THE CRAFTMANSHIP OF ELEGANCE: Yukio Akamine

赤峰幸生が愛するスーツの“青”はネイビーでなくロイヤルブルー

June 2023

赤峰幸生氏の膨大なワードローブの中に、オーセンティックネイビーのスーツは存在しない。その美意識はもう何十年と変わっていない。氏にとってスーツのブルーとは、ロイヤルブルーを指すのだ。
text yuko fujita
photography setsuo sugiyama

赤峰幸生 / Yukio Akamine1944年、東京都生まれ。90年、自身の会社インコントロを設立。98年、イタリア生産による紳士服ブランド「Y.Akamine」をスタート。2008年、カスタムクロージングのブランド「Akamine Royal Line」を立ち上げる。今、大切にしているのは「クラシック」の本質を若い世代に継承してもらうこと。20代、30代の赤峰ファン多数!

31年前に仕立てたロイヤルブルーのトニックスーツ壁にかかった絵画は赤峰氏がタオルミーナやカプリ、フィレンツェなど、旅先で描いたもの。町の風景の色合いは、装いのヒントになることが多々あるというが、ブルーに関しては空や海とのコントラストがヒントになることが多いという。31年前に仕立てたリヴェラーノ&リヴェラーノのロイヤルブルーの“トニック”スーツに、アカミネロイヤルラインのピンクのハケメシャツ、ドレイクスのタイ、スートル マンテッラッシのシューズという装い。

 赤峰氏の取材中はいつもイタリアの60~70年代の音楽がかかっていて大変心地よいのだが、この日はルチオ・バッティスティ(Issue51のP44でご登場するペコラ銀座の佐藤英明氏が最も愛するカンタウトーレ)の名曲がかかるなかで取材が始まった。

 今回のテーマは赤峰氏にとっての「ブルー」についてである。フィレンツェのリヴェラーノ&リヴェラーノで30年以上服を仕立て続けている赤峰氏のワードローブには、昔から変わらないスタイルの服がズラリと並んでいる。それらの服はグレイ系、ブラウン系、ブルー系の三つに系統立てられるのだが、25年も取材をさせてもらっていると、非常にユニークな氏の嗜好に気づかされることが多々ある。最もオーセンティックな深いネイビーのスーツがまったくないのである。

「40年前にイタリアに行ったときに『お前らにとって赤は、マルボロのパッケージの色のことを指すんだろう。俺らにとってはレオナルド(ダ・ヴィンチ)やミケランジェロの“赤”こそが赤なんだよ』と言われたことが今でも忘れられなくて、『受胎告知』だったりたくさんの絵画を見て、その色の美しさを記憶にとどめるよう心がけてきました。海外に行くことは、私の場合、服屋を回るというのも確かに大切なんですけど、それ以上に大切なことはそこにある色を拾いにいくことなんです。これまで写真はあまり撮ってきませんでしたが、代わりに自分の瞬きというシャッターを切って、その光景を記憶の中に焼き付けておくわけです」

スーツはすべてリヴェラーノ&リヴェラーノ。右から1995年に仕立てたトロピカル、96年のピンヘッド、95年のマットウース、2005年のコットン。

 いわゆるオーセンティックなネイビーのスーツを着ないのは、ネイビーという色が一辺倒で、特にそれがスーツだとビジネス感が出てしまうからだという。

「スーツにおいて黒かネイビーかわからないような色というのはあまり好きではなくて、私の中でブルーといえば、いわゆるロイヤルブルーなんですよね。それは、世界を旅して美しいものに触れてきた記憶の中で、育まれていった私の美意識の表れでもあります。ロイヤルブルーは、特にイタリアで着ると、街の景観により吸い付いていくんですよね」

 そう言って赤峰氏は、完成したばかりという日本国内で企画したアカミネロイヤルラインのウールモヘアを出してきた。

「私にとっての理想のブルーです。これまで英国、イタリア、日本のさまざまなミルを訪れてきましたが、オリジナルで企画するのがいちばん納得がいく生地ができるんですよね。この色の調子にもっていくまで4回作り直しましたが、素晴らしいタッチで霜降り感も、そしてキッドモヘアの光沢感も、とてもいい塩梅で表現されていると思います。ロイヤルブルーは太陽の光にとてもきれいに映えますし、意外と思われるかもしれませんが、ナイロンの黒のコートとよく合うんですよね」

ネクタイはブルーのグラデーションを合わせるのが好み。ブルーと相性のいいブラウン系の柄が入ったものを選ぶことが多いという。

ドーメルのヴィンテージのトニックを再現するべく尾州で企画した、アカミネロイヤルラインのウール53%、キッドモヘア47%の生地。ブルーの色合いや霜降り感、ハリとコシや光沢のバランスすべてに大満足。380g/m。