VITALE BARBERIS CANONICO × STILE LATINO × BEAMS

ビームス中村達也氏も惚れ込んだVBCのウールリネンギャバジン“RHAPSODY”

January 2025

伊の名門ヴィターレ・バルベリス・カノニコ(VBC)の新作生地「ラプソディ」は、豪華なコラボレーションのもとに生まれた珠玉のウールリネンギャバジン。
text yuko fujita
photography jun udagawa

BEAMS
中村達也 / Tatsuya Nakamura(左)
1963年、新潟県生まれ。ビームスのエグゼクティブ クリエイティブ・ディレクター。バイヤー・ディレクター時代から、品質に対する一切の妥協をせず徹底してこだわる仕事スタイルを貫く。多くのイタリアブランドのレベルを押し上げてきた、真のプロフェッショナル。

VITALE BARBERIS CANONICO
ブルーノ・ランディ / Bruno Landi(中央)
1954年生まれ。大学を卒業後、ゼニア、コロンボ、カルロ バルベラと渡り歩き、現在はVBCの事業開発ディレクター。ビエッラの生地畑ひと筋で50年以上歩み続けている、イタリアが誇る生地界の至宝でもある。この日着用していたスーツはスティレ ラティーノ。

STILE LATINO
ヴィンチェンツォ・アットリーニ/Vincenzo Attolini(右)
1960年、ナポリ生まれ。偉大なチェーサレ・アットリーニの長男に生まれ、9歳からこの世界に入り、17歳でAccademia della Modaのモデリスタとサルトのディプロマを取得。サルトリオ、エリーゴの立ち上げに携わったのち、2005年にスティレ ラティーノをスタート。

THE RAKE VBCの生地の企画を長年見てきて、毎回「その手があったか!」といった感じの斬新な発想に唸らされてきました。そのVBCが今回はヴィンチェンツォ・アットリーニさんと中村さんという超豪華なタッグを組んで臨んできました。それもあって期待値はいつにも増して高くなっているのですが、その中で生まれたウールリネンギャバジン、なかなかのオーラを放っていますね! 仕立て上がった服の雰囲気も素晴らしいです。企画が生まれた経緯を教えてください。

ヴィンチェンツォ ありがとうございます。私のワードローブに20年以上前に英国製のウールリネンギャバジンで仕立てたスーツがあるのですが、長い年月着てきて、その生地の素晴らしさを実感し、さらに今改めてそれがとても新鮮に感じられたんです。そして、同じ生地の服をスティレ ラティーノのコレクションに加えてみたいと、沸々と情熱が湧き起こってしまったんです。ただ、残念なことにそれに近い生地を織っているメーカーは英国にもイタリアにも今日存在しておらず、再現してくれるメーカーを探さなければなりませんでした。ただし、単に努力してやってみます、というのではなく、同等の品質、あるいはより素晴らしくアップデートされた生地を作る必要がありました。そういった状況の中で、情熱をもってこのプロジェクトに取り組んでくれる相手として真っ先に浮かんだのが、私の古くからの友人であり、最も信頼している生地のスペシャリストであるブルーノ・ランディであり、彼が在籍しているヴィターレ・バルベリス・カノニコ社でした。

ブルーノ ヴィンチェンツォとは付き合いがとても長いこともあり、昔からことあるごとに無理難題を私に押し付けてくるんですよ(笑)。でも、それは私の仕事を信頼してくれている証でもありますので、とても光栄なことなんです。頼られたら毎回100%以上の結果で応えたいですし、今回も自ずと気合いが入りましたね。

ヴィンチェンツォ 生地業界に入って50年以上になるブルーノの卓越した経験と頭脳、それを最大限に生かせる今日のVBCの生産背景と開発チームを借りれば、素晴らしい結果が待っていると確信していました。ただ、私が気に入っている英国のヴィンテージファブリックのアイリッシュリネンギャバジンはウェイトが非常に重たく、そのままでは今の時代には不向きに感じました。タッチや風合いを損ねることなく、でもライトウェイトにして、かつ英国っぽい色合い、さらにいうとアイリッシュリネンからインスピレーションを得ながら、立体感と柔らかさも備えたウールリネンのギャバジンを表現したかったのです。ブルーノとはもう数十年もの付き合いになりますが、彼は間違いなくイタリアで最も生地に精通している男です。生地のストーリーをよく理解していて、最終的には私がイメージしているものをいつも完璧に、いや、それを上回って具現化してくれるのです。


