A QUIET MASTER IN FLORENCE

断言する足元:ビスポークシューメーカー「アキラ タニ」

March 2026

フィレンツェに渡って14年目を迎えた。サンフレディアーノ地区に工房を構え、今や世界中に顧客をもつまでになった。ビスポークシューメーカー「アキラ タニ」の靴は、力強く、ピュアで、一寸の迷いもない。

 

 

text and photography yuko fujita

 

 

Akira Tani/谷 明
1984年、大阪生まれ。2012年、靴職人を志してフィレンツェに渡る。2013年、ステファノ ベーメルに入社して主に底付け職人として経験を積み、2019年に独立。フィレンツェで「アキラ タニ」を始動し、2022年、自身のアトリエをサンフレディアーノ地区に構えた。

 

 

 

 フィレンツェのアルノ川を渡った先、サンフレディアーノ地区に靴職人、谷 明氏のアトリエがある。ウインドウ越しに覗くと、奥で谷氏が黙々と作業している。観光都市の「景色」としてのフィレンツェではなく、生活と仕事の「営み」としてのフィレンツェが浮かびあがる瞬間だ。

 

 谷氏が手がけるアキラ タニの靴は、実に正統なイタリアンクラシックである。だが、個性は強烈だ。ガットも、ランピンも、メッシーナも世を去って工房を閉じた今、イタリアンクラシックの正統の顔を纏いながらひと目で作り手がわかる靴は本当に貴重な存在になった。今、この靴の強さが際立つ。

 

 2012年にフィレンツェへ渡り、SAKを経て、2013年からステファノ ベーメルで経験を積んだ。当時から面識はあったが、谷氏が独立を考え始めた2019年、自宅で取材したのが「アキラ タニ」の靴との出合いだった。取材中であっても、手を動かし始めるとこちらの存在を忘れて作業に没入する。ゾーンに入る、という言葉があるが、彼の場合、まさにそれだ。靴への印象はデビュー時も今も変わらない。力強く、ピュアで、潔く、真っすぐで、明快な靴だ。意匠で盛らず、線と佇まいで勝負している。そこに、孤高の品がある。石畳がどうこう以前に、フィレンツェの時間にすっと馴染む。

 

「フィレンツェのスタイルはこれだって、なかなか言い切れないんですよね。この街の靴作りには自由があるぶん、シューメーカーごとの個性が強く出るんです」

 

 


ジャーマンボックスを使用したスプリットトウエプロンダービー。アキラ タニを代表する人気モデルのひとつだ。 

 

 

仮縫い用のトライアルシューズたち。フィッティングの途中経過が並ぶ。

 

 


優しい人柄も手伝って、多くの人から好かれている谷氏。

 

 

 

 それでも、フィレンツェの靴だ。どこまでもフィレンツェで、フィレンツェの薫りだ。そう感じさせるのは、谷氏がこの街を代表するビスポーク靴職人のひとりとして誰もに認められ、フィレンツェの街にいながら世界中の顧客から支持されているからだろう。6年前と変わったのは、多くのリピーター、海外からの顧客が増えたことだ。絶好調のニューヨークだけでなく、今年からは香港でもトランクショーをスタートするという谷氏に、これからの展望を尋ねてみた。

 

「うーん、一緒に働いてくれる日本人の職人が来てくれたら嬉しいですね(笑)」

 

 


シボの表情が強いフレンチグレインレザー「イングリッシュグレイン」のロングスプリットトウエプロンダービー。こちらも大変人気のある、アキラ タニを代表するモデルだ。

 

 


独立して6年。顧客の木型もかなり増えてきた。ステファノ ベーメル譲りの低いトウから、甲へ向けてぐっと立ち上がるラインが特徴だ。

 

 

ユニークな革が豊富に揃う。上段はグレインレザーとイングリッシュグレイン。中段はチンギアーレとアンテロープ、下段はハッチグレイン。ほかに型押しラマやコードバン、スエードが人気だ。

 

 

Akira Tani
Borgo San Frediano, 100r 50124 Firenze
sumisura@akiratani.com
www.akiratani.com
€2500~。納期は約1年半~。

 

 

『THE RAKE 日本版』Issue68より抜粋