LIFE THROUGH A LENS

【独占インタビュー】俳優ジョディ・フォスター「自分を傷つけそうなすべてを恐れてた」

May 2024

彼女が帰ってきた。いや、去ってはいなかった。新たな視点から物事を見るようになったジョディ・フォスターは、ハリウッドで最も影響力のある女性のひとりだ。
text stephen wood
photography brian bowen smith
styling samantha mcmillen

Jodie Foster / ジョディ・フォスター1962年、ロサンゼルス生まれ。3歳でCMに出演し、10歳で長編映画デビュー。マーティン・スコセッシ監督に認められ、『タクシードライバー』(1976年)に出演。アカデミー助演女優賞にノミネート。1985年、イェール大学卒業。『告発の行方』(1988年)と『羊たちの沈黙』(1991年)で2度のアカデミー主演女優賞に輝く。『リトルマン・テイト』(1991年)で監督デビュー。プロデューサーとしても活躍する。
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 1976年11月最後の日曜日。14歳になって9日後のジョディ・フォスターが、アンディ・ウォーホルとランチするためにニューヨークの高級ホテル、ザ・ピエールに入っていく。ウォーホルは、自身の雑誌『インタビュー』に彼女を載せたいと思っていた。ふたりの会話を逐語的に書き起こしたこのときの記事は、今も珍重されている。キザなウォーホルは親密な関係性を見せ、14歳の彼女にブラッディマリーを注文しろとそそのかし、いつ結婚するつもりなのかと問う。彼女は無邪気な少女ではあるが、知性と冷静さとティーンエイジ特有の傲慢さを併せ持ち、かなり尖っていた。お目付役の母親が、もう帰ったほうがいいのではないかと娘に問うと、彼女は無愛想に答える。「別に」。

 1976年、フォスターの人生は急速に変化した。その年に出演した映画はなんと5本。そのうち1本が、後に映画史に残る名作となる『タクシードライバー』である。この作品で彼女はアカデミー賞に初ノミネートされ前途洋々だったが、実際は不安に苛まれ、世間の気風や母の期待に押しつぶされそうになっていた。

 それから50年近く経った今、彼女はこれまでの人生を振り返ると、10代が一番つらかったと思い至る。あの日曜日のニューヨークでのランチで、彼女はウォーホルに可能な限りの答えをひねり出す。「(結婚なんて)しない」。「誰かとバスルームを共有するなんて、まっぴらごめん」。

 ロサンゼルスの自宅からZoomにつないだフォスターの様子は、至って普通だった。部屋の壁はクリーム色で、家具は何もない。ルーズなTシャツとメタルフレームの眼鏡、ノーメイクで洗いざらしの髪。飾り気がなく、質素で無頓着な、プライベートの彼女を垣間見た。

「これくらいの広さで十分。あとはいい光ね。私ってめちゃくちゃ楽観的なのよ。確かにちょっと変わってる。でも、そうならないわけないわ。あとはまあ、人に多くを求めないほうね。どうでもいいと思ってる」

彼女は改めて考え直しこう言った。

「でもそれが欠点なのよ。それでいろいろ今まで大変な思いをしてきたわ」

 現在61歳のフォスターが“大変な思い”をたくさんしてきたことは理解できる。若い頃からストーカー被害に遭い、世紀が変わると自分の性的アイデンティティについて問われただけでなく、代表者としての行動を求められた。「プライバシーというのは、権利が与えられているだけのものではなく、絶対的な前提条件である」というマーロン・ブランドの格言に、彼女はおそらく強く共感したはずだ。

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カムバックにふさわしい2作 2023年までの10年でフォスターが出演した映画はわずか2作。彼女はハリウッドの表舞台からおりてしまったかと思われた。しかし今、われわれは2作の新作を続けざまに見ることができる。まずひとつは、Netflixで配信された映画『ナイアド~その決意は海を越える~』(2023年)。フォスターは、海を横断するスイマーのダイアナ・ナイアドのコーチ兼親友役を演じている。もうひとつは、HBOのドラマシリーズ『ナイト・カントリー』(2024年)。彼女は警察署長に扮し、アラスカの冬に起きた科学者たちの失踪事件を懸命に捜査する。

