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藤田雄宏が勧める、今オーダーすべき職人 01:RYOHEI ITAHASHI Abbigliamento Su Misura
May 2023
Ryohei Itahashi / 板橋 遼平1987年生まれ。テーラーを志して2016年にアングロフィロの小野雄介氏のもとで学び始める。2018年10月、ナポリに渡り、サルトリア ピッツォで2年、サルトリア ピロッツィで1年修業。2022年1月に帰国し、リョウヘイ イタハシ アッビリアメント ス ミズーラ(採寸服)を始動。
仕立て仕事は未経験だった板橋遼平氏が、テーラーになりたくてアングロフィロの小野雄介氏を訪ねてきたときのことは、はっきりと記憶に残っている。アングロフィロで学び始めて数カ月経つと、「本気でサルトを志したいんだったら俺のところなんかにいないでナポリで修業しろ!」と、小野氏が口にし始めたのも覚えている。手離したくないのにそう口にしたのは、自身がナポリで修業を積んだゆえに、そこでしか得られない大切なものがあると知っていたからこその親心だったのだろう。
2018年10月、ナポリに渡った。ピアッツァ アメデオそばのチーロ・ピッツォ氏のもとで2年学んだのち、メルジェッリーナ地区のサルトリア ピロッツィに移ってフェリーチェ・ピロッツィ氏(ヌンツィオ氏の弟で、襟・袖付けのマエストロ)についた。どちらのサルトリアでも、仕事を覚えていくなかで徐々に認められて新しい工程を任せてもらえるようになっていくのが嬉しかった。早朝に家を出て夜遅くに帰宅し、ササッと食事を済ませて寝るだけの生活でも、充実感のほうが勝ったという。
「ナポリに行く前は、ナポリの服はこうなんだ、という自分の中での凝り固まったイメージがありました。でも、中に入って仕事をすると、そこは人それぞれ、服作りはもっと自由でいいんだという気持ちになっていきました。日本人の自分が作る服は、なおさら自由でいい。かけがえのない経験を通して学び、感じたなかで形成されていった自分をどう表現していくか、そこを大切にしていきたいですね」
3年でここまで美しく表現できるようになるものなのか。一歩引いた感じは、自分自身の確固たる美意識を築いたうえでの表現だ。クリーンなようで人間性が表れていて、ジワジワと滋味深い。うん、ナポリのエスプレッソのように濃厚だ。
修業を終えて独立したばかりの職人が仕立てた服には見えない。ナポリでの3年の修業期間、相当濃密な過ごし方をしたとして、ここまでできるようになるものなのか。丁寧な仕事と、全体を調和させ、まとめあげる能力はまったく別ものだが、板橋氏の服には両者のハーモニーがある。こちらは製作中のお客様の服。
工房は埼玉県の自宅にあるため、都内某店での採寸となる。スーツ¥420,000〜、ジャケット¥360,000〜。納期は約8カ月〜。
ryoheiitahashi@gmail.com
本記事は2023年1月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION ISSUE 50