From Kentaro Matsuo

THE RAKE JAPAN 編集長、松尾健太郎が取材した、ベスト・ドレッサーたちの肖像。”お洒落な男”とは何か、を追求しています!

ピッティでイタリアンスタイルに魅せられた
太田裕康さん

Tuesday, September 25th, 2018

太田裕康さん

 ユナイテッドアローズ ザ ソブリンハウス ブランドディレクター

text kentaro matsuo  photography natsuko okada

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丸の内仲通りにあって、ひと際高級感あふれる品揃え、ザ ソブリンハウスのディレクター、太田裕康さんのご登場です。ザ ソブリンハウスといえば、クラシックの王道的なイメージがありますが・・

「お店のオープンは1997年なのですが、もともとは、ハイ・トレンドを追求するというコンセプトだったのです。ところが当時、トレンドといえば、クラシコ・イタリアがものすごく流行っていて・・それをメインにやっていたら、いつの間にかクラシックな店として認知されてしまいました(笑)。しかし、今でもトレンドをほどよくミックスさせるということは意識しています。昔から、エトロやピオンボのようなブランドを扱ってきましたし、最近ではジル・サンダーも始めました。“モダン×クラシック”がウチのテーマです」

 

今では、ザ ソブリンハウスのすべての商品をコントロールしている太田さん。その装いも、新旧のいいモノが入り混じったスタイルです。

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 ハイゲージ・ニットのアンサンブルは、ザ ソブリンハウスのオリジナル。ご自分で企画をし、定番として毎シーズン店頭に並べられるものだそうです。

「女性の間では当たり前ですが、男性が同じ種類のニットを重ね着することって、ほぼないじゃないですか。しかしやってみると、これが本当に便利なのです。ニット同士を合わせてもいいし、タートルとカーディガンを別々にジャケットに合わせてもいい。着こなしの幅が一気に広がります。寒さ対策としても持ってこい。男性に、ニットのアンサンブルを根付かせたいと思っています」

 

パンツは、神戸の名店コルウでオーダーしたもの。

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時計は、オーデマ ピゲのロイヤル オーク チャンピョンシップ。もともとはニック・ファルドが全英オープンを制したことを記念して作られたモデルで、1980年代に200個限定で発売されました。

「材料にタンタルというレアメタルが使われています。腐食せず、アレルギーフリーの金属です。クオーツなので時刻合わせも必要なく、34mmと小ぶりなのでドレスシャツを身につける際にもジャマになりません。この時計をしていると、お客様から『それ何?』とよく聞かれます。実はユナイテッドアローズでも、ヴィンテージ時計を扱っているのですが、私は同じモデルを、もう何本も売りました(笑)」

太田さんは時計も大好きで、1週間で3本の時計を買ったこともあるとか。

「いま密かに目をつけているのは、1980〜90年代あたりのピアジェです。誰も注目していないので、今ならまだまだ安い」

 

リングは、友人に作ってもらったもの、ブレスは自分でデザインしたもの。

 

タッセル・シューズは、ボードワン アンド ランゲというロンドンのブランド。

「一見華奢なのですが、インソールが3レイヤーになっていて、驚くほど履きやすい。先日もロンドンの街中を20km以上も歩いたのですが、ぜんぜん疲れませんでした。バリエーションも幅広い。この靴は、秋冬シーズンに大ブレイクする予感がします」

10月にはザ ソブリンハウスでオーダー会も予定されています。

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 太田さんがユナイテッドアローズに入社してから、すでに20年以上の月日が経ちました。今では同店を代表するファッショニスタの一人ですが、最初はバイトだったそうです。

「ある日、大先輩の鴨志田さんに『イタリアへ行ってみたい』と打ち明けたら『じゃあ、一緒に行こうぜ!』と二つ返事で連れて行ってもらえることになりました。しかし、旅費は自腹でしたが(笑)。そして出かけた1995年冬のピッティで、衝撃的な体験をしました。皆ごくフツウのものを着ているのに、ものすごくカッコよかった。アレには驚きました」

 

ピッティに集っていたイタリア人に魅せられ、フィレンツェで一番の名店でスーツをオーダーしたそうです。

「有名なリヴェラーノ&リヴェラーノで、洋服をオーダーしました。ところが仮縫いのことをすっかり忘れていた。仕方なく、半年後のピッティも自腹で出かけました。そうしたら、またオーダーしてしまって・・」

気がついたら、お金がまったくなくなっていたそうです。

 

「買い物に関しては、ほとんど病気ですね(笑)。今ではピッティへの渡航費は会社が出してくれるようになりましたが、ショッピング癖は止まりません。特に好きなのはカバンです。カバンの中にカバンを入れて、そのまた中にカバンを入れてしまっていたら、まるでマトリョーシカのようになってしまって・・今では何個持っているのか、見当も付きません(笑)」

 

でも、バイヤーとして、買うことそのものが仕事になったのだから、決して無駄な出費ではなかったですね。ユナイテッドアローズは、最高の職場ですね。

 

「でも、自分で本当に欲しいと思ったものを買い付けるので、結局自分で買ってしまい、相変わらずお金がありません。最高にして最低の職場ですね(笑)」と。

しかしその笑顔は、いかにも満足げでありました。