「自分でもこの歳でカムバックするとは思っていなかったわ。しかもこんなペースで再び演技するようになるなんて」

『ナイアド~その決意は海を越える~』での演技で、フォスターは5度目のオスカーノミネート(助演女優賞)を果たした。初ノミネートから47年、しかも同じ部門というのは感慨深い。そのことを伝えると、彼女は時代を指折り数えた。

「60年代、70年代、80年代、90年代、2000年代、10年代、20年代…… 本当にすごいわね、これほど違う時代で」

 彼女はどの時代においても自身で出演作を慎重に取捨選択してきた。新作2作でもそのことがわかる。『ナイアド~その決意は海を越える~』で演じた役は、ざっくばらんで感受性豊かで楽観的、そして人情に篤い人物。一方、『ナイト・カントリー』で演じた警察署長リズ・ダンヴァースは、がさつでいつもピリピリしていて、口が悪い人物だ。ふたつの役が対照的でありながら共通点を持っているのが興味深い。どちらもフォスターの人間性に深く入り込み、共鳴する。

『ナイト・カントリー』は、『トゥルー・ディテクティブ』のシーズン4にあたり、マシュー・マコノヒーとウディ・ハレルソンが出演しカルト的なヒットを打ち出したシーズン1(2014年)に匹敵する強力な作品だ。同シリーズにドハマリしたフォスターは、「ストリーミングに参入したくてたまらなかった」らしい。『ナイト・カントリー』では製作総指揮としても携わり、イッサ・ロペス監督とともにリズ・ダンヴァースと、カーリー・レイス演じる州警察官エヴァンジェリン・ナヴァロの人物設定に尽力した。

 撮影はアラスカではなくアイスランドで行われた。クルーは49日もの間、ときには凍った湖の上で撮影した。フォスターは「人生で最も素晴らしい撮影体験のひとつだった」と冗談交じりに語る。

「思ったより寒かった(笑)。身体中に温熱パッドをつけてパーカを着た状態で、さらに呼吸しなきゃいけない。あの寒さの中で話すのは本当に大変なのよ」

 彼女たちの努力は、この作品にふさわしい、壮大なフィナーレに結実する。

「奥深さとひねりがあって、あのキャラクターたちだからこそできた。ダンヴァースが何から逃げていたのか、何を恐れ、何から目を背けていたのかがわかるはず。とても満足してもらえると思う」

ブラウス、パンツ、ネックレス すべて参考商品 Brunello Cucinelli(ブルネロ クチネリ ジャパン TEL.03-5276-8300)

 フォスター自身も何かから逃げていたというのは語弊があるだろうが、人間的な共鳴、自己の進化から逃れることは難しい。彼女は若い頃の自分について「変わり者の友人」であろうと自己陶酔的だったと批判しつつ、とにかく必死に「よりよい関係性」を保とうと努力していたと言う。さらにしばらくしてこう語る。

「人は歳をとるにつれてオープンになって、自由になって、丸くなるものなの。それが自分でもわかってきて楽しみ。どうすればもっと自由になれるか、もっと恐れないでいられるか。ひとつ作品をやるたびに進んでいければいいと思う」

 恐れない、とは何を恐れていたのだろう?彼女は熟考して答えてくれた。

「自分の気持ちを人に示すこと、話したくないことについて話すこと、他の人の経験や人生を受け入れること。つまり、自分を傷つけそうなすべてを恐れてた」

PHOTO TEAM: KEVIN MCHUGH, DANYA MORRISON
DIGITAL TECHNICIAN: BRANDON SMITH
HAIR AND MAKEUP: BRETT FREEDMAN AT CELESTINE AGENCY
PRODUCTION: ALEJANDRO RESTREPO
FASHION ASSISTANT & ON-SET STYLING: MELANIE BAUER
SPECIAL THANKS TO COPIOUS MANAGEMENT

本記事は2024年5月27日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 58

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