The Rake’s EYE: World’s 50 Best Bars 2025
アジアが世界の中心に——「World’s 50 Best Bars 2025」で見えた、日本とアジアの現在地
December 2025
一年に一度だけ開かれる、世界のバーシーン最大の祭典「World’s 50 Best Bars」。今年、その舞台として選ばれたのは香港だった。しかも今年は、かつて西洋が中心だったこのランキングで、アジアの存在感がひときわ鮮明に浮かび上がる結果に。丁寧なホスピタリティと独創的なカクテルを武器に、それぞれのバーが磨き上げてきた個性が、世界の価値観に静かに影響を与えている。アジア全体がいま、バー文化を次の時代へと押し進めているのだ。
text yukina tokida
「World’s 50 Best Bars」は、世界中のバーレビューアー、バーテンダー、ジャーナリストたちによる投票で選出される、バーシーン最大級の国際的ランキングだ。歴史やブランド力に左右されず、純粋に“その年、世界の人々を魅了したバー”が選ばれるため、ランキングには現在の価値観や潮流が色濃く反映される。都市の文化、バーテンダーの哲学、カクテルの革新性。それらがひとつのリストに凝縮されていることもあり、毎年このランキングは、世界のバー地図として扱われている。
その“世界地図”の頂点に、今年はなんと香港の〈Bar Leone〉が立った。街の喧騒に溶け込むように佇む小さなバーが、世界中の名門バーを抑えて1位となり、同店のオーナー兼バーテンダーのロレンツォ・アンティノーリ氏が、バーコミュニティのみならず、飲食業界全体から盛大に祝福されたのはいうまでもない。
〈Bar Leone〉の核にあるのは、華美なテクニックでも奇抜なストーリーでもない。構成は緻密だが、味わいはどこまでも素直でシンプル。余計な装飾でごまかすことを一切しない。カクテルのマティーニもネグローニも、フードメニューのモデレッタをたっぷり挟んだサンドウィッチや店でスモークされた自家製オリーブなど、また飲みたい食べたいと思わされる気軽さと手軽さに満ちているのだ。
〈Bar Leone〉
こうした結果を皮切りに、ランキング全体を見渡すと、アジアの躍進があらためて浮かび上がってくる。シンガポールの完成度、ソウルの実験性、バンコクの多様性、香港の国際性━━アジアの主要都市は、単なる“勢い”ではなく、それぞれの文化背景に根ざした強さを持っている。丁寧なホスピタリティ、独創的な感性、土地のストーリーを纏った一杯。そうした価値が評価されるようになった今、もはやバー文化は西洋だけのものではないのだ。
この広がりの中で、日本もまた確かな存在感を示していた。今年のランキングに選ばれたのは、東京の〈Bar BenFiddich〉、〈VIRTÙ〉、〈The Bellwood〉の3軒。どれもスタイルも手法も異なるが、その違いこそが“東京の厚み”を語っているように思う。それぞれが独自の世界観を持ちながら、都市としての東京がどれだけ成熟し、どれほど多層的な魅力を持つかを、三者三様の形で映し出していた。
まず挙げたいのは、18位の新宿〈Bar BenFiddich〉。ランキングの常連であり、今年も国内においてもっとも高い順位で評価されたこのバーは、世界のどこを探しても見つからない独自性と創造性に溢れている。オーナーの鹿山氏が自らの埼玉県にある畑で育てたハーブや果実を用い、蒸留、抽出、調合を重ねて生まれる一杯は、もはやカクテルの枠を超えている。派手な演出や技巧ではなく、静寂と緻密さ、そして歴史に軸足を置き、味わいの奥に明確なストーリーを宿すスタイル。日本のバー文化の根底を流れる精神の深さを、もっとも明確に示す一軒といえる。
〈Bar BenFiddich〉
続いては、45位に選ばれた東京・大手町の〈VIRTÙ〉。フォーシーズンズホテル東京大手町の39階に位置するこのバーは東京を象徴する存在だ。フランスのエッセンスと日本の繊細なクラフトが融合したカクテルは、どれも一見シンプルでありながら驚くほどの奥行きを持っている。それを支えているのは、キース・モッツィ率いるチーム全体の力だ。
味わいの精度だけでなく、一人ひとりのゲストに自然と寄り添うホスピタリティの高さは、国内に限らず世界随一と言っていいだろう。ラグジュアリーホテルのバーにも関わらず、国際色豊かなゲストが肩肘張らず、肩の力を抜いて過ごせるのは、洗練と温かさを備えたチームがあるからこそ。〈VIRTÙ〉は、単なるホテルバーを超え、“人が集まる場”としての完成度を絶えず更新し続けているように思う。
〈VIRTÙ〉
そして48位の渋谷〈The Bellwood〉は、その独創的な世界観で“東京の今”を象徴する一軒だ。大正喫茶文化を現代的に再解釈した、レトロでモダンな空間は、懐かしさと新しさが共存している。提供されるカクテルは、懐石料理に着想を得たもの。日本の食材に西洋のスピリッツをメインに合わせており、先付、焼物、そして御飯といった懐石コースになぞった順でメニューがラインナップしている。
日本ならではの静けさと渋谷らしいエネルギー、そしてクリエイティブな人々が自然と集まる空気感━━複数のレイヤーが重なる姿は、まさに現代の東京そのもの。〈The Bellwood〉の存在は、東京を“世界で最も面白いバー都市”のひとつへと押し上げている。
〈The Bellwood〉
こうした日本の3軒が示した方向性は、アジア全体の広がりとも響き合っている。9位に輝いた、もはや不動の人気を誇るシンガポールの〈Jigger & Pony〉は、普遍的なクラシックの美学とホスピタリティの完成度で、世界中のバーの指標となり続けている。
〈Jigger & Pony〉
〈Zest〉
16位のソウルの〈Zest〉は、いまほどサスティナビリティが声高に叫ばれる前からゼロウェイストをメインコンセプトに掲げ、ローカル素材を軸にカクテルを作り、ミニマルな世界観の店内で多くのゲストを虜にしている。
38位にランクインした香港の〈Coa〉はアガベスピリッツの魅力を文化として提示したパイオニアであり、その影響はいまも世界中に及んでいる。そしてバンコクでは、49位の〈BKK Social Club〉が、数々の類稀なバーで人々を魅了するフォーシーズンズグループとしての地位を揺るぎないものにした。
〈Coa〉
〈BKK Social Club〉
都市の多様性が重なりあうことで、アジアのバーシーンはいま、かつてない豊かさを帯びている。そこには流行り廃りやトレンドはない。文化、街の空気、土地の色……すべてが一杯のグラスに凝縮され、世界のバー文化に新しい息吹を与えているのだ。


















