Exclusive Interview: BENICIO DEL TORO

俳優ベニチオ・デル・トロ:デル・トロの伝説

June 2022

text nick scott
photography greg williams
fashion direction jeanne yang
special thanks to The Maybourne Beverly Hills

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多彩な芸風 デル・トロの経歴は、少し変わっている。少年時代の彼はプロを目されるほどの腕前のバスケットボール選手で、パフォーマンスアートのようなものを見た経験といえば、テレビ番組くらいだった。

 デル・トロが演じたラテン系の中でも最も印象的なものはおそらく、かのアルゼンチン出身の革命家だろう。スティーブン・ソダーバーグが監督を務めた二部作の伝記映画『チェ』(2008年)で、デル・トロはチェ・ゲバラを演じた。

「子どもの頃は、ゲバラのことはよく知らなかった。自分がプエルトリコ育ちということもあって、悪者だと思っていたね。悪くてかっこいいやつ(笑)。でも007の撮影でメキシコにいたとき、本屋へ行ったらゲバラの写真が貼ってあってね。彼の父親が発表した書簡集のポスターで、写真の中の彼は温かみのある、とても魅力的な笑顔を浮かべていた。それでゲバラに対して抱いていたイメージと全く違うものを感じたんだ」

 その書簡集の中の手紙は、ゲバラが政治家になる前に書かれたものだった。若い頃の自分自身を見つめる内容に惹かれたデル・トロは、ゲバラをもっと知りたいと思い、彼に関する研究や著書を読み漁り、徹底的にリサーチを重ね、そしてこの役に挑んだのだった。

 デル・トロはその他にも多彩な芸風を発揮している。『ラスベガスをやっつけろ』(1998年)では、役のために9週間ドーナツを食べ続けて19キロ増量し、イカれた旅する弁護士ドクター・ゴンゾーを演じた。『21グラム』(2003年)では、元受刑者で贖罪に励む敬虔なクリスチャンという難役を見事に演じきった。ヘロイン中毒に苦しむ元弁護士を演じた『悲しみが乾くまで』(2007年)では、全編を通して抑えめで繊細な演技を披露している。動きに対する「*less is more(少ないほうが豊かである)」という彼のアプローチも一貫しており、カメラを、自分を記録するものでなく自分の協力者にしている。デル・トロはある意味で、究極の“アンチ役者”なのである。『シン・シティ』(2005年)ではやたらと銃を撃ちたがる暴力的な刑事役、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)では宇宙の遺物や生物を収集する宇宙人、『スナッチ』(2000年)ではギャンブル中毒のマフィアに扮した。ネイティブアメリカン役も2度演じている。ひとつは『プレッジ』(2001年)で、殺人罪で誤認逮捕された知的障害者役、もうひとつは『ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して』(2013年)で、戦争のトラウマに苦しむ男の役だ。

 デル・トロはかつて師事した講師の教えの通り、人並み以上の努力を重ねた。その好例が、『トラフィック』である。この映画のために、彼は母国語であるスペイン語に、大変な苦労の末にメキシコ訛りと語彙を組み入れた。その甲斐あって、アカデミー賞と英国アカデミー賞の両方で助演男優賞に輝いたのである。

*less is more=シンプルを追求することで美が生まれると考えたバウハウスの建築家、ミース・ファン・デル・ローエの言葉。

本記事は2022年1月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 44

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