強面の大男は超売れっ子テーラー
宮平康太郎さん
Monday, October 10th, 2016
宮平康太郎さん
サルト、サルトリア コルコス店主
text kentaro matsuo photography tatsuya ozawa
この一見強面の大男が、世界中で話題の売れっ子サルトだとは、誰も思わないでしょう。しかし、その装いを注意深く見れば、彼が只者ではないことがわかります。
フィレンツェの“サルトリア コルコス”は、いま最も勢いがあるサルトリアのひとつです。オープンしたのはたった5年前であるにもかかわらず、アメリア、ヨーロッパ、アジア、そして日本から引っ切りなしにオーダーが舞い込みます。その店主が、今回ご登場の宮平康太郎さんです。
「残念ながら、現在新しいお客様は、お受けすることができないのです。2017年に納めるものまで、すべていっぱいになってしまいましたから。クオリティを考えると、どうしてもそうせざるを得なくて・・」
人気の秘密は、丁寧なフィッティングとフィレンツェらしい意匠にあります。
「仮縫いは最低2回。納得しなければ3回でも4回でもやります。私の服は何十年も着ることが出来る、伝統的なフィレンツェのスタイルです。そしてお客様の肌の色、体型などを考慮して、こちら側からも積極的に提案をします。それがイタリア流のサルトのあり方だと思います」
実は私も、今回初めて一着作ってみたのですが、結構硬めのツィード地だったにもかかわらず、その着心地はとてもソフトに感じます。肩の上にきちんと乗っていて重さを感じず、シルエットが実にキレイなのです。
また彼の提案してくれたツィード地は、私の好みにぴったりでした。
ジャケットはもちろんサルトリア コルコス。自慢の生地コレクションから選んだ麻で作ったもの。
「廃業したサルトのデッドストックなどを買い受けて、もう600本くらいストックしています。私の生地コレクションは土臭く、くすんだ感じのものが多いですね。それが田舎であるフィレンツェの街が持つ色なのです。これが例えばナポリあたりだと、もっと明るいブルーなどが多いですし、ミラノだと濃紺や濃いグレイなど、都会的な生地を使うと思います」
パンツもコルコス。パンツは以前は自分でも縫っていましたが、今は齢80歳になるおばあちゃんに頼んでいるそうです。
「イタリアでは、すべてについて言えますが、特にパンツ職人は高齢化が激しい。このままだと100年の歴史を誇るパンタロナイオの歴史が終わってしまう」と警鐘を鳴らします。
リネンのタイとコットンのシャツもオリジナル。それぞれフィレンツェとナポリの工房へ発注しています。
「タイ生地も自分で探して来たものを使っています。自分でもネクタイやら、トランクスやら、作ろうと思えば作れるんですよ。古い職人は皆そうでした。やっぱりモノ作りが好きなのでしょうね」
時計はカルティエのタンク・アメリカン。ストラップをナイロン製の“夏物”に替えています。
「工房を持つきっかけを作ってくれた、イタリアの友人が持っていたものです。私が作ったスーツと交換しました。その人は当時はお金持ちだったけれど、その後ビジネスに失敗して、今はもうスーツは作れなくなってしまった。けれど友人として、いまだにちょくちょく会っています」
新しい客は取らないけれど、古い客は客でなくなっても大切にする。そういったところに、宮平さんの魅力があるのでしょう。
シューズは、ステファノ・ベーメルで働いている“アキラ君”が作ったもの。
「名字は知らないんです(笑)。こっちは皆ファーストネームで呼び合っているから」
あ、ベーメルといえば“マサコさん”も有名ですよね。
さて宮平さんの生まれは1982年ですから、今年35歳です。若いですね。私がかつて在籍していたメンズ・イーエックスが創刊した頃、彼はまだ日本の小学生だったことになります。それが今では遠いイタリアで立派なサルトになり、伝統文化を守って次世代に伝えていこうとしていのですから、本当に感慨深いものがあります。
そういえば、彼の家にも先日“次世代”生まれました。今、四ヶ月の男の子。子供のことを話すときは、さしもの強面も、目尻が下がりっぱなしでした。