巨匠たちのヴィンテージ家具を受け継ぐ

Wednesday, May 29th, 2019

text shige oshiro  photography tatsuya ozawa

 

 

1950~60 年代前半に製造されたアントチェア。今では大変希少価値の高いローズウッドを用いた、左右対称の木目が美しい一脚だ。20 世紀を代表する椅子のひとつといえよう。ヴィンテージ。私物。

 

 

 数々の名作家具を生みだし、後世のデザイナーに多大な影響を与え続けるデザインの巨匠たちの作品は、心を豊かにしてくれる。作者のデザインに対する情熱や思い、製作背景、そして彼らの意思を受け継いだ未来の天才達の次なる作品に想いを馳せると、自身の時間に深みさえ与えてくれる。自分にとって特別なヴィンテージ家具だとそれは殊に深い。私にとっての特別な家具はいくつかあるが、今回は北欧が生んだ天才アルネ・ヤコブセンのヴィンテージの一脚を紹介したい。

 

 ヤコブセンが、世界で初めて背座一体の三次元曲面を実現して生まれたこの「アントチェア」を発表したのは1952年のこと。もともとは、デンマークの製薬会社の社員食堂で使う200脚のためにデザインされ、愛くるしいフォルムが蟻と似ていることからこの名前がつけられ、世界中で愛されてきた。

 

 脚、座、背と椅子を構成する要素すべてが緻密に計算され、その細部に至るまで完璧にデザインされている。背のくびれが程よい弾力を生み、心地よく体を支えてくれるため座り心地も素晴らしい。なによりも、特徴的な3本脚は、ヤコブセンの没後まで4本脚のものが製造されなかったことから察するに、彼が特にこだわり抜いたポイントだったのだろう。座る人の足が加わることで安定感を満たすという、彼のトータルなデザインへの情熱とこだわりが感じられる。椅子は、使用してこそ「完璧」なデザインとなることを改めて教えてくれているようである。

 

 とにもかくにも個性的でシンプルなこのフォルムは、実に美しく、愛らしく、無駄がない。誕生から60年以上経った今でも美しさを放ち続ける、まさに20世紀を代表する椅子遺産である。

 

 

Letter from the President とは?

ザ・レイク・ジャパン代表取締役の大城が出合ってきたもののなかで、特に彼自身の心を大きく動かしたコト・モノを紹介する。