YOU NEED OMEGA SPEEDMASTER ON YOUR WRIST

オメガのスピードマスターに価値がある理由

September 2022

ヴィンテージ市場も含め、オメガのスピードマスターが非常に人気だ。

なぜこの時計は、長い間人々を魅了し続けてきたのだろうか。

 

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昨年11月、フィリップスのオークションでオメガの歴代最高額を更新したタイムピース。CK 2915のリファレンス番号を持つ初代スピードマスターは1957年から1959年にかけて製造され、バリエーションはわずか3つ。“ブロードアロー”の時分針、ミルクチョコレート色に変色した“トロピカル”ダイヤル、保存状態の良いキャリバー321が搭載されていた。

 

 

 

 2021年11月、ジュネーブのフィリップス・オークション・ハウスで驚くべき出来事が起きた。1957年製のオメガ スピードマスター CK 2915-1が、予想落札価格を大幅に上回り、3,115,500スイスフラン(約3億8700万円)で落札されたのだ。注目すべきは、この時計自体は宇宙へ行ったことがないという点である。それでも、これだけの値がついたのだ。

 

 とはいえ、やはりスピードマスターの歴史は有人宇宙飛行の歴史であり、この手巻き式クロノグラフを崇拝の対象にまで押し上げた物語を抜きには語れない。スピードマスターの歴史は長く、紆余曲折を経てはいるが、その名声を不動のものにしたのは歴史上で極めて重要な一瞬、すなわちアポロ11号に搭乗した宇宙飛行士が腕に着けたときである。これにより、ケースバックに「初めて月面で着用された腕時計」という刻印が入り、「ムーンウォッチ」として一般的に知られることになったのである。

 

 

スピードマスターの起源

 

 スピードマスターが有名になったのは月面着陸のおかげだが、この時計の歴史は宇宙へ行く何年も前から存在する。そもそも大気圏外での冒険を目的として作られたものではないのだ。1957年、オメガはその後のブランドの軸となる3つのモデルを発表する。それがシーマスター300、レイルマスター、そしてスピードマスターである。初代スピードマスター(CK2915)は、タキメータースケールにストップウォッチ機能を組み合わせたリストコンピューターとして登場。レーストラックや研究所、コクピットでの使用を想定し、目的を持ったツールウォッチとして、精度重視で設計されていた。

 

 

1957年に誕生した初代オメガ スピードマスター Ref. CK 2915。

 

私物のスピードマスターCK 2998を腕に着けたマーキュリー・アトラス8号の宇宙飛行士、ウォリー・シラー。スピードマスターはNASAに公式採用される2年半も前に既に宇宙へ行っていたのだ。

 

 

 

宇宙での活動に耐える品質

 

“月面に初めて降り立った時計”という栄誉を手に入れたのは、1969年7月21日にバズ・オルドリンの腕に着けられたスピードマスターだが、実は初めて宇宙へ行ったスピードマスターはその時のものではない。宇宙飛行士ウォリー・シラーが自費で購入し、マーキュリー・アトラス8号のミッションで地球を6周したときに着けていた私物のスピードマスターだ。シラーが着用したスピードマスターのリファレンス番号はCK 2998で、1959年から1963年の間に作られた8つのバリエーションのうちのひとつである。このリファレンスで注目すべきは、アルミ製の黒いベゼルインサートと幅の狭いアルファ針へと移行した点だ。

 

 NASAが宇宙に対応できるクロノグラフの必要性を認識したのは1964年で、マーキュリー・アトラス8号のミッションから2年後のことだった。そこでNASAは10社ほどの時計メーカーにテスト用の時計の提供を依頼した。最終的にオメガ、ロンジン、ロレックスのクロノグラフに絞られ、超高温、超低温、超高圧、超高湿、純酸素環境、衝撃、加速、振動、その他宇宙空間で予想される過酷な条件の下、11種類のテストにかけられた。そのすべてのテストに合格し、NASAに認められたのが、白いバトン針を備えた第3世代のオメガ スピードマスター ST 105.003である。

 

 

NASAに公式採用された第3世代のオメガ スピードマスター Ref. ST 105.003。

 


