June 2022

Exclusive Interview: BENICIO DEL TORO

俳優ベニチオ・デル・トロ:デル・トロの伝説

渋く謎めいていて、しびれるほどクールで、控えめな演技が光るベニチオ・デル・トロは、数々のヒット作に立て続けに出演している。
彼はウェス・アンダーソンの世界で、またしても新しい領域を見せる。
text nick scott
photography greg williams
fashion direction jeanne yang
special thanks to The Maybourne Beverly Hills

Benicio del Toro / ベニチオ・デル・トロ1967年、プエルトリコ生まれ。カリフォルニア大学サンディエゴ校に進むが、演劇の世界に魅了され、ステラ・アドラーなどの著名な演技指導者たちに学ぶために中退。1995年の『ユージュアル・サスペクツ』で強烈な印象を残す。2000年の『トラフィック』で、アカデミー助演男優賞を受賞。代表作は『チェ』(2008年)、『ボーダーライン』(2015年)など。渋く味のある安定した演技が人気で、ラテン系俳優を代表するひとり。

タキシード ¥652,300〜(オーダー価格)、シャツ ¥75,900〜(オーダー価格)、ボウタイ ¥33,000〜(オーダー価格)、チーフ ¥26,400〜(オーダー価格)all by Giorgio Armani リング property of Benicio del Toro

 LAらしい晴れやかな朝だというのに、ベニチオ・デル・トロは別れの悲しみにうちひしがれ、なんとなく憂鬱な気分だった。インタビューの数日前にこの世を去った男と、個人的な面識はない。実際、その男を見たことも片手で数えるほどしかない。初めて見たのは1981年。ニューヨーク州シラキューズのキャリアドームで、男の魅力に衝撃を受けた当時14歳のデル・トロは、後の人生においてずっと大切にその思いを持ち続けてきた。

「ああ……チャーリー・ワッツ! ローリング・ストーンズのビートの要。初めて音楽でストーリーを感じた人だった。思えばずっと、彼のドラムを追いかけてきたな。でも彼が遺したたくさんの曲は、心の中にずっと残っていく。ストーンズだけでなく、ビートルズもザ・フーも、レッド・ツェッペリンもエルトン・ジョンも、どんなときも聴いてきた音楽なんだ。勇気が必要なときには、彼らの音楽を聴いてきた。『ひとりじゃない』と思わせてくれるものがあった。つながりみたいなものだよ」

 *ブリティッシュ・インヴェイジョンは、デル・トロにハリウッド最大級のヴィンテージレコードコレクションだけでなく、キャリアの指針をももたらした。彼はプエルトリコで生まれ育ち、16歳のときにペンシルバニアに移り住んでいる。

「彼らは英国から来たのに、ブルースを演奏した。よそから来たのにその土地のサウンドに乗せて歌って、さらに進化させて成長したんだ。めちゃくちゃ面白いよね。自分もハリウッドの外から来た人間。子どもの頃に映画なんて見ていないし、劇場とかそういうものもなかった。バックグラウンドなんて何もなかったんだ」

*ブリティッシュ・インヴェイジョン=1960年代半ばに英国から数々のミュージシャンが大西洋を渡ってアメリカで成功を収めた現象。

本記事は2022年1月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 44

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