From Kentaro Matsuo

THE RAKE JAPAN 編集長、松尾健太郎が取材した、ベスト・ドレッサーたちの肖像。”お洒落な男”とは何か、を追求しています!

中国のクラシックを牽引する
ジョージ・ワンさん

Tuesday, October 25th, 2016

ジョージ・ワンさん

 BRIO ファウンダー&オーナー

text kentaro matsuo photography tatsuya ozawa

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 THE RAKEの本誌でも何度も登場してもらっている北京のジョージ・ワンさんです。中国で唯一ともいえる、本格テーラード・クロージングのお店、BRIOを経営しています。彼のお店が扱っているのは、ダルクォーレ、アヴィーノ、ベーメルなど、世界でもトップクラスのブランドです。

 

ちなみに私が初めて行った外国は中国でした。1980年代前半のことです。香港から列車で深圳、そして広州の街に入りました。当時は、まだ人民服=マオ・スーツを着ている人が多くいて、日本とのあまりにカルチャーギャップに、びっくりしたものです。向こうは向こうで私の格好(その時着ていたのは、確かコム デ ギャルソン)が非常に珍しかったらしく、街を歩くと後ろから人が、ゾロゾロついてきたことを憶えています。

 

それから、30年以上が経ち、中国は彼のようなアジアでも指折りの洒落者を輩出するまでになりました。彼の着こなしの巧みさは、今までの中国人のイメージを覆すものです。われわれが見習うべきファッショニスタでしょう。

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ジャケットはヌンツィオ・ピロッツィ。6年前にナポリにてス・ミズーラしたものです。

「私はイタリアの服が大好きです。柔らかで、人が動いている時に美しく見える。イタリアで一番好きな街はフィレンツェです。ルネサンスの美と文化を感じます。ナポリもテーラーやレストランへ出かけるにはいい街ですが、現地に友人がいないと、楽しむのが難しいところがある」

 

そういうジョージさんは、ナポリにも友人がたくさんいて、そのネットワークがBRIOを立ち上げる際に、大きく役立ったようです。

「私はルビナッチの店を訪ねた、初めての中国人でした。当時のナポリでは、どこへ行ってもそんな感じでしたよ。だから珍しがられて、いろいろと聞かれたのです。そして彼らと友人になりました」

 

フレンチ・オックスフォードのボタンダウン・シャツは、ブライスランズのオリジナル。胸のポケットにフラップが付いているのが特徴です。

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パンツは日本人パンタロナイオの尾作隼人さんが作ったもの。生地はマーティン&サンズです。

「最初はちょっと細すぎるかな、と思ったので、尾作さんと話し合って、ゆったりめのシルエットにしてもらいました。日本人の作るものは、イタリア人とは違ったよさがあります。イタリア人はフィーリングでモノを作りますが、日本人はすべてにおいて正確ですね」

 

ベルトは、イル・ミーチョ。以前この連載にも出ていただいた、フィレンツェ在住の深谷秀隆さんのブランドです。これはBRIOのオリジナルだそうです。

 

メガネはアイヴァン。これも日本を代表するメガネ・ブランドの一つです。

彼のようなアジアの洒落者は、必ずと言っていいほど、日本のブランドを愛用してくれています。

今こそ官民挙げて、日本をファッションと職人の国として売り出す時だと思うのですが、いかがでしょうか?

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シューズはオールデン。黒のコードバン製です。

 

北京で生まれたジョージさんは、小さい頃からアートに興味があって、幼い頃は画家になろうと思っていたそうです。12歳のときにサンフランシスコに移り住み、サンディエゴの大学を卒業しました。ですから一般的な中国人とは、相当違う感性を持っています。

 

「中国ではビジネスの場でも、皆カジュアルな格好をしています。ジャケットにポロシャツといったスタイルが一般的なのです。ですからBRIOのようなショップは、なかなか難しいところがある。しかし顧客の平均年齢は、30歳くらいです。ですから、これから10年、15年と経ち、われわれの世代が社会の中心になる頃には、状況はきっと変わると思いますよ」

 

私も、そう思います。日本もかつてはブランド・ロゴ至上主義的なところがありましたが、市場が成熟するにつれて、派手さはなくても、クオリティのよいものに人気が移っていきました。きっと中国もそうなります。

ジョージさんは1980年生まれですから、今年36歳。まだまだこれから、の年齢です。彼のような若者が、これからのアジアの、そして世界のクラシック・ファッションを牽引していくのでしょう。