THE PROMISED LAND

A.ランゲ&ゾーネ、その“約束の地”を訪ねて

Thursday, September 10th, 2020

ドイツ時計産業の聖地グラスヒュッテ。その盟主として君臨する、A. ランゲ&ゾーネの工房を訪ねた。

そこで見たものは、ザクセンの地にて古から脈々と受け継がれる、機械工学への情熱と、職人たちの矜持であった。

 

text kentaro matsuo

 

 

ドイツ東端に位置するザクセン州の州都ドレスデンから、南へクルマで40分ほど。オーレ山地の山間に広がるグラスヒュッテの町。過去には銀鉱山で栄えたこともあったが枯渇し、その貧困を救うために、アドルフ・ランゲは時計産業を興したという。現在A.ランゲ&ゾーネは、ここに数棟を擁し、盟主として君臨している。写真左端が2016年に完成した新工房。

 

 

 

 ドイツ東端に位置し、チェコと国境を接するザクセン州、その州都がドレスデンである。中央を流れるエルベ川を挟み、バロック様式の壮麗な建物が立ち並ぶ。街のシンボルであるツヴィンガー宮殿には“数学・物理学サロン”という、一風変わった博物館が併設されている。

 

 権勢を誇ったアウグスト強王が1728年に設立したもので、16~19世紀にかけての科学技術が一堂に会している。天球儀、計算機、オートマタ、そして機械式時計の類いだ。中でも圧巻は巨大天体時計“アストロノミカル・クロック”で、7つの文字盤がそれぞれの惑星の動きを表し、その総重量は2.5トンもあるという。ここを見れば、昔からザクセンの人々が、機械工学に並々ならぬ情熱を注いでいたことがわかるのだ。

 

 

Wilhelm Schmid/ヴィルヘルム・シュミット

1963年ドイツ・ケルン生まれ。アーヘン大学で経営学を学び、BPカストロール、BMWを経て、2011年、A.ランゲ&ゾーネのCEOに就任。趣味はゴルフにランニング。クラシックカーマニアで、ランチア・フラミニア、アストンマーティン・マークIIIなどを所有。1人の息子と1人の娘の父。

 

 

 

聖地グラスヒュッテへ

 

 ドレスデンから南へ約25キロ。オーレ山地の谷間を縫うように走る渓谷列車を横目に、クルマで40分ほど走ると、聖地グラスヒュッテに到着する。人口1700人ほどの小さな町だが、ここには10を超える時計工房が棟を寄せ合い、ドイツ時計産業の一大生産地となっている。

 

 A.ランゲ&ゾーネの祖、アドルフ・ランゲが、ここに最初の工房を開いたのは1845年のことだった。世紀末を挟んで、工房は次々と新技術を開発し、その名声をほしいままにするが、第二次大戦の敗戦とともに、社会主義国家の管理下に置かれ、ランゲの名は一旦消滅した。その後ベルリンの壁崩壊を経て、1990年にブランドは奇跡的な復活を遂げる。現在では2015年完成した堂々たる新工房をはじめ、多くの建物を擁し、グラスヒュッテの盟主として君臨している。

 

 

フィニッシングの工程に携わる職人。A.ランゲ&ゾーネの魅力は、贅沢かつ剛健なメカニズムの他、繊細な仕上げにもある。さまざまな時計ブランドのなかで、仕上げ装飾の美しさはナンバーワンとの声も聞かれるほどだ。

 

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