アポロ11号の月着陸船内の様子。バズ・オルドリンが、腕に着けているスピードマスター Ref. ST 105.012をこちらに向けている。

 

 

 

 この認証から5年後、ついにスピードマスター ST 105.012を着けたバズ・オルドリンがアポロ11号から足を踏み出し、スピードマスターは“月面に初めて降り立った時計”となった。アポロ11号の帰還後まもなく、オメガはその功績を記念し、初の限定版スピードマスターであるゴールドモデル、BA 145.022-69を発表した。最初の28本はニクソン大統領とアグニュー副大統領、そして宇宙飛行士全員に贈呈されたが、その後も宇宙飛行士にはこのモデルが贈られた。1973年まで本数は増え続け、合計1014本が生産されたという。月面着陸50周年となる2019年、オメガはこのモデルを復刻。ムーンシャインゴールドを採用した「スピードマスター アポロ11号 50周年記念 リミテッドエディション」を発表した。

 

 

スヌーピーとの物語

 

 宇宙へ行ったスピードマスターの物語は、アポロ11号では終わらない。その時計は今日このときも機能し続けているからだ。しかし、特に言及する価値のある有名な事件がひとつある。劇的なアポロ13号のミッションでスピードマスターが果たした役割だ。地球から20万マイル(約32万キロメートル)離れたところで機械船内に爆発事故が起こり、アポロ13号は宇宙空間を漂っていた。そして緊急の応急処置的な修理が完了した後、地球の大気圏へ安全に再突入するための極めて重要なロケット噴射を行う14秒を計るべく、オメガのスピードマスターが使われたのである。この功績によりスピードマスターは、1970年に「シルバー スヌーピー アワード」に輝いた。それゆえに、オメガは「スピードマスター スヌーピー アワード」というモデルを、2003年、2015年、2020年の3度、生産しているのだ。

 

 


2015年の「スピードマスター アポロ13号 45周年記念 スヌーピー アワード」。アポロ13号の飛行士たちがエンジン噴射時間を測定した14秒にちなんで、0~14秒位置に“What could you do in 14 seconds?(14秒間で何ができた?)”と記されている。

 

 

 

強力なムーブメント

 

 1957年から1969年の間、スピードマスターはケースやフェイスにいくつかの改良が施された。ベゼルと針が変更となり、ケースとプッシュボタンがより頑丈になった。この期間を通してスピードマスターの心臓部を担ったのが、有名なキャリバー321である。1946年にオメガとムーブメントメーカーのレマニアが初めて共同開発した手巻きのコラムホイール式クロノグラフで、毎時18,000振動、パワーリザーブは約44時間だった。1969年、321は低価格のカム式キャリバー861に取って代わられる。この861がスピードマスターの定番として使われた後、1996年にキャリバー1861、さらにその後はより美しい仕上げのキャリバー1863が導入された。この2モデルは今でもオメガの他の時計に搭載されている。

 

 とはいえ、キャリバー321の物語はまだ終わっていない。なぜなら2019年に、オメガが復活を宣言したからだ。1972年にアポロ17号に搭乗した宇宙飛行士ジーン・サーナンが着用したスピードマスターをもとに内部解析を行い、苦労して再設計したのだ。この復刻は手作業で組み立てられており、現在は42mmのプラチナモデルと39.7mmのステンレス製「エド・ホワイト」モデルが展開。さらに今年の新作としてオメガの独自合金カノープスゴールド素材の38.6mmが発表された。いずれも通常生産だ。

 

 


2019年に復活したキャリバー321。ブリッジとプレートにセドナ™ゴールドのPVD加工が施されている。

 

 

 

 1970年から、コーアクシャルムーブメントがコレクションに導入された2005年までの間、スピードマスターにはF300を搭載した音叉時計スピードソニックから、デジタルのクオーツ式スピードマスター、果ては1998年のX-33に至るまで、数多くの面白い派生モデルや新奇なモデルが存在した。オメガは、果敢に新しい技術をアイコニックなクロノグラフに搭載してきたのである。一見控えめな1957年のオリジナルから、オメガ スピードマスターは長い長い旅を続けており、その旅はまだ終わることがない。