THE ASCENT OF A MAN

エベレスト登頂に最適な時計

Tuesday, August 25th, 2020

写真家で冒険家、そしてヴァシュロン・コンスタンタンとパートナーシップを結ぶコーリー・リチャーズ氏が、人間として限界に挑む必要性について、また探検活動が時間概念といかに密接な関係を持つかについて語る。

 

text nick scott

 

 

チベット側北東稜からエベレスト登頂を試みるコーリー・リチャーズ氏。

 

 

 エベレストの登頂は、文字通り、そして比喩的な意味においても、多くの人にとって人生における功績の頂点である。信じられないミッションに昨年挑んだのが、アメリカ人の写真家で長距離冒険家のコーリー・リチャーズ氏と、エクアドル人の登山パートナー、エステバン・トポ・メナ氏だ。リチャーズ氏は世界最高峰への登頂を既に2度も達成しているが、今回は全登頂ルートの中で最も危険で困難とされるチベット側北東稜からの登頂。達成すれば異次元の偉業といえる。初日には12時間も登り続け、その後の天候悪化により足止めを余儀なくされた。テントもない極寒の中、一晩耐えたという。極度の疲労状態にもかかわらずその後さらに3時間進んだが、再度悪天候に見舞われ、常識的な判断によりこの挑戦に終止符を打った——。

 

 リチャーズ氏は間違いなく再チャレンジを試みるだろう。次回こそは成功する可能性が高い。彼の類稀なる不屈の精神が評価され、スイス高級時計ブランド、ヴァシュロン・コンスタンタンの広告キャンペーン“One of Not Many(少数精鋭の一員)”のパーソナリティに任命されている。遠征前、同社とのコラボレーションにより、ネパールと自国アメリカの時間を把握でき、なおかつ彼がエベレストで晒される過酷な条件に耐えうる特別な時計が製作されることになった。

 

 こうして誕生したのが、「オーヴァーシーズ・デュアルタイム・プロトタイプ」である。直径41mmのケースは頑強で軽量なチタン製で、ベゼルの下の部分は非常に硬い金属のタンタルで補強されている。またストラップに用いられたのはベンタイル・テクニカル・ファブリックで、密度が高く防水性に優れている。ただ頑丈なだけでなく、グレイブルーのストラップにオレンジのステッチの組み合わせがスポーティな印象を与える。

 

 ケースバックから見えるローターには、リチャーズ氏が撮影したエベレストの写真をもとにデザインしたモチーフが刻まれている。彼の思いを特別に反映したこの時計はプロトタイプであり、簡単に手に入るモデルではない。2019年12月、ニューヨークで開催されたフィリップスの時計オークションに出品され、106,250ドルで落札された。売り上げはナショナル ジオグラフィック協