歴史を持っています」
バリーのトップとしての地位を打診されたときは、その歴史と過去の遺産をすべてじっくりと見せてもらった上で、入社を決意したという。
「バリーのアーカイブは素晴らしいの一言です。中でも有名なのは、1953年に、エドモンド・ヒラリー卿と共に初めてエベレストに登ったシェルパのテンジン・ノルゲイが履いていたブーツです。それはバリーが作ったものだったのです。このようにバリーは、単なる老舗というだけではなく、常に新しいことに挑戦するパイオニアでもありました」
そのチャレンジ精神は、現在のプロダクツにも生かされている。
「バリーは大規模なR&D(研究開発)部門を持っていて、常に新しいことに挑戦しています。例えば、今日私が履いている靴を見て下さい。このソールはわれわれが最近開発したもので、グッドイヤー製法の靴のソールとしては、世界で最も軽いものです」
バリーのパイオニア精神は、製品のみならずストア・デザインにおいても培われている。
「バリーは昔から、多くの建築家とコラボレーションすることで有名でした。古くはマルセル・ブロイヤーやル・コルビジェ、そして現在ではデヴィッド・チッパーフィールドなど、常に超一流のアーティストたちを起用してきました」
ちょうど一年前、銀座・数寄屋橋の交差点、東急プラザ内にオープンしたフラッグシップショップをデザインしたのも、チッパーフィールドだ。バリーとしては世界最大の売り場面積を持つ同店は、銀座の人の流れを変えたとまで言われた。
「入店客数は以前の銀座店と比べて3倍になりました。4月20日には、(銀座・松坂屋跡地の)ギンザシックスにも新しいストアをオープンさせる予定です。われわれは、東急プラザとギンザシックスのどちらにもショップを持つ、唯一のブランドとなりますね」
ドゥ・ナープ氏にとって、日本はそこまで力を入れるに相応しい、重要なマーケットだという。
「私は日本で成功することに、とてもこだわっています。なぜなら日本は、世界でもっとも洗練されたマーケットだからです。日本人は本当にセンシティブで、素晴らしい感性を持っている。だからもし日本で成功することが出来れば、その方法論は、中国など他の国々でも、必ず通用するはずです」
日本で販売員をしていた経験が、いま大いに役立っている。
「規律、品質、そして成し遂げるための努力、それが日本で学んだことです。大切なことは、お客様とコネクトする(=繋がる)ことですね。お客様は単なるモノではなく、自ら経験できる“コト”を欲していると思うのです。それを提供するのが、われわれの仕事です。自信をもっておすすめしたいのは、メイド・トゥー・メジャーのシューズです。お好きなデザイン、素材、カラーで、唯一無二の一足を作ることが出来ます。アジア圏で体験できるのは、銀座店のみですから、ぜひ足を運んで頂きたいと思います」
ドゥ・ナープ氏話していると、誰もがその屈託のない笑顔の虜となる。エグゼクティブとして頂点を極めるためには、単に仕事が出来るだけではなく、人間的魅力に溢れていることも重要だ。そして、そんな人としての魅力は、充実したプライベートからもたらされているに違いない。
「私には7人の子供たちがいます。今どき7人は多いですか? でもたくさんいたほうがにぎやかでいいですよ。週末は乗馬をして、ビリヤードに興じ、日本産のウィスキーを飲む。それが私のプライベート・ライフです」
インタビューを当日は、折しも東京において桜が満開であった。「まさか、桜シーズンに合わせて来日したわけではないですよね?」と問うと、
「もちろん毎日国際電話をして、サクラの開花を確認していましたよ(笑)。日本にいた頃は、花見パーティがなによりの楽しみでした。日本のサクラは、パッと咲いて、パッと散る。まるでサクラは『人生は短い、だからこそ人生を楽しむべきだ』と教えてくれているようです」と。
ドゥ・ナープ氏は、日本人以上に日本人のことを理解している。そんな人物がCEOとして率いる、バリーから目が離せないといえよう。