A NARRATIVE SHIFT

ラルフローレンモアハウスカレッジコレクション

May 2022

ラルフローレンは、アメリカで最も権威と歴史のある黒人大学「モアハウスカレッジ」にインスパイアされたカプセル・コレクションを発表した。

その目的は、本物のアメリカンドリームの世界を描くことにほかならない。

photography danny kasirye

text tom chamberlin

all clothing Polo Ralph Lauren exclusively for Morehouse College

フォブチェーンを

アクセントに

20世紀前半を思わせるクラシックな意匠がモアハウスカレッジコレクションの特徴だ。黒人学生たちは端正に装うことで、差別をはねのけようとした。スリーピースのウエストコートにかけられたフォブチェーン（懐中時計鎖）がエレガントさを引き立てる。すべて参考商品 Polo Ralph Lauren

　英国のノーベル賞作家、ラドヤード・キップリングは、「歴史が物語という形で教えられていれば、決して忘れ去られることはない」と述べている。半世紀以上にわたってアメリカの歴史と文化を紹介し続けているラルフ・ローレン氏は、現代におけるストーリー・テリングの巨匠といえる。アメリカのHBOが制作した彼のドキュメンタリー映画『Very Ralph 』（2019年）の中で、THE RAKEの創立者であるウェイ・コーはこう語っている。

「ラルフ・ローレン氏は、ネイティブ・アメリカンやカウボーイ、アイビーリーグなど、あらゆるアメリカの文化に美と気高さを発見しました。彼は何がスタイリッシュかという考えを民主化したのです」

　そして今回、アメリカンカルチャーの真髄を追求した新コレクションが発表された。アメリカで最も権威と歴史のある黒人大学「モアハウスカレッジ」にインスパイアされたシリーズだ。モアハウス大学はアトランタにある私立大学で、その設立は1867年に遡る。当初は黒人男性のためだけの大学で、差別を受けていた彼らに教育の機会を与えることを目的としていた。卒業生にはマーティン・ルーサー・キング牧師や俳優サミュエル・L・ジャクソン、映画監督スパイク・リーなどがいる。

　ローレン氏と卒業生によって構想されたこのコレクションは、大学の豊かな歴史と遺産を生かし、アメリカンドリームに新しい光を当てている。黒人教育の物語を、スタイルによって表現しているのだ。

「ここでは黒人大学の勇気ある歴史、深いコミュニティ、そして時代を超えた着こなしを表現しています」とローレン氏は語る。「大学の活力に満ちたこれまでの歩み、そして時代を超越した装いのレガシーを余すところなく表現しました。大学のデザインの感性を紹介する試みをはるかに超えたものであり、アメリカンスタイルとアメリカンドリームをより完全に、正しい形で共有することにつながります」

　デザインは、1920年代から50年代にかけて、この大学に通っていた学生たちの服装からヒントを得ている。アウターウェアからテーラリングウェア、ニットウェアまでが揃う。学生たちがどのような服を着ていたか、それが大学の伝統にどんな貢献をしていたかを表している。洋服はラルフローレンのファンにも喜ばれるものとなっている。ポロベアセーターやモノグラム・カーディガン、洗練されたスーツなどに加え、ノーフォーク・ジャケットやブリークス（乗馬用の短いトラウザーズ）などの珍しいアイテムも用意されている。このモアハウスカレッジコレクションは、忘れてはならないアメリカの歴史を語っている。まさに物語性とデザイン性に富んだ傑作だといえよう。

レタード・セーターを着た

人気のポロベア

右：丈の短いブリーチズにアイコンであるポロベアのセーターを合わせて。ベアが着ているのもモアハウスカレッジの頭文字Ｍが記されたレタード・セーターだ。左：ブリティッシュ・カントリーを思わせるクラシックなフェアアイル・パターンのセーターをコーディネイトの中心に。すべて参考商品 Polo Ralph Lauren