モノに対する嗅覚は、昔からピカイチ
藤田雄宏さん
Saturday, May 30th, 2020
藤田雄宏さん
THE RAKE JAPAN副編集長、AFTER HOURS 代表
text kentaro matsuo photography yoshie hayashima
久々に出てしまいました! われらがフクヘン、ユーコー・フジタの登場です。ご存知のようにTHE RAKE JAPANの副編集長兼ファッション・ディレクターであり、過去6年間にわたって苦楽をともにしてきました。メンズ・イーエックス時代から数えると、もう20年近い付き合いです。
そしてその20年の間に、私が一番言ってきたことは「締め切りを守れ!」、「進行をちゃんとしろ!」です。もうたぶん2億回くらい唱えたと思います。しかし、2億回の嘆願にもかかわらず、まったく改善される様子はありません。
「今回こそバッチリです!」と頷くものの、今月も締め切り間際になって、いつものドタバタが始まり、ドタバタのまま校了です。まさに糠に釘、蛙の面に小便です。
最近では、これはもう一種の修行、または宇宙なのではないかとさえ思えてきました。私が叱る、ユーコーが無視する、そして地球は回る、みたいな・・
というわけでユーコー・フジタは、とっくにクビになっていてもおかしくないのですが、残念ながら、彼のモノに対する嗅覚とファッション・センスだけは、昔からピカイチなのですね。
THE RAKE JAPANは創刊以来、私が編集長を務めてきましたが、雑誌の大きな方向性を決めてきたのは、実は彼です。クラシックなビスポークを中心に、ヴィンテージ・アイテムに光を当て、アジアのファッショニスタたちを紹介する、といったことは、すべてユーコーのアイデアです(というか勝手にやってしまう)。
雑誌というものは、細かい作りも大事ですが、一番大切なのは“何を見せたいのか”という世界観の体現で、それを担っているのが、この“天才バカボン”だということです。
さてそんなユーコー・フジタが、昨年からネット通販をやっていることはご存知ですか? AFTER HOURS(アフターアワーズ)というサイトで、彼自身が仕入れた、ざまざまなファッション・アイテムを扱っています。これはTHE RAKEとはまったく関係ない、彼自身のプロジェクトです。
「今までキャリアを積んできた中で、さまざまな人と知り合い、自分なりのネットワークが出来てきました。それを生かしたいと思って、サイトを立ち上げました」
AFTERHOURSというのは、ジャズ・ミュージシャンが、ライブが終わった後、自分たちの好きな曲を、自由に演奏するセッションのことだそう。
「ビスポークのスーツを作っている人たちが、オフの時に着られる服を提供する、というのがテーマです。お客様も、8、9割がビスポークをされている方たちですね。デザインに関しては、トレンドではないもの。何年も着られる、耐久性があるものを選んでいます。雑誌のコラムを作るように、編集者の目線で“面白いな”と思うモノを仕入れています」
サイトに並んでいるのは、他ではちょっとお目にかかれない、一風変わったアイテムばかり。ローマの職人がコツコツ作る、まるで骨董品のような鞄とか、めちゃくちゃ分厚いリネン製のストール(一体いつ巻くんだ?)とか。
でも、そこにはユーコーならではの不思議なセンスが光っていて、何を隠そう、私自身もすっかりハマっています。顧客として一番買っているのは、私ではないかな? 身内贔屓しているわけではなく、彼のセレクトしたものが、自然と欲しくなるのです。
ゴルファーブルゾンはThe Most。元ロンドンのコーディングスで働いていた経験を持つ、久保正樹さんが立ち上げたブランドで、AFTERHOURSでも扱っています。
「今のセレクトショップの基準からいうと、丈が長すぎ。それにデザインがシンプルすぎて写真映えせず、ネットではまったく売れません(笑)。でも、高密度のヴェンタイル・コットンは実にいい素材で、個人的には丈やフィッティングも含めてとても気に入っています。販売会などで実際に触ってもらうと、皆気に入って購入してくれます。ちょっとした雨も弾くし、着ていくうちに色が抜けて、味が出てくるんです」
私も1着持っていますが、もっさりとしたシルエットがオヤジっぽくていいですね。確実に“モテない”ジャケットです。
帽子は、ラコステ。
ボーダーシャツは、セント ジェームス。
シャルピーナ(イタリア語で、“小さなスカーフ”の意)は、セブンフォールド(AFTERHOURSで取り扱いあり)。
ジーンズは、リーバイス ヴィンテージ クロージングの501。
ブーツは、ブレザーライト。今はなき、アメリカ製の靴です。
リュックは、フェッルッチオ セラフィーニ(AFTERHOURSで取り扱いあり)。ローマの“じっちゃん”こと、セラフィーニさんがコツコツと手作りしているリュックで、会社では、私および編集部員の高木くんが持っています。男3人がおそろいのリュックを持っている姿は“おぞましい”の一言です。
折りたたみの傘は、マリオ タラリコ(AFTERHOURSで取り扱いあり)。持ち手がレモンの木でできている、実にナポリらしい傘です。
さて、もう一方のコーディネイトは・・
プリントシャツは、シンガポールのケヴィン シアー。
「ケヴィン・シアーと僕とは年が同じで、応援したいと思っています。ちなみに同じシンガポールのコロニークロージングの河村浩三さんも同い年なんですよ。このシャツはブロックプリントが面白いし、涼しいので日本の夏にはぴったりだと思います」
これも私は1着入手しましたが、高木くんに「歌舞伎町では、着ないほうがいいですよ」と言われました。
ジーンズは、ヴィンテージの501XX。
サンダルは、ジャコメッティです。
ご覧のように、ユーコー・フジタのスタイルというものは、パッと見は地味で、“トレンディ”とか“ファッショナブル”の対極にあるもので、女性ウケは最悪だと思われますが、“好き者”や“変態”には大変評判がよく、それぞれのアイテムは、噛めば噛むほど美味しくなる、スルメのような魅力をたたえています。
私以外にもこういったスタイルを愛する人は多いようで、
「サイトをオープンしてから、1年経ちましたが、どうやら軌道に乗りつつあります。インスタをこまめにあげること、なるべくコーディネイトを載せることがポイントですかね」
それにしても、商売をやる以上は、お金のカウントが大切。そしてそれはユーコーちゃんが一番苦手なことだったはず・・
「その点は、大丈夫です。僕も集中すると、ちゃんと細かいこともできるんですよ」
じゃあ、ウチでも集中してくれよ・・
「もっといろいろな友人たちと、取り組みをしたいですね。今度スピーゴラの鈴木幸次さんと財布を始める予定なんです。でも彼も“イタリア人”なんで、なかなかサンプルを送ってこない(笑)」
とイタリア人をイタリア人が笑っていました。
いずれにしても、20年近くも一緒に仕事をしているにもかかわらず(そして裏切られ続けているにもかかわらず)、いまだに“コイツは面白いなぁ”と思わせてくれる天才、ユーコー・フジタの世界を、ぜひ覗いてみて下さい。
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