VBC本社を訪問してわかった先進性ビームスの中村氏は2022年にビエッラのVBC本社を訪問。写真はVBCクリエイティブ ディレクターのフランチェスコ・バルベリス・カノニコ氏(写真中央)とともに。「広大なデザインチームルームや研究チームのラボ、膨大な生地の保管庫があり、素晴らしい生地を生み出す環境が完璧に整っていました。従業員の労働環境に大きな配慮がなされている点、水の浄化設備やサステナビリティにも力を入れて取り組んでいる点にも感心しました」と中村氏。

中村 私がまだ駆け出しのバイヤーだった80年代後半から、ビームスではVBCのウーステッドフランネルを毎年定番で扱っていたんですけど、イタリアの生地は緯糸が単糸使いの柔らかな生地が多かった中で、VBCは当時から緯糸も双糸のしっかりした生地を織り上げていたんですよね。驚くことにビームスでは、VBCとは当時から25年間いちども途切れることなく取引し続けているんです。今回のプロジェクトの話を聞いたときも、私が昔から最も信頼しているふたりが組んだのだから素晴らしい生地が生まれるのではと、とても楽しみにしていたんです。生地メーカーにブルーノさんみたいな“生き字引”がひとりいるだけで、生地の企画力って格段にアップするんですよね。そして、実際にとても素晴らしい生地があがってきました。

ブルーノ こだわりの強いヴィンチェンツォのリクエストに応えるのは大変でした。原毛の太さ、混率、糸番手、撚り、織りの密度だけでなく、染料の加減ひとつでタッチはガラリと変わってきますから、ヴィンチェンツォが求めるテイストを壊さずに風合いを出すこと、それと長い付き合いになる中村さんの好みもよくわかっていましたから、そこを上手くまとめて表現するのに苦労しました。最初のサンプルは私のイメージと微妙に異なっていて、数回の試作の中で改良し、イメージに近づけていった感じです。ひとつ言えることは、こちらの生地の嗜好は英国を向いている点です。ヴィターレ・バルベリス・カノニコはビエッラの中でも最も英国的な生地を織っているイタリアのメーカーですし、昔からよく知っている中村さんの英国生地の好みもよくわかっていますし、ヴィンチェンツォの生地の好みも熟知していますし、私自身がスティレ ラティーノの服のファンでもあることから、求めている方向性はわかっていますので、私が赤い糸となってそこを上手く繋いだ感じです。

中村 今の時代にこういったモノ作りをすることは英国ではとても難しくなってきていることもあり、イタリアで作るしかないんですけど、イタリアの会社が作ると生地に妙に艶や色気が生まれてしまい、ヴィンテージルックを作るのはさほど上手ではないんですよね。でも、ブルーノさんはそのへんのこともよくわかっているんです。彼は我々の細かいニュアンスも理解してくれたうえで、私たちの好みの生地へと落とし込んでくれるんです。ブルーノさんも先ほどおっしゃってましたけれど、生地の風合いは、素材や混率、糸や織りの強度だけでなく、染料や染める時間ひとつで大きく変わってくるので、サンプルを繰り返しあげていく中で理想に近づけて最終的にここまでの生地に仕上げられたのは、サスガだと思いました。

THE RAKE 今の時代にとてもマッチした生地ですね。ヴィンテージさながらの雰囲気が出ていながら、いい感じの柔らかさも出ていてこれ見よがしなところがなく、自然体で身体に馴染んでくれるのが服から伝わってきます。

ヴィンチェンツォ 自画自賛になりますが素晴らしい生地だと思います。経糸を74番双糸のウール、緯糸を39番単糸のリネンで織り上げていて、二度染めすることでヴィンテージの色合いと風合いを出していたり、質実剛健さの中に自然な柔らかさが備わっているのはとても重要なポイントです。その雰囲気が、スティレ ラティーノの仕立てにとてもよく馴染んでくれるんです。今回のプロジェクトを始めるにあたって、ブルーノとともに、スティレ ラティーノの最もよき理解者であり、イタリアと英国の両方に精通している中村さんのことが真っ先に浮かびました。中村さんのアドバイスも得ながら、アイルランドや日本の自然の色も意識して、6色をラインナップしています。

