Arctic Blue Gin

フィンランドの自然をボトルに詰めた
こだわりのジンが日本初上陸

December 2019

 

text mackey makimoto   photography tatsuya ozawa

 

 

そのジンには、命があった。

 

無色透明な液体をグラスに入れる。

 

そして氷を落とす。

 

どこまでも透き通った液体は、夜の照明を透過しながら光り輝く。

 

1分、2分、時が経過していくとどうだろう。

 

無色透明だった液体に、青色が刺してくるではないか。

 

透明なことはそのままに、うっすらと青色を帯びてくる。

 

それは、北極のオーロラのようでもあり、白夜に照らされた氷山の影のようであり、妖精の羽根のようでもあり、とてもはかない。

 

味わいも変化していく。

 

最初の一口は、キリリとシャープで、ジュニパーベリー特有である、針葉樹の香りが広がる。

 

しかし氷を入れたジンが冷えていくと、ほのかな甘みが現れ、広葉樹やベリーの香りなどが感じられるようになっていくではないか。

 

色合いも、香りも、味わいも変化していくのである。

 

 

ジンの名前は、Arctic Blue Ginという。

 

フィンランドで作られ、日本でも発売されることになった。

 

フィンランドに渾々と湧き出る、ピュアな雪解け水を使い、豊富に自生しているビルベリー(ワイルドブルーベリー)を加えて作るのだという。

 

フレーバーとして、ジュニパーベリー、ビルベリー、ビルベリーの葉、スブルース(マツ科の常緑高木)、カルダモン、コリアンダーシード、フェンネルシードが入れられている。

 

フィンランドに来る観光客の一番の目的は、自然であり森であり、湖である。

 

ならばフィンランドの自然を閉じこめたジンは、できないのだろうか?

 

朝露の中、フィンランドの森に足を踏み入れる。

 

その時に感じる神秘的な香りを閉じ込めることはできないだろうか?

 

このジンの発想に基づき掲げたテーマは、「世界で最も素晴らしいジンとしての称号を得ない限り、発売はしない」ということだったという。

 

そのためにエキスパートを集め、量より質を追求して始まったが、高い目標を掲げたがために、三回倒産の危機を迎えたほど、理想のジン作りの道は険しかった。

 

1200回の試作を繰り返していたときに、新たな蒸留方法を開発すべきだと気づいたという。アルコール臭を取り除くと、一緒に香りも失ってしまうのである。そこでさらに世界から専門家を呼び、ようやく2017年に新しい蒸留方法を生み出したのだという。

 

作られたジンは、見事2018年の「世界スピリッツアワード」でダブルゴールドを受賞、ヨーロッパのスピリットとしては、初めてアメリカで行われるコンテストで優勝した。

 

そんな素晴らしいジンが日本に上陸する。

 

発売の決意を、副社長のミコ・スプーフ氏に聞いた。

 

 

Arctic Blue Gin副社長のミコ・スプーフ氏

 

 

「日本とフィンランドには恵まれた自然、美しい水など、共通点がたくさんあります。ですから、必ずやこの繊細な風味を理解してくれるであろう確信があります」

 

フィンランドは、20万近い湖があり、国土の80%が湖と森という国である。

 

自然との接触が、いや自然の中で過ごすことが日常となっている。

 

日本も多くの湖があり、約70%の森林率という、森と水の国である。

 

このジンは、日本料理に初めて寄り添うジンになるかもしれない。

 

もうひとつのテーマにしているのは、「北極にある日常」である。

 

厳しくも、すべてにおいて純度が高く、原始的で純粋な土地と水から生まれし恵みを目指して、作られているのだろうか。

 

そのことをスプーフ氏に聞くと、意外な答えが返って来た。

 

「温暖化によって、北極の日常はどんどん失われつつある。そこに住む人の日常も奪われつつある。我々はそのことを無視してはいけない」

 

凍土が溶けてバクテリアが漏れ、イヌイットの老人や子供たちに悪影響が出ているほか、かつては犬ぞりで移動できた氷の土地がなくなり、政府がヘリコプターでイヌイットを送っている現状があるのだという。

 

そのために彼らは、ドキュメンタリー映画を作る計画をしている。

 

彼はいう。

 

「温暖化は政治だけの問題ではなく、ビジネスの側面からも考えていかないといけない。それぞれの会社が温暖化を防ぐために何ができるか。私たちは北極を守りたい、北極の純粋性を守りたい。そのために利益を作りながら、それらを防ぐ活動をしていきたい」

 

“北極の日常”とは、純潔で汚れのない自然をボトルの中に詰めたという意味だけではない、北極の日常を守り続けたいという意思も込められていたのである。

 

 

 そのことを胸に刻み、Arctic Blue Ginを再び飲んでみる。目を閉じると、森の精気が体の中に入って来て、浄化される。自分が踏みしめる葉っぱの音しか聞こえない森の中で、生きている実感を噛みしめているような体感がやってくる。まさに“飲む森林浴”といえよう。

 

 フィンランド人がよく使う言葉に、「黙って楽しみましょう」という言葉があるという。Arctic Blue Ginを飲むときは、静かに、ジンと自分と向き合うのがいい。そうしてやがて自分中に芽生える森への信頼感、森の中にいて得られる安寧を感じ取る。そう。Arctic Blue Ginは、やはり生きている。

 

 透明な液体の中に生命力が宿っていて、自然への感謝が芽生え、本来の人間の生活を思い出させてくれる力がある。

 

 

Arctic Blue Ginは、シャトーレストラン ジョエル・ロブション「ルージュバー」で提供中。2020年にはレストランやホテルのバー、セレクトストアで販売予定だ。写真は数多くのバーテンダーの世界大会でタイトルを獲得し、アークティック ブルー ジンのグローバル ブランド アンバサダーを務めるミイカ・メチオ氏。

 

 

 

アークティック ブランズ グループ ジャパン

代表ベルナール・サンドロン Tel:080-4458-2001