The New Maserati GranCabrio
アニェッリが愛した系譜:マセラティ グランカブリオ
November 2024
text kentaro matsuo
日本でマセラティを愛する有名人といえば、堺正章氏が有名だ。世界に3台しかない1948年式マセラティA6 GCSモノファロをはじめ、1972年式のミストラルなど、貴重なコレクションを保有している。ヴィンテージばかりでなく、普段のアシとしてもマセラティを転がす根っからのファンである。氏の言葉を借りれば、マセラティの魅力は、「どうだ、すごいだろう、というようなブランドの威圧感はあんまりなくて、どこか奥ゆかしい。乗る人との関係性を多彩に構築できるような面白みを感じるところ」だという。
翻って、THE RAKEの誌名の由来ともなった故ジャンニ・アニェッリもマセラティの大ファンだった(好き過ぎて、後に会社ごと買ってしまった)。フィアットの会長に就任する以前、まだ大金持ちのプレイボーイだった1961年にオーダーしたのがマセラティ5000GTだ。
それはピニンファリーナ・デザインの美しいボディと5L340bhpの強力なエンジンを組み合わせたものだった。アニェッリは例によって煩く口を出し、直立したグリルのプロファイルやツインヘッドライトなど、あえてフツウっぽく見える意匠にこだわったという。「羊の皮を被った狼」的なクルマがお好みだったのだ。
そんな5000GTを遠い祖先に持つ一台が、今回ご紹介するマセラティ グランカブリオである。昨年発売されたグラントゥーリズモをベースとしたオープントップ4シーターだ。巨大なエアインテークや大径ホイールなど、グラマラスなエクステリアは完全にスーパーカーのそれだが、シャークノーズと呼ばれる直立した大きなグリルや、トライデントのバッジが上品な印象を与えている。
例えばフェラーリあたりと比べると、どこか大人っぽく見えるのだ。THE RAKEの読者であるクラシックなイタリアン・ファッションを愛する人々の間で、マセラティがとても人気があるのは、イタリアらしい華やかさを残しつつ、アンダーステートメントな雰囲気を漂わせているからに違いない。
心臓部はマセラティのオリジナル、3LV6ツインターボのネットゥーノエンジンである。最高出力542馬力を絞り出し、0-100km/h加速は3.6秒をマークする。わずか14秒で開閉が可能なソフトトップを開けて、アクセルを床まで踏み込むと、まるで圧殺されるがごとき凄まじい加速が得られる。
恐ろしく速い。エンジンは腹の底に響くような、野太い咆哮を上げる。それは官能的というよりは、戦慄的なサウンドである。とにかくスピードとエンジン音については、誰も文句を言わないだろう。
コンフォート、GT、スピード、コルサの4つの走行モードを切り替えることができる。このクルマはしゃかりきになって峠を攻める類のものではないけれど、手軽にクルマの性格を変えられるのは気分転換によい。コンフォートかGTを選べば、思いのほか、リラックスした乗り心地が得られる。毎日の通勤にもストレスなく使えるだろう。
インテリアは相変わらず非常に洗練されたもの。エアコンの吹き出し口がスリット状となり、ダッシュボードはますますシンプルな造形となった。マセラティのインテリアのセンスは、無粋な工業製品の枠を超越している。
色や模様を多用せず、素材の質感をそのまま生かし、そこにさりげないステッチワークでアクセントを加えている。このへんの考え方は、クルマメーカーというよりはファッションブランドに近い(マセラティはフェンディやエルメネジルド ゼニア、そして藤原ヒロシ氏率いるフラグメント デザインとコラボしたこともある)。
グランカブリオは4シーターである。リヤシートは決して「エマージェンシー」とはいえない。大人がきちんと座れるし、足元のスペースもそこそこある(カップホルダーだってついている)。子供であれば、長距離でも問題ないだろう。
例えば、フェラーリ ローマ スパイダーやポルシェ 911 カブリオレよりは広いし、シートの作りも本格的である(ような気がした)。
操作系はセンターコンソールに集められ、すべてタッチ式となった。ここでパーキングやドライブなどのシフトセレクトや、温度、ボリュームのコントロールなどを行うことができる。オープントップの開閉もタッチ&スライド式なので、最初は少々戸惑うかもしれないが、慣れてしまえばどうということはない。
トレードマークだったダッシュボード中央のアナログ時計は、デジタル表示となった。よく見ると、針が立体的なドーフィン針を模している。こういったところに、イタリアならではのこだわりを感じさせる。
マセラティ グランカブリオは、スーパーカーの性能は手に入れたいけれど、あまり目立つのは避けたいと考えている方にぴったりである。イタリア流の「控えめの美学」を体現した存在だ。決してド派手ではないが、美しく、静かに、そして力強く、心に訴えかけてくるものがあるのだ。
THE RAKEこと、ジャンニ・アニェッリは、高級で上質でエレガントなクルマを好んだ。もしアニェッリが現代に生きていたならば、きっとグランカブリオを愛車にしていたことだろう。
Maserati GranCabrio Trofeo
全長✕全幅✕全高:4,960✕全幅1,950✕全高1,380mm
車両重量:1,970kg
エンジン:2,992cc V6 ツインターボ
最高出力:550ps/6,500rpm
最大トルク:650N・m/3,000rpm
最高速度:316km/h
0-100km/h加速:3.6秒
¥31,200,000~ Maserati