May 2022

THE NEW MASTERS

藤田雄宏が勧めるビスポーク職人 06
小澁 修一郎

情熱と夢中の中で覚醒した
岡山に現れた最注目テーラー
SARTORIA LUCOLT

小澁氏の仕事は速いだけでなく美しい。ここに到達するまでには、相当な努力があったはずだ。服を愛するからこそ、美しい服を仕立てたいという思いも人一倍強い。

 針を手にした小澁修一郎氏の仕事はこちらが思わず見入ってしまうほど速い。相当高い意識をもって仕事と向き合い、圧倒的な数をこなさないと到達し得ない領域の動きだ。とても立体的で美しい服は、生き生きとしてかつ上品なドレープを生み、“今”求められている薫りを漂わせる。

 2012年から約5年、サルトリア イプシロンの船橋幸彦氏のもとで経験を積んだ。氏は出し惜しみをすることなくすべてを教えてくれ、生地選びの接客、さらには仮縫いにも補助役として立ち合わせてくれた。これが最初の財産になった。

左:生地はハリソンズのプルミエ・クリュ。誇張した服は好みではないという小澁氏の服には、常に控えめなエレガンスがある。そして見るからに軽やかだ。右:生地はフォックスブラザーズのフォックスツイード。ラペルのロールがこれ以上ないほど美しい立体感。

 地元の岡山に戻って自宅を改装し、サルトリア ルコルトを開いたのは2017年6月。自身のビスポークをこなしながら、とあるテーラーの仕事も受け始めた。イプシロンとの違いに衝撃を受けたという。仕事をしながら研究する日々が始まった。

「その方のパターンは本当に衝撃的でした。芯の据え方や襟の付け方、あらゆるところに学びがありました。それが大好きだったので、その方の仕事をさせてもらって本当によかったなって。自分が作る服の立体感が劇的に変わったと思います」

リクエストがあれば、構築的なミラノスタイルの服も仕立てる。

 奥が深い仕立ての仕事に夢中なだけでなく、着ることも大いに楽しんでいる。職人として、着る側の人間として、両面で高い志をもった仕立て職人は強い。上品で柔らかな彼の服は、着る人間と共鳴している。ドブクロスなど、生地の提案も素晴らしい。2022年のブレイクは必至だ!

師の伝統的手法を継承した
とても柔らかなショルダーパッド
イタリアの綿を手で薄く剥がして少しずつ積み上げていく。非常に柔らかなパッドの製作工程。船橋幸彦氏がトミー&ジュリオ・カラチェーニ時代に学んだ手法で、ひとつ仕上げるのに約30分。撫で肩を好まない人やミラノスタイルの服に使用。空気を含んで肩の形状によく馴染んでくれる。

Shuichiro Koshibu / 小澁 修一郎1986年、岡山県生まれ。文化服装学院を卒業後、アパレルを経てイギリスのオックスフォードとロンドンに留学。2012年から約5年間サルトリア イプシロンで修業し、2017年6月にサルトリア ルコルトを始動。

SARTORIA LUCOLT岡山市北区の自宅に工房とフィッティングルームを併設。
TEL.086-284-1085(予約制)
info@lucolt.com
スーツ385,000~、ジャケット¥297,000~、コート¥385,000~。納期は約9カ月~。

本記事は2022年1月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 44

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