ARMANI / RISTORANTE AND SUSTAINABILITY

アルマーニ / リストランテが挑む
食のサステナビリティ

July 2022

「ロスフードメニュー」の展開をきっかけに、日本の農業や食、地球環境に深い関心を抱き、食材を扱う立場としての使命を再考したアルマーニ / リストランテ。

そして、再度新たなチャレンジを始動した。

 

 

text chiharu honjo

 

 

 

 

 

 アルマーニ / リストランテといえば、エグゼクティブシェフのカルミネ・アマランテ氏がイタリア版のミシュランガイドと称される『Gambero Rosso(ガンベロ ロッソ)』において、世界でひとりだけに贈られる「Chef of the year(シェフ オブ ザ イヤー)」の栄誉に輝いた事が記憶に新しい。さらに、日本で2軒しか獲得できなかった3フォーク(最高評価)も達成。ダブルで受賞という快挙を成し遂げた、名実ともに最高級のイタリア料理が堪能できる場所である。

 

 そんな至高のレストランがフードロスバンクとタッグを組み、社会が抱える問題をクローズアップした新メニュー「サステナビリティ」を発表した。今やサステナビリティという言葉が当たり前となりつつある中、カルミネ氏はただ時代の潮流に乗ったわけではない。昨年フードロス食材を主役としたコースを開発した際に、日本の農業や食材、地球環境に多くの課題があることに気づき、そこに自らが一石を投じることで発信できることはないか考えた結果だという。

 

 

 

 

 数ある課題のなかでも特にカルミネ氏が注目したのは、米の需要低下により多くのロスが生じている「日本米のサポート」、食材探しの旅で出会った魅力あふれる食材を救う「地方のサポート」、そして見た目の問題で出荷ができず廃棄されてしまう「フードロス食材のサポート」だ。

 

 今回のコースは北陸地方にクローズアップし、コース内で使われるメインの食材はすべて北陸産のもので統⼀。料理を通して地方のパワーと豊かな可能性を伝えるべく、季節ごとにエリアを変えて日本各地の魅力あふれる食材を世界に発信していく予定だという。また、調達した食材はすべて無駄にしないよう工夫がなされており、いつもなら廃棄する野菜の切れ端なども出汁として使用するなど、徹底した「ゼロロス」を実現している。

 

 

 

 

 初めに運ばれてきたのは、20種以上のフレッシュな旬の野菜でつくられる「高農園のサラダ」のアミューズ。訪れる日により野菜が異なる「⼀期⼀会」の一皿で、パセリを使ったサルサヴェルデソースを絡めていただく。化学肥料を使わずに伝統野菜などを栽培する「NOTO 高農園」の野菜は、畑に無理のない輪作栽培で育てられており、とにかく甘くて美味しい。フォークではなくあえて箸を使って食べることで、豆や葉、筍などの感触が手に伝わり、ひとつひとつの野菜を楽しみながら味わえるようになっている。

 

 

 

 

 前菜は福井県のプライドフィッシュであるハマチを使用した「スモークハマチ」。プライドフィッシュとは各都道府県の漁師が推奨する魚介類を指すが、そのハマチをスモークして旨味を閉じ込めスライスしたラディッシュで巻いた、鯉のぼりのように華やかな一品だ。暑さが増す季節にさわやかな酸味を感じるセビーチェソースが食欲を刺激し、白ワインとよく合う。こちらのハマチは、サイズが小さくて食用にならない「未利用魚」をできるだけ獲らない特別な定置網で水揚げされたものだけを使っており、生態系にも優しい配慮がなされている。

 

 

 

 

 ナポリの伝統的なパスタ「パスタ エ ピゼッリ」からインスピレーションを得た「スナップえんどうのリゾット」は、カルミネ氏渾身の1皿。トップにはオーガニック卵の卵黄を45℃のオリーブオイルに1時間漬けた後さっと湯通ししたという、濃厚な味わいのポーチドエッグをトッピングしており、日本の卵かけご飯を思わせる必食の逸品だ。いつもはイタリア米を使うが、今回はリゾットに合う新潟県産米を厳選して配合した「れすきゅう米」を使用。リゾットの楽しみでもあるアルデンテの食感を実現するために何カ月も試作を繰り返し、火入れの時間や煮詰める加減を工夫することで見事なアルデンテを楽しめるリゾットを作り上げた。

 

 

 

 

 メインには「鰆の炭火焼き クレソンソース」が登場。ハマチと同様、福井県のプライドフィッシュである鰆をマリネし炭火で焼いた後、藁焼きで香ばしく仕上げたもので、ナイフを入れるとほんのり桜色の鰆が現れる焼き加減はさすがである。クレソソースは、アスパラガスの切れ端部分でとった出汁にエシャロット、ポロネギ、クレソンを合わせており、鰆との相性が素晴らしい。

 

 時間があれば会席料理店などにも足を運び、さまざまな味を探求しているというカルミネ氏。地方へ行った際に郷土料理からインスピレーションをうけることも多く、和食の技法や旨味、出汁を取り入れることでイタリア料理の中にも和のテイストを感じる味を生み出している。

 

 

 

 

 福井県フィールドワークス産の「とみつ金時」を使用したプレドルチ。なつかしさを感じさせるスティックタイプのアイスキャンディは、とみつ金時のアイスクリームとベルガモットのシャーベットでつくられた上品な大人の味だ。イタリアのスーパーでは、サイズの異なる野菜が当たり前のように並んでいるが、日本では規格外の野菜は捨てられてしまう事実に衝撃を受け、味は素晴らしいが形や大きさの異なるとみつ⾦時を使用している。

 

 

 

 

 石川県の紅ほっぺと福井県産の黒龍の酒粕を使った、見目麗しいデザート。不揃いな苺のピューレをシャーベットにしたものと、酒粕を使ったジェラートを中に忍ばせてあり、苺の酸味とほのかな酒粕の香りが漂う、さっぱりとしたテイスト。苺はマイクロ水力発電によるクリーンな再生可能エネルギーを利用している「いちごファームHakusan」の苺を使用している。

 

 サステナビリティを巡るより高い水準の取り組みが求められている今、未来を見据えた食と農にエグゼクティブクラスは向き合っていかねばならない。いつものカルミネ氏の料理とはひと味ちがうコンセプトのコースで、食のサステナビリティを見て聞いて味わうことにより、さらなる理解を深めたい。