MATSUMOTO CLINIC

健康への近道は、趣味を持って人生を謳歌すること

March 2024

生活習慣病専門クリニックの院長・松本和隆氏が考える治療法はユニークだ。人生の喜びと楽しさを優先することこそ、健康への近道と伝えている。

 

 

photography tatsuya ozawa

 

 

Kazutaka Matsumoto/松本 和隆

2000年、藤田保健衛生大学医学部を卒業。2007年に三重大学大学院医学系研究科で医学博士を取得。三重大学医学部附属病院糖尿病・内分泌内科、医療法人松徳会花の丘病院の副院長を経て、2016年に三重県松阪市に医療法人松徳会松本クリニックを開院。写真のギターは、ライブで使用するとっておきの1本。職人によるカスタムオーダー品。

 

 

 

 三重県松阪市にある松本クリニックは、2016年に開業して以来、地域の人々から「ギターのクリニック」として知られている。巨大なギターをモチーフとした“映える”外観は、まるで専門のギターショップのようだ。

 

「病院ってどこも似たようなつくりで、不安感を煽るような雰囲気を感じていました。それを覆したかったんです。だから開業時からコンセプトは決めていました。デザイナーさんに、『東京でも見たことない』って言われましたよ。ひと目で私の趣味がわかるでしょう?(笑)」

 

 和やかに微笑む院長・松本和隆氏の趣味は、言わずもがなエレキギターだ。高校1年のときから始め、今でもわずかな時間を見つけて練習に励みライブ活動を楽しんでいる。所有本数は60本以上。

 

「当初はこの派手な建物が受け入れられるか少し心配でしたが、今では地域のランドマークとなりよかったと思います」

 

 

緊張感をほぐすかのような、ギターショップを思わせるクリニックの外観。

 

 

 

 松本氏は全国的にも少ない糖尿病専門の医師である。クリニックは、糖尿病・高血圧・高脂血症・高尿酸血症・骨粗鬆症などの生活習慣病を専門としている。

 

「今は日本人の6人にひとりが糖尿病およびその予備軍といわれています。しかし、糖尿病専門医は6700名ほどで、まだまだ少ない。さらに三重県だと60名ほど、松阪市は3名ほどしかいません」

 

 個人の開業したクリニックには珍しく、生活習慣病の分野の診断・治療に特化した機器を備える。さらに運動指導のプロとして理学療法士、食事指導のプロとして管理栄養士が常駐している。

 

「運動と食事の両面において、いつでも指導ができるというメリットがあります。患者さんの状態が共有されるので、ひとりひとりに合った治療が可能です。クリニック内にはジムを併設していますので、運動をやり方から学べますし、運動前後の血糖値の数値を見ることで効果を実感いただけます。食事指導室にはキッチンがありますので、定期的に開催される教室では実際に調理方法を見て、味見までしていただきます。どのくらいの盛りつけか、どのくらいの味つけか、五感を通じて覚えてもらいやすいのです」

 

 教室のほかにも、例えばお茶会やウォークラリーといった患者会主催のイベントも開催されている。患者同士の交流も盛んに行われており、アイデアや、医師の正しい知識に基づいたアドバイスを共有することができる。医師と患者の距離が近い松本クリニックならではの取り組みといえる。

 

「大きな病院ですと、指導が一方的な講義だけになりがちなんですが、当クリニックでは患者さんと双方向のコミュニケーションをとるよう心がけています」

 

 

 

ロビーに置かれたギターシェイプのソファは特注品。

 

 

 

 生活習慣病は、症状が現れる頃には既に進行している状態であり、そこからすぐに投薬やインスリン注射などの治療がスタートする。さらに発見が遅れると、合併症を起こしたり、人工透析を受けたりしなければならなくなる。症状がないだけに、その発見は遅れることが多い。

 

「早期治療が第一です。症状がなくても、お正月に少し食べ過ぎたくらいでも気軽に検査に来ていただきたいですね」

 

 診断を受けると精神的なショックに続いて、さまざまな治療の苦痛や、制限が強いられる。ストレスとうまく付き合うことが、病と向き合うことになるのだ。

 

「患者さんは大きくふたつのタイプに分かれます。病気をまったく気にせず生活を楽しむタイプと、塞ぎ込んでしまうタイプ。後者は特にコロナ禍に多かったのですが、まったく家から出ないというのは、やはりよくないですよね」

 

 専門家によるきちんとした指導があれば、メリハリをつけて日々の生活を楽しむことも可能だという。

 

「普通に生活することが怖くなってしまい、外食はおろか、孫の結婚式にも行けなかったという患者さんがいました。披露宴の豪華な食事が怖かった、と。確かに血糖値は上がるでしょう。でもせっかくの晴れ舞台ですよ。次の日からまた頑張ればいい。プラスマイナスで差し引きゼロ。ストレスフリーが一番ですし、治療のモチベーションにつながっていきます。人生は続きます。いかに豊かにしていくか。そういう指導をしています」

 

 

待合室の上部には松本氏が所有するエレキギターが飾られている。

 

 

 

 制限ばかりに意識が向けられがちな治療に異を唱える松本氏。人生を楽しむことが、心の健康にもつながると考える。

 

「患者さんには、何か趣味を持ってくださいと言っているんです。私の場合はギターですが、やっぱり近くにアンプとかギターがあるだけでモチベーションが上がりますからね。そのために仕事も頑張れる。同じように、何か趣味を楽しむことが健康維持の近道です。山登りでも手芸でも読書でも映画鑑賞でもいい。人生を楽しむことが、積極的に病と向き合い、よりよく生きることにつながります」

 

 この考えを体現するものこそがギター。クリニックのコンセプトである。

 

「私自身が率先して人生を楽しむ。そんな姿を患者さんに見てもらい、大切さを伝えていきたい。生活習慣病に限らず、あらゆる健康のために必要な考えかもしれません。私のギター愛が、ヒントになってくれるといいですね」

 

 

 

医療法人松徳会 松本クリニック

三重県松阪市駅部田町1619-2

TEL.0598-25-1240

診療時間:9:00~12:00/15:00~19:00

休診日:木曜・土曜午後/日曜・祝日

www.matumoto-clinic.jp/