FENDI’S NEW FACTORIES
フェンディの新工場が打ち出す
サステナビリティとビジョン
February 2023
2022年秋に完成したフェンディのレザーグッズ工場。ミラノの建築事務所ピウアーチによるコンセプトを、フェンディの建築部門が発展させ建設。さまざまなサステナビリティへの取り組みを盛り込んでいる。
自然豊かなトスカーナ丘陵の景観に、美しく溶け込むように現れたアースカラーの建築。たっぷりと降り注ぐ日光が、外周や内壁のガラスを通じて屋内へと届く。敷地内のそこここに植樹されているのは、地中海地方の在来植物種。年間約900リットルものオイルを生む、約700本ものオリーブの木も植えられている。
イタリアのラグジュアリーブランド、フェンディは、2022年秋にレザーグッズの生産を担う新工場を設立した。場所はフィレンツェからも程近い田園地帯、バーニョ・ア・リーポリのカパヌッチア。敷地面積8ヘクタール(東京ドーム約2個分)にも及ぶこの工場は、ブルネレスキ窯跡地の30,000平方メートルを占める。サステナビリティへの継続的な取り組みに沿い、2023年までに権威ある環境性能評価システムであるLEEDプラチナ認証を目指す。
一方、フェンディは同時期にシューズ工場もオープンさせた。こちらはマルケ州にあった工場を同州フェルモに移転・新設したもので、やはり屋外との境界を曖昧にし、景観と調和させている。自然光を存分に利用できるようガラス壁と天窓を設えるほか、ソーラー発電も備える。サステナビリティに最大限配慮した、機能的かつ効率的な工場である。
効率を追求して完成したレザーグッズの新工場は、さまざまな生産エリア、オフィス、倉庫などをすべて1階に集約。地下は駐車場、2階は屋上庭園を見渡せる食堂とし、ヒトとモノが容易に循環する合理的なスペースを確保している。外観は、工場の周囲に広がるトスカーナの田園地帯と完璧に調和。屋内はテラコッタ建材を用い、ブランドのデザインの特徴でもあるストライプ「ペカン」や、グラフィカルな「FF」ロゴを思わせるタイルが取り入れられている。調度品はすべて、“メイド・イン・イタリー”にこだわるだけでなく、布張り家具と在庫のレザーを再利用するなどアップサイクルしている。中庭にはイチジク、トキワガシ、ザクロ、アカシア、オーク、イチゴノキなど、地元のさまざまな植生を再現。従業員は穏やかな環境で働くことができる。
シューズの生産地として名を馳せるマルケ州フェルモに新設されたシューズ工場は、オフィス、倉庫エリアも含む、7,000平方メートルに及ぶ広さを誇る。職人のサヴォアフェールを技術的変革と組み合わせるという、フェンディのDNAのひとつ 「デュアリズム(二面性)」を表現。モダンでミニマルな波形アルミニウムのファサードは印象的ながら、自然の景観と見事に調和している。日光を最大限に生かした設計のほか、ソーラー発電設備を導入するなど、環境のサステナビリティにも目を向けている。内部の仕切りにはガラスパネルを採用し、各部門間での視覚的連携も狙う。ちなみにフェンディは2021年9月に、工場と同じフェルモにあるオスティリオ・リッチ国立工業工芸専門学校で「フェンディ シューズ マスタークラス」を開講。次世代の専門職人の育成にも力を入れている
このふたつの新たなイノベーションの拠点は、2022年10月、LVMHグループが主催する「レ ジュルネ パルティキュリエール2022」にて、ローマの本店「パラッツォ フェンディ」に併設されたファーアトリエや、プライベートアパートメント「フェンディ プリヴェ」とともに一般公開された。このイベントは、クラフツマンシップと卓越した職人技に敬意を表する特別企画として、LVMH各メゾンが有する職人技術を普段は公開していない場で展示・披露するというもので、2011年より開催されている。
フェンディはこのイベントをもって新工場の門戸を解放。カパヌッチアのレザーグッズ工場では、かねてから取り組んでいるイタリア各地の伝統工芸の名匠たちとの草の根パートナープロジェクト「ハンド・イン・ハンド」の製品とその製作工程を公開。今年25周年を迎える伝説的アイコンバッグ「バゲット」がアート作品へと昇華した。またフェルモのシューズ工場では、特別なアーカイブシューズなどを展示した。フェンディ会長兼CEOのセルジュ・ブランシュウィッグ氏はこう述べる。
「イタリアは、伝統、歴史、美そして何よりも卓越性の代名詞。フェンディは“メイド・イン・イタリー”そのものに投資し、クラフツマンシップ、職人たちのサヴォアフェール、そして手仕事の力というコアバリューを発揮します。専門知識と実験こそ、我々のマーケティング活動と企業文化を支える要素なのです」
伝統を維持・伝達していくことこそが次世代を育てる基盤になると信じているフェンディ。ゆえに生産拠点におけるサステナビリティへの取り組みは、自然との共生だけでなく、クリエイティビティを発揮できるような健康的な職場環境を従業員に提供することにもつながっているのだ。
フェンディの“メイド・イン・イタリー”へのこだわりと次世代への継続的投資、そして社会的責任に対する積極的関与は、ふたつの新工場を通じてメゾンのビジョンとして明確に打ち出された。
LVMHグループの主催イベント「レ ジュルネ パルティキュリエール2022」で「フェンディ ファクトリー」は、同工場の歴史を示す写真の展示や、高機能3D適応型センサーを搭載したデジタル体験、イスティトゥート・マランゴーニ フィレンツェ校の学生との作品のほか、イタリア各地の名匠たちとの草の根パートナープロジェクト「ハンド・イン・ハンド」によるバッグ「バゲット」を展示した。