From Kentaro Matsuo

THE RAKE JAPAN 編集長、松尾健太郎が取材した、ベスト・ドレッサーたちの肖像。”お洒落な男”とは何か、を追求しています!

阿久津隆一さん

Friday, April 10th, 2020

阿久津隆一さん

EY税理士法人 パートナー 税理士

text kentaro matsuo  photography tatsuya ozawa

“税理士さん”と聞いて、皆さんは何を想像するでしょうか? 事業主やフリーランス、経理担当ならともかく、フツウのサラリーマンの人だと、なかなか具体的なイメージが湧かないのではないでしょうか? 

「数字を扱っていて、なんとなく地味そうな仕事」とか?

 

 私もそうでした。しかし今回、阿久津さんにお会いして、税理士さんのイメージが180度変わりました。

「私は世界でBIG4といわれる世界四大会計事務所のひとつ、EYに所属しています。売上が数十億から一兆円以上ある上場企業を中心に、現在35社を超える税務顧問をしています。彼らが海外進出をする際の、日本・海外の税金面のアドバイスをするのです。最近では企業買収など、大きな話も多くあります。税理士はつまらなそうとか、大変そうとよく言われますが、とても面白い仕事ですよ」

 モットーとしているのは“逃げない攻め”の姿勢だとか。

「税理士を含め、いわゆる士業の業界はリスクを取ることを避ける傾向がありますが、私はクライアントの立場に立って、より踏み込んで一緒にリスクを取りに行きます。フットワークの軽さ、レスポンスの早さ、そして難しいことを簡単に説明できる、コミュニケーション能力がポイントだと思っています。士業といっても、純粋なサービス業ですので」

 

 攻めの姿勢は、ファッションにおいても変わりありません。それは阿久津さんのインスタグラム(@forever_in_love_with_classico)を見ればわかります。

「毎日1回、必ずコーディネイトをアップしています。そして絶対に同じコーデにならないよう努力しています。そのプレッシャーはハンパではありません(笑) 私のインスタは、人に見せるためのものではなく、自分の記録用なのです。もはやこれは、ひとつの鍛錬だと思っています」

 驚いたのは、ワードローブの管理方法。

「すべてのアイテムをエクセルに入力して管理しています。例えば靴なら、どこのブランドで、最後に履いたのはいつで、いつ自分で磨いたか、いつプロに磨いてもらったか、全部記録してあります。スーツやジャケット、鞄なども同様です。どうしてそんなことをしているのか、ですって? せっかく好きで買ったものなのですから、少しでも長く愛用したいではないですか。お気に入りでもヘビーローテーションで使い続けると、すぐに傷んでしまいますよね。しかし、こうやって管理すれば、ずっと着られるようになるのです。私のスーツは、10〜15年選手ばかりです」

 ワードローブをエクセルで管理している方には、初めてお会いしました。そして服に対して、ここまで愛情を注いでいる方も、他にいないでしょう。

スーツは、ソリート。あのフジタも愛用しているナポリのテーラーです。

「ジェンナーロ・ソリート氏が来日した際に、南青山のシャロンで作りました。正直、仮縫いと中縫いのときには、そこまでぐっと来なかったのですが、仕上りは本当に素晴らしかった」

 

 タイは、親交のある加賀健二さんが手がけるアット・ヴァンヌッチ。

「タイは最近ここか、マリネッラしかしていません」

 

 シャツは、アンナ・アンナマトッツォ。コットンではなく、リネン製です。

「リネンのシャツは、夏だけではなく、一年中着ています。いいものならいつ着てもいいのではないですか? 最近ではサマーコーデュロイなんて素材まであるくらいですから・・」

 

 チーフはマリネッラ。

 胸ポケットにさしたペンはモンブランです。

 時計はブレゲ トラディション インディペンデント クロノグラフ。

「40歳になった記念に買いました。クラシックな時計なのに44mmという大きなケース径が気に入っています。ブレゲは大好きで、他に3本持っています。クラシックなところ、そして何より人とカブらないところがいいですね」

 

 左手の薬指に嵌めているリングはブシュロンのキャトル。しかし阿久津さんは、独身だったはずでは・・?

「これはいわゆる“ビジネス・マリッジ”リングです。私のクライアントには日系企業も多いので、無駄に勘ぐられないようにしているのです。それに変な人も寄ってこないですし・・(笑)」

 飲み会の前に、いちいち結婚指輪を外す輩(やから)は何人も見ましたが、その反対の方は珍しい。

ネイビーのスエードシューズは、ジョン ロブのチャペル。

「ジョン ロブは一番好きな靴です。持っている靴の7、8割はここのものです。とにかく初めから履いていて辛くない。ベーメルやクレバリーもありますが、私には硬すぎて慣れるまでにかなり時間がかかっています・・」

 

 ちらりと見えているソックスは、ケンジロウ・スズキ。パリ在住のテーラー、鈴木健二郎さんが手掛けているブランドです。

「最近、こういったテイストのソックスがなくて・・」

 存在感のあるバッグは、大峽製鞄の“ザ・ダレスバッグ”。把手とサイドに張ってあるクロコダイルがアクセント。

「いつも書類やPCを持ち歩いているので、もう重くて。それにこれは口が固定されないタイプなので、いつも腕を挟んでしまうのです(笑)。それでも大好きなカバンで、ネイビーの他に、黒とこげ茶も持っています。」

 

 中を覗かせてもらうと、そこには小さな袋がたくさん。

「私は財布や名刺入れ、小銭入れなどは、すべて小さな袋に入れて携帯しているのです。この袋は、母親が昔買ったエルメスの革製品に付属していた袋を、母親自身が縫い直して作ってくれたものです。確かに取り出す手間はひとつ増えますが、こうしておくと、ダメージがない。革小物は、すぐにエッジが擦り切れてしまうではないですか」

 うーん、所有物に対する、すごい愛情です。

 ちなみに、財布はファーロ、名刺入れはカミーユ・フォルネのオーダー、小銭入れはバレクストラです。

「すべて10年以上使っているものですが、皆とてもキレイでしょう?」

 それぞれを作った職人がこれを見たら、きっと涙を流して喜ぶことでしょう。

もっと泣けるのは、15年以上履いているジンターラの靴。

「甲の部分がボロボロになってしまったので、ブリフトアッシュの長谷川さんに、“チャールズ・パッチ”を張ってもらったのです。あのチャールズ皇太子も、こうやって継ぎはぎやパッチを当てたスーツや靴を愛用していましたよね。モノを大切にする心を見習いたいものです」

 こんなリペア方法があるとは・・でも、なんだか味があって、新品よりいいですね。

 「買ったものは、絶対に捨てません」という阿久津さんは、修理王です。

「キックボクシングや総合格闘技を15年近くやっているのですが、かつて体を絞ったときに、5kgも体重が落ちて、体型が変わってしまった。そこでスーツ16着・パンツ23本を、一度にお直しに出したこともあります。あの“サルト”の、上位顧客ベストスリーに入ったこともあるんですよ」

 

 それ以来、体型維持にはひときわ気を遣っているそう。

「私は一日一食、朝食しか食べません。昼と夜は、基本的に抜いています。夜に会食が入っているときは、朝と昼を抜くので、30時間以上何も食べないこともあります。ベスト体重は63kg、許容範囲は、プラスマイナス0.5kgまで」

 

 今、いったい何着くらいのスーツをお持ちなのですか? との問いには、さっとPCを取り出し、エクセルを立ち上げて、

「現在スーツとジャケットが52着(うち1着がオーダー中)、靴は33足、ネクタイは194本(うち6本がオーダー中)です」と即答。さすがです・・

 どこまでもストイックな阿久津さんですが、実は意外とおっちょこちょいなところもあり、しょっちゅうモノを落としてしまうとか。しかし、そこからのリカバリーがすごい。

「慌てていると、ついつい置き忘れてしまうのです。先日も大切にしていた岡本拓也さんが手がけるT・MBHでオーダーしたキーケースをなくしてしまった。どこに問い合わせても見つからないので、最終的に警視庁の拾得物公表システムに辿り着き、毎日リストをチェックして、徹底的に探しました。しかし、写真は載っていないので、『これは?』と思ったものに電話をして、いちいち問い合わせるしかない。しかし、そこで困ったのが、色が微妙だったこと。人によってブルーにも、グリーンにも、グレイにも見える。先方は“なりすまし”を防ぐために、聞いても何も答えてくれない。さんざん苦労しましたが、3回目の電話にして、ついに実物を見つけ出し、紛失から約一週間で取り戻すことができました」

 その執念に、頭が下がります。

 税理士として自分の武器は、税金の知識、英語を含めたコミュニケーション能力、そして向上心の3つと仰います。

「英語は大学1・2年生の時に週5日、日米会話学院へ行って学びました。私は基本的に“勉強”が好きなのだと思います。自分の知らない新しいことを学び、それを役立てるのが楽しいのです」

 阿久津さんの第4の武器は、間違いなくファッションですね。ワードローブを完璧に把握し、手をかけ、工夫して組み合わせる・・まったくファッショニスタの鑑です。

 

 それにしても勉強がお好きとは・・まったく、ウチの愚息に、爪の垢を煎じて飲ませたい。今度、爪の垢下さい(笑)

 

 

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