世界的人気を誇る、大和魂のアメトラ
山本祐平さん
Friday, November 10th, 2017
山本祐平さん
株式会社ケイド代表取締役
text kentaro matsuo photography tatsuya ozawa
東京を代表するテーラーのひとつ、ケイドの山本祐平さんのご登場です。ファッション&マスコミ業界に幅広い交遊関係を持つ山本さんを、ご存知の方も多いでしょう。
私が「今の日本で一番お洒落かもしれない」と思っているお洒落の天才、フェアファクス コレクティブ社長、慶伊道彦さんの御用達テーラーとしても有名です。
「慶伊さんと初めてお会いしたのは、もう17年も前のことになります。それから100着以上は作って頂きました。いまでもよくお会いしていますし、最も話が合う方の一人です」
お互いに、アメリカ文化が好きで、アイビーやジャズの話をしていると、止まらなくなってしまうそうです。
山本さんの服作りのルーツは、幼い頃に観たアメリカ映画にあります。
「小学校6年生の頃、映画『スティング』を観て衝撃を受けました。ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードを目の当たりにして、『世の中にこんなにカッコいい男たちがいるんだ』と仰天しました。それからは、もう映画三昧。映画館に通って3本立て500円の映画を貪るように観ました。私のスタイルのルーツは、間違いなくその頃に観た映画にありますね」
スーツはもちろんケイド。テーラー&ロッジに別注したオリジナルのヘビーウエイトのシャークスキン生地で仕立てられています。カラーはミッドナイト・ブルー。
「ソリッド(無地)のダークスーツに白シャツ、そしてソリッドタイといったスタイルが多いですね。引き算の美学を追求しています。そういったコーディネイトの方が、着ている男のパーソナリティを引き出すのです」
シルク・バスケットのタイは、ケイドのオリジナル。
シャツもオリジナルですが、これは映画監督の小津安二郎氏へのオマージュだとか。
「小津監督はいつも同じような格好をしていたのです。万年筆を入れるための大きなポケットがついたストレートカラー(長めの襟)の白シャツに、コットンピケの帽子を被り、グレイのパンツを穿いていた。しかし、実はもの凄くお洒落な人で、帽子はダース単位、シャツも5枚ずつ作っていたそうです。そういった昔の男の美学が好きで、ウチでも同じモノを作りました」
チーフはラルフ ローレン。
時計はカルティエのタンク。
「タンクは、ドレスからカジュアルまで、何にでも合う時計です。わざわざ趣のある1970年代のものを探して購いました。ちなみにスポーツをするときは、ロレックスのGMTマスタ—をしています。これは故・石原裕次郎さんやスティーブ・マックィーンがしていたのがカッコよくて」
シューズはオールデンのタッセルローファー。
「足元でちょっと“抜く”のが私のスタイルです。素材はあえてのカーフで。サヴィルロウより、ニューヨークのマディソンアヴェニューの感じ。舞踏会より街で映える男。バシっとキメていても、どこかフランクな格好が好きなのです」
なるほど、その感じ、わかります。それはかつて山本さんが在籍していた名店、ボストンテーラーの雰囲気に相通じるものかもしれません。
「ボストンテーラーでは、仕立屋の原点となる経験を積みました。いまと違って当時のテーラーには、さまざまな職種のお客様がいました。クセの強い人がたくさんいて、それぞれの突飛なデザインや特殊なリクエストにも応えなければならなかった。そして当時は年初から新しいスーツを着るという習慣もあって、その年にオーダーを受けた服は、必ず年内に納めなければならなかったのです。振り返ると大変でしたが、とても勉強にもなりました」
そういう山本さんのところには、不思議と若い人が集まって来ます。
「お店の常連さんや、私が社員として雇っている職人の中にも20代の人がたくさんいます。今の世代は服作りはウマいけれど、そのバックグラウンドにあるカルチャーを知らない。そういったことを次世代に伝えていきたいですね」
確かに、山本さんの話す、昔のダンディたちのエピソードは、聞いていてとても面白いものです。皆その話術に魅せられてしまうのでしょう。
往年の本や雑誌、レコードに囲まれた、男のおもちゃ箱のようなケイドの店内で、山本さんの笑顔はひときわ魅力的でした。
テーラーケイド
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