AUCTION REPORT Vol.2
オークションレポートVol.2
フィリップス:倉俣史朗の作品
December 2022
連載2回目は、ここ数年で話題のオークションを数多く手がける「フィリップス」に注目。近年関心が高まっているという日本人アーティストのなかでも世界中のコレクターたちから根強い人気を誇る倉俣史朗の作品を紹介する。
Image courtesy of Phillips
世界的にも有名な倉俣史朗の代表作《ミス・ブランチ》(1988年)。デザイン史に残る傑作としても高く評価されている作品だ。世界に56脚のみ存在。いずれもハンドメイドのため、花の位置がわずかに異なる。こちらは2020年6月にロンドンで開催された「デザイン セール」に出品されたもの。250,000ポンド、日本円にして約4000万円で落札された。
1796年にイギリスで誕生した「フィリップス」は、世界の主要オークションハウスのひとつだ。同社のデザイン部門のキンブリー・ソレンソン氏によると、現代陶芸家の深見陶治や辻村史朗をはじめ、Taichiro Nakaiや吉岡徳仁などの日本人アーティストへの関心が高まってきており、なかでも倉俣史朗の作品は根強い人気があるという。過去のオークションでは予想落札最高値を上回ることも多く、昨年出品された《ハウ・ハイ・ザ・ムーン》は、予想の約2倍もの落札価格を記録したほどだ。
倉俣史朗は1960年代から90年代にかけて、店舗などの空間や家具のデザインを手がけて活躍した人物。1991年に56歳という若さでこの世を去った。ソレンソン氏は彼の人気についてこう語る。
「倉俣史朗の作品がオークションで人気を博し始めたのは、90年代後半に、現代美術のコレクターが近現代デザインの収集をし始めた頃です。死後10年弱経っていたその時から今に至るまで、その関心は衰えていません」
ソレンソン氏は続ける。
「国際的に評価されています。彼が生前、イタリアのデザイン集団『メンフィス』のメンバーとして活躍していたことも関係しているでしょう。しかしそれ以上に、彼のデザインの特徴であるウィットや詩情、繊細で独創的な素材使いは、国境を超えて受け入れられているのです」
《ハウ・ハイ・ザ・ムーン》。1986年にデザインされ、寺田鉄工所によってイデー(IDÉE)のために製造された。ふたりがけ用。銅製。2021年6月にロンドンで開催された「デザイン セール」で、予想落札額の約2倍となる£63,000(およそ1000万円)で落札。
《カビネ・ド・キュリオジテ》は1989年にデザインされた作品。倉俣が本格的に色付きのアクリルを作品に使用し始めた頃のものとされる。写真は2020年の7月にニューヨークで開催されたオークションに出品されたもの。£32,500(およそ400万円)で落札された。フィリップスでの歴代最高落札額はUS$98,500。
《硝子の椅子》(1976年制作)。写真は2021年6月の「デザイン セール」に出品されたもので、予想落札額をはるかに超える結果となった。£88,200(およそ1100万円)で落札された。人気の作品であるがゆえ、これまで何度か出品されてきたが、同作品における歴代最高落札価格は2006年12月に開催されたオークションで記録した9万米ドル。
1991年に発表された《ラピュタ》は倉俣の遺作となった作品。代表的なモチーフである「スターピース」のシルクがカバーに用いられている。2012年12月にニューヨークで開催された「デザイン マスターズ」にてUS$98,500(およそ1250万円)で落札された。