ブルーノ そして、大切なことですが、今回のウールリネンギャバジンはあうんの呼吸でわかり合える三者のもとに生まれたから、「RHAPSODY(ラプソディ)」と命名しました。

中村 最初のサンプルよりも毎回確実によくなっていって、そこは三者の見ている方向が一致していて、サスガだなと思いました。「ラプソディ」で仕立て上がったスティレ ラティーノの服を見て、VBCらしさがとてもいい感じに表現されているなと思いました。というのも、長らく展開している「21マイクロンウール」のシリーズに象徴されるように、VBCはわざわざ太くて粗野な原毛を使用して織り上げた4プライや6プライのポーラのような生地を得意にしているんですよね。もともとは英国のメーカーが得意としている生地でしたが、それを今ではVBCが得意としているわけです。かつては名作といわれる素晴らしい英国生地がたくさんありましたが、その多くがいつの間にか消えていってしまった今、VBCがそれらを再現する役割を担っていくのかもしれないですね。

ブルーノ また気になる生地があったら、いつでも声をかけてくださいね!

VITALE BARBERIS CANONICOの“RHAPSODY”とは?ヴィンチェンツォ・アットリーニ氏のワードローブにあるヴィンテージ生地で仕立てた服をもとに、それを現代的にアレンジしてVBCにて復刻したウールリネンギャバジンが「ラプソディ」だ。経糸がウール、緯糸がリネンで、ウール58%、リネン42%。310g/m。ダブル染色工程により、生地の両面の色が完璧に均一化されている。日本ではビームスのエクスクルーシブで、スティレ ラティーノの既製品にて展開。2月にビームスで開催されるスティレ ラティーノのトランクショー(詳細は本記事最後にて)でもオーダー可能だ。

中村 実をいうと、ヴィンチェンツォさんがサルトリア アットリーニ ナポリで働いていた時代から、ヴィンチェンツォさんがセレクトしたり企画する生地がいちばん好きだったんです。クラシックは魅力的だけれどもそれだけでは物足りなくなり、2005年に彼はスティレ ラティーノをスタートしたわけですが、その際にナポリのテイストを保ちながら新しいサルトリアスタイルを打ち出してきたのが革新的でした。私は今日までさまざまなサルトリアで服を仕立て、多くのブランドの既製服を着てきましたが、身体を包み込むようなフィッティングと美しいシルエットの出し方という点で、スティレ ラティーノの服は抜きんでていると思っています。既製品であっても仮縫いをした服かのように、身体にきれいに収まるんですよね。

ヴィンチェンツォ 「ラプソディ」は日本ではビームスのみの展開になります。スティレ ラティーノの既製品でご購入いただけるほか、2月に私が来日してのトランクショー時に、メイド・トゥ・メジャーでオーダーいただけます。生地を含めたスティレ ラティーノの魅力をぜひ味わっていただきたいですね!

VITALE BARBERIS CANONICOの
“RHAPSODY”で仕立てた
STILE LATINO
経糸が74番双糸のウール、緯糸が39番単糸のリネンで織られたVBCの「ラプソディ」で仕立てられた一着。リネンのハリ・コシがありながら、ウールのソフトな風合いが加わっているのと、経年変化がうっすらと抜けていくのを楽しめる、長く付き合っていきたい一着。スティレ ラティーノの男らしくも甘美な仕立ての雰囲気が伝わってくる。写真はサンプルだが、ベルトループ仕様の既製品が展開され、スーツは¥495,000。Stile Latino / Beams F(ビームスF Tel.03-3470-3946)

VITALE BARBERIS CANONICOの
“RHAPSODY”でオーダーできる

STILE LATINO
来日トランクショー開催

2月22日(土) — 2月23日(日)
会場:ビームス 六本木ヒルズ
2月24日(月)
会場:ビームス ハウス 丸の内

ヴィンチェンツォ・アットリーニ氏が来日し、上記ビームス店舗にてトランクショーを開催。「ラプソディ」でのス ミズーラはスーツ¥550,000~、ジャケット¥462,000~。2/22(土)は、VBCブルーノ・ランディ氏、ビームス 中村達也氏とともにトークショーも同時開催予定。

本記事は2025年1月27日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 62

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