4ヶ国語を操る「影の存在」
中尾浩規さん
Tuesday, February 12th, 2019
中尾浩規さん
ユナイテッドアローズ メーカー開発担当
text kentaro matsuo photogaphy tatsuya ozawa
「本来、私は表に出ては、いけない人間なのです」
中尾浩規さんが、開口一番おっしゃったのは、こんなセリフでした。
最近のセレクトショップは、その業務が多様化し、一昔前では考えられなかったようなビジネスを展開しています。例えば、ビームスが海外通販のMR.PORTERとコラボしていたり、伊勢丹メンズにオンラインショップB.R.SHOPのポップアップ・ショップが出来たり・・
中尾さんがご担当なさっているのも、そんな新しいかたちのビジネスです。
「私はユナイテッドアローズに所属していますが、お相手しているのは、ビームス、シップス、トゥモローランド、伊勢丹などの方々です」
なんとユナイテッドアローズは、小売り業だけでなく、海外ブランドのエージェント業もやっているのです。カルーゾ、フィオリオ、エリコ フォルミコラ、サルヴァトーレ ピッコロなどの人気ブランドは、UAがエージェントとして、日本の窓口を務めており、国内の他ショップへ卸しています。
「バイヤーとして一番手強いのは、ビームスの中村さんですね(笑)。彼と商売出来れば、世界中どこへ行っても通用するでしょう」
同じ会社の同僚である栗野さんや鴨志田さんとも、エージェント対バイヤーの関係です。
「栗野さんも厳しい。他にはない独特の視点から物事を見る人です。鴨志田とはカモシタユナイテッドアローズを、海外に売り込むお手伝いをしています」
う〜む、なかなか理解するのが難しいポジションですね。さすがに自社のスタッフを語る時は、本人も少々混乱しているようで、“さん”が付いたり付かなかったり・・私の知る限り、中尾さんのようなポジションの方は、他にはいないのではないでしょうか?
「まるでコウモリのような存在です(笑)」
コットン×リネン×シルクのスーツは、カルーゾ。
「カルーゾは、主張しすぎないところが好きですね。イタリアのブランドですが、フランスの特にウィメンズ・メゾンの服を多く作っているファクトリーということもあって、少し中性的なモノ作りができるところも特徴です」
先代のウンベルト・アンジェローニさんは、業界を代表する紳士でしたが、現在の経営はやはり高身長のハンサムガイ、息子のマルコさんに引き継がれています。
シャツは、エリコ フォルミコラ。
「創業者のエリコは、往年のナポリの名店、ロンドンハウスの販売員を振り出しに、世界中を回った叩き上げの人です」
タイは、フィオリオ。親会社のカネパ社はイタリアを拠点とするニットタイの名門で、世界のシェアの6割を抑えているとか。
「ニットタイのアーカイブは圧巻です。これは、かつてトム・フォードがアレンジした柄をベースにしたものなんですよ」
シューズは、ソロヴィエール。フランス人の女性デザイナー、アレクシア・オーベール氏が手掛けるブランドで、バレエシューズのようなソフトな質感と、折畳み紐でまとめただけのベロ部分が特徴です。
コーディネイトのポイントは? との問いには、
「表に出てはいけない人間なので、色柄はなし。無地でまとめました」と。
イタリア人には、よく“オンブラ・カッティーヴァ”と言われるそうです。
「直訳すると“影のイジワルなヤツ”という意味です(笑)。私の仕事は人の行かない時期に、人の行かないところへ行って、人が知らないものを見つけることなのです」
なんだか、すごく面白そうな仕事のように聞こえます。世界を舞台にした、宝探しのような・・。その強力な武器となるのが、堪能な語学力です。中尾さんは、なんと英仏伊そして日と4カ国語を話せるクアトロリンガルです。
「英語は大学時代のアメフト部にいたアメリカ人の友人から、フランス語は2年間のパリ留学で、イタリア語は仕事をしながら覚えました」
もはや天才ですね・・。語学ができると、いいことがいっぱいありそうです。
「例えばエールフランスに乗っていてCAにワインを頼んでも、英語だと『レッド・オア・ホワイト?』で終わりですが、フランス語でオーダーすると、詳しいワインリストを教えてくれることもあるんですよ」
ああ、なんとなく、そんなことだろうと思っていました・・(羨)
中尾さんのような国際派ファッショニスタが、日本にもっと増えるといいですね!