The Decorum
今、アジアのクラシックシーンはタイが最アツ!バンコクのThe Decorum(ザ デコラム)の魅力とは
January 2025
今、世界で最もアツイ盛り上がりを見せているショップは、間違いなくバンコクのThe Decorum(ザ デコラム)だ。カスタマーの多くは、メンズクラシックスタイルに情熱を燃やす20〜30代。仕かけるショップもカスタマーもエネルギーに満ちている、そんなThe Decorumの魅力に迫る。
text and photoraphy yuko fujita
photoraphy napat variayanon
The Decorumのヘッドクオーターの前にて。1年を通して真夏が続くバンコクにて、クラシックメンズウェアがこれほど盛り上がろうとは。The Decorumが2017年にオープンして、クラシックメンズウェアの市場は飛躍的に伸びた。トランクショーでも毎回盛り上がりを見せるThe Decorumと仕事をすることは、職人にとっても大変名誉なことなのだ。
今やバンコク市内に3店舗を構えるまでに成長を遂げたThe Decorumのクリエイティブ ディレクター、“Guy”ことSirapol Ridhiprasart氏と初めて会ったのは、彼らがバンコクにショップをオープンした2017年のことだ。人懐っこい笑顔が印象的で、目の前にいる会って間もない1983年生まれの若者に、まるで旧知の仲のような親近感を覚えるほどだった。Guy氏がこれからのバンコクのクラシックメンズウェアのシーンを牽引するキーパーソンになることは当時からうすうす感づいてはいたが、結果、彼とThe Decorumが、その発展にここまで大きく寄与することになろうとは、当時はさすがに知る由もなかった。
Guy氏はカナダの高校と大学を卒業後、ジョンズ・ホプキンズ高等国際関係大学院で修士号を取得し、その間イタリアのボローニャキャンパスでも1年学んだ。卒業後はタイの財務省に勤務し、ビジネスパートナーである“Balloon”ことWarong Phattharachaikul氏とともにThe Decorumをオープンしてからも、二足のわらじを履いてきた。ただ、そこからの7年間のThe Decorumの成長スピードは、彼らが想像していた遥か上をいくものだった。世界中が注目するメンズショップへと成長を遂げた昨年、Guy氏はThe Decorumとタイのマーケットのさらなる発展にすべてを捧げる決心をした。彼は少なくともメンズファッションの世界でその類い稀なる才能を遺憾なく発揮しているのだから、その選択は必然だったのかもしれない。
「タイ人はある意味、とても文化的です。タイを訪れると、街の至るところに活気やエネルギーが満ちているのを感じられるでしょう。人々は人生を謳歌し、あらゆるところから発信される芸術や文化を通じて、自身を表現しようとしているのです。幸いなことにタイの人々のマインドは我々の新たなチャレンジに対して常にオープンです。そのことは、日本をはじめとする世界中の素晴らしい職人をタイに紹介する私たちの大きな助けになっています。The Decorumを中心とするクラシッククロージングの盛り上がりは、タイの人々のそんな背景や気質も大いに関係して成り立っているのです」
ただ、The Decorumがオープンした2017年のバンコクにおいては、クラシッククロージングそのものが真新しい存在で、多くの人たちはクラシックスタイルを着こなしたいと思いながらも、何から始めたらいいのか右も左もわからない状況にあった、とGuy氏は振り返る。そんななか、海外でさまざまなオーダーを経験してきたGuy氏やBalloon氏らを擁するThe Decorumの存在が、タイの若い男性たちに多大なるインスピレーションを与える貴重な役割を果たしたのだ。
そして、これはバンコクのメンズクラシッ2023年クのシーンにおける最大の特徴なのだが、クラシックに興味をもち情熱を注いでいる人たちのほとんどが20〜30代の若者である。彼らは横の絆が強く、コミュニティを形成し、一体となってクラシックを盛り上げようとしている。
「The Decorumはバンコクでも数少ないクラシックなメンズクロージングショップなので、お客様の年齢層は幅広いのですが、20代の若い層のお客様の割合が圧倒的に多いです。それもあって、30歳以下の人たちだけを対象にしたイベントを数多く開催し、彼らにメンズウェアの魅力を知ってもらう機会を設けています。こういったことの積み重ねが、我々の強いコミュニティを形成するのにひと役買っているのだと思います」
2023年、バンコク市内に3店舗目となるショップをゲイソン ヴィレッジ内にオープンした。特に靴の品揃えは圧倒的で、広々としたテラスもあり、顧客が楽しめるイベントを頻繁に企画してシーンを盛り上げている。オールデン、ジェイエムウエストン、エドワード グリーン、ガジアーノ&ガーリング、クロケット&ジョーンズ、そしてジョン ロブと、靴の品揃えは目を見張るものがある。テーラードはリングヂャケット、ソウルのカーザ デル サルト、シャツはKamakura、トラウザーズはEchizenyaが充実している。
さて、アジアのメンズクラシッククロージングシーンだが、かつてはイタリアをはじめとするヨーロッパや日本から人気のブランドをピックアップし、海外から職人を招いてトランクショーを開催するのが多くのショップのあり方だった。しかし、ショップとカスタマーのどちらもが成熟してきた今日、地域に根差したその店ならではのクラシックスタイルを作ることの大切さに皆が気づきはじめている。The Decorumはそこにいち早く着手し、さまざまなアプローチをしてきた。ソウルのAssisi Bespoke Houseの実力をすぐさま見抜いて、彼らとタッグを組んで世界に向けて戦略的に仕かけたのは、Guy氏の功績によるところが少なからずあるだろうし、新たに鴨志田康人氏をプライベートブランドのディレクターに迎え入れ、The Decorumコレクションを発表することになったのも、“やり手”であることを感じさせる仕かけだ。
「これまでもプライベートブランドは展開していましたが、私はずっと鴨志田康人さんの大ファンでした。まず、色を見る目が素晴らしく、彼のセンスは繊細でありながらとても際立っています。シンプルなものを特別な存在に見せるのはとても難しいことですが、鴨志田さんはそれを実現できる数少ない人だと思います」
これは相当ユニークな仕かけだ。鴨志田氏が、彼らの新たな魅力をさらに引き出してくれるに違いない。
“Guy”のニックネームで親しまれているThe Decorumのクリエイティブディレクター、Sirapol Ridhiprasart氏。着用しているのはThe Decorumでトランクショーも開催している東 徳行氏のサルトリア ラファニエッロのスーツ。
Guy氏と並んで写っているのは、共同設立者でマネージングディレクターの“Balloon”ことWarong Phattharachaikul氏。