The Spectacle Maker: Makoto Sawaguchi
神々の道具と作りしもの:手仕事で叶える、唯一無二の“曲面”美
November 2024
まるで⽣命を宿しているかのように、⽣き⽣きとしたオーラを放つメガネ。その秘密は、丹念極まる⼿仕事によって表現された曲⾯の美しさにあった。
text hiromitsu kosone
photography kenichiro higa
Makoto Sawaguchi
澤口 亮
1965年生まれ。ITメーカーでプロダクトデザイナーとして働いていたが、偶然⽬にしたセミオーダーメガネをきっかけにメガネ作家を志す。独学で技を磨き、2019年に埼玉県川越市でオーダーメガネ工房「澤⼝眼鏡舎」を開業。採⼨・デザイン・製作まで自身で行うため、店舗は土日のみ営業。
澤⼝亮⽒が⼿がけたメガネを初めて知ったのはインスタグラム上だったが、その異彩にたちまち⽬を奪われてしまった。陶器のような美しい艶、ふくよかに丸みを帯びた造形は明らかにハンドメイドによるものとわかったものの、それにしてもこれほど⽣き⽣きとしたオーラを放っているのはなぜだろう? その秘密は、澤⼝⽒が前職で得たノウハウにあった。
「私のメガネには基本的に、“平⾯”がありません。平らに⾒えるところでも、わずかに曲⾯をつけているのです。私は以前プロダクトデザイナーをしていたのですが、そこでは平⾯を極⼒排除することで造形美を際⽴てる⼿法を学びました。曲⾯を組み合わせてデザインを構成しつつ、エッジはシャープに残す。これにより⽴体感が際⽴ってくるのです」
無論その実現には、丹念な⼿仕事が不可⽋。鉄のヤスリを駆使し、少しずつ曲⾯を描き出していく。さながら彫刻家だ。
「こういう仕上げにこだわれるのは⼀点物のオーダー品ならではですね。ほぼ⾃⼰満⾜の世界なので、お客様には気づいていただけないかもしれませんが」と澤⼝⽒は話す。が、THE RAKE読者ならその素晴らしさに衝撃を受けるはずだ。
さまざまな色柄の素材から好みのものを選んでオーダーできるメガネ。フレンチテイストなクラウンパントやウェリントン、ボストンなどデザインも多彩だ。顔の形状に合わせてレンズサイズやブリッジの⻑さ、テンプルなどを微調整するため、かけ⼼地も抜群の⼀本に仕上がる。現在の納期は約1年。¥75,900〜 Sawaguchi Frameworks
澤⼝⽒の真⾻頂である曲⾯仕上げ。鉄ヤスリでフレームを慎重に削り、鋭いエッジを残したまま平⾯にカーブをつけていく。造形が済んだら、紙ヤスリでキズを取りながらさらに滑らかな⾯へ仕上げる。そののち、⼊念にバフがけを施して艶出し。「⽔を張ったような光沢感をイメージしています」と澤⼝⽒。
フロントリムとテンプルが合わせる部分を仕上げる「縦フライス」という器具。メガネを固定する治具(台座)は鯖江で特注したものだそう。
約10種類の鉄ヤスリを使い分けフレームを造形。
オーダー時に⽤いる測定器具。顔の幅や⽬の間隔、⽿までの距離などを⼊念に採⼨し、かけ⼼地・⾒た⽬ともに最適なバランスになるようデザインする。