THE HISTORY OF THE DOUBLE-BREASTED OVERCOAT

ダブルブレステッド・オーバーコートの歴史

January 2022

もしあなたがまだ冬のワードローブにダブルブレステッドのアウターウェアを加えていないのなら、今こそ“大物”を投入する時かもしれない。

 

 

by NICK SCOTT

 

 

 

 

 

 

 19世紀、英国海軍のサプライヤーであったカンプリン家のロバートは、英国軍の上級船員はダブルブレステッドの“リーファー・ジャケット”(別名オフィサー・コート)を着て海に出るべきだと考えた。それはフロントフラップを重ね、縦に2列のボタンを付けるというシンプルなアイデアだった。

 

 このアウターウェアが考案された時点では、ジェームズ・ディーン、ロジャー・ムーア、ダニエル・クレイグなど、その後の各時代を代表するスターたちに愛用されていくとは、思いもよらなかっただろう。

 

 

 

 

 

 英国のファッション・ブランド、キット・ブレイクの創設者でありクリエイティブ・ディレクターのクリス・モドゥーは、このピーコートの祖先が、現代のコートに影響を与えていると考えている。

 

「グレートコート、ピーコート、ブリティッシュウォーム、アルスターコート、ポロコートなど、クラシックなオーバーコートは、その多くがダブルブレステッドです。布を増やすことで、保温性が高まるのです。ラペルも大きめで、強い印象を与えます。ダブルのスーツやジャケットがほとんど見られなかった時代にも、ダブルコートが人気を保っていたのは当然のことでしょう」

 

 

 

 

 冬の日の朝、サヴィル・ロウのウィンドウ・ディスプレイを眺めながら散歩すれば、ダブルのオーバーコートがフォーマルの定番アイテムであることを再認識できるはずだ。しかし、オーダーメイドという選択は魅力的ではあるが、必須というわけではない。セルジュ・ゲンスブールが着ているような既製品のトップコートは、フォーマルな装いのための、時代を超えた一枚だ。そのバリエーションは、かつてないほど多い。

 

 

 

 

 

 例えば英国エドワード・セクストンの鮮やかなターメリック・イエローのウール製ブリッジコートは、同社を代表するグレートコートを進化させたもの。膝丈のカットで、S字を描くダブルボタンを備えている。一方で、2つの玉縁付きハンドウォーマーと両腰のストレート・フラップポケットといった特徴は、グレートコートとは異なっている。この堂々としたコートは、フルキャンバスのオーダーメイド品と同様に、とても着やすく、暗い冬の季節から抜け出すための素晴らしい一着となっている。

 

 

 

 

 ダブルブレステッドのアウターウェアは、堅苦しいオケージョンのために作られたように思えるが、着用はフォーマル・シーンに限定されることはない。

 

 「良いダブルブレストのコートは、フォーマルでなくても着られます。ジャケットを脱いで、シンプルなニットの上に羽織れば、映画『ナイン・ハーフ』のミッキー・ロークに変身できますよ」とモドゥーは言う。

 

 

 

 

 選ぶ際のアドバイスとしては、「たまには自分の気まぐれな直感を信じよう」ということだ。

 

 上質なコートであれば、合わせるアイテムのフォーマル度が違っても、なんとか様(さま)になるもの。

 

 鍵となるのは、“スプレッツァトゥーラ(力の抜けたエレガンス)”である。あまりにサルトリアル的に凝りすぎると、かえって失敗するものなのだ。