TUDOR BLACK BAY FIFTY-EIGHT
風合いを愛でる。
February 2022
時計をファッションとしても楽しもうと考えるのなら、その風合いの変化を考慮に入れるのも一案だろう。
チューダーにはその選択肢がある。
text tetsuo shinoda
photography jun udagawa
左:ブラックベイ フィフティ-エイト 925
ケース素材としてスターリングシルバー(シルバー925)を使用した、チューダー初のモデル。やや鈍い光を放つケースの色合いに合わせて、ダイヤルの色にはトープを採用。ブラウンとグレイを合わせたような絶妙なニュアンスカラーで、温かみのある色合いがとても上品だ。フランス のファブリックストップも同系色でまとめられており、腕元に柔らかな印象を生み出す。自動巻き、シルバー925ケース、39mm。¥490,600 Tudor(日本ロレックス / チューダー TEL.03-3216-5671)
右:ブラックベイ フィフティ-エイト ブロンズ ブティック エディション
ケースだけでなく、ブレスレットも同じブロンズ素材で統一した最新作。長さの調整が可能なバックルもまたブロンズ製というのはかなり珍しい。銅とアルミニウムのブロンズ合金のため、変色は緩やかに進んでゆく。ダイヤルやベゼルは、ブロンズのカラーと相性が良いブラウンを採用。視認性を高めるスノーフレーク針や3、6、9をアラビア数字にしたインデックスもアクセントとなっている。自動巻き、ブロンズケース、39mm。ブティック限定モデル。¥514,800 Tudor(日本ロレックス / チューダー TEL.03-3216-5671)
高級時計の常として、オーナーは美しい姿をいつまでも保ちたいという思いがあるだろう。特にスイス時計はケースの柔らかな造形と美しいポリッシュ仕上げを特徴とするゆえ、傷は目立ってしまう。スポーツウォッチにおいてはヘアライン仕上げを採用して目立たないようにする場合も多いが、いずれにしても腕時計である以上、傷がついてしまうことは避けられない。
そのため、衝撃が加わりやすいベゼルやケースそのものにセラミックなどの超硬素材を採用することで傷を防ごうという試みも増えている。また、素材の表面に科学的に強化被膜を作る技術も開発されている。このように、経年の変化や劣化に抗って“永遠に美しく”保つことは、時計業界の共通の目標であった。
しかし一方で、その変化自体を楽しんでしまおうという時計ブランドも現れている。ファッションにおいてもヴィンテージ市場は活況を呈しており、身体に馴染んだレザージャケットや、レザーシューズの履きジワ、あるいは程よく色落ちしたデニムは、オーナー自身の歴史とも捉えられる。風合いが増し、自分仕様になっていく過程を楽しむことを、ある種の贅沢さとする時代が到来しつつあるのだ。
1926年に設立された時計ブランド「チューダー」は、各国の軍隊や冒険家たちから信頼されてきた歴史を持つ。ブランドのマークである盾は堅牢さを示しているが、極限状態で使用されることも多いため、時計が傷つくことは至極当然のことである。であるならば、永遠に美しく保つより、いかに風合いを重ねていくかに焦点を当てるのは、全く不思議ではない。
チューダーは、多くのモデルのムーブメントやケースを一貫製造できる体制を整えている。ブロンズやシルバーといった時計においては特別な素材も、自社内で蓄積されたノウハウを用い、高いクオリティを実現できるのだ。
チューダーがまず注目したのは、ブロンズ素材だ。銅をベースとする合金であるブロンズは融点が低く加工しやすいため、古くから人類の生活とともにあった。しかもブロンズは、潜水器具の素材としても使用されてきたという歴史を持っている。そのため、ブロンズとダイバーズという組み合わせには親和性があり、ダイバーズウォッチを得意とするチューダーにとって取り入れやすかったのだろう。
銅は酸化しやすい特性があるので、ブロンズケースは経年変化によりその色合いを深めてゆく。チューダーではブロンズ素材を2016年から採用しており、「ブラックベイ」のレギュラーモデルとしてラインナップするようになった。その最新作は、39mmケースの「ブラックベイ フィフティ-エイト」のブロンズモデル。ブレスレットまで同じブロンズ素材とするが、銅とアルミニウムによる合金であるため、その変色の進み具合は緩やかであるという。
さらにチューダーでは今年、懐中時計の時代に存在していたスターリングシルバーを用いた「ブラックベイ フィフティ- エイト 925」もリリースした。“925”とは、銀が92.5%使用されているという意味だ。割り金の関係でシルバージュエリーのように黒ずんでくることはないというが、それでもステンレススティールよりは柔らかいため、小さな傷ができていき、徐々に味わいが増していくだろう。
ブロンズやシルバーといった素材は、風合いを楽しむためにあるともいえる。その変化は、世界にひとつだけ。究極の一本を自分で育てるということは、とてもロマンティックかつ贅沢な遊びである。
写真1枚目の2モデルに搭載されるムーブメントは、自社製の「キャリバーMT5400」。COSCの認定クロノメーターを取得するほどの高精度を誇り、連続駆動時間も約70時間と優秀。保証期間が5年間というのも、時計の品質に対する自信の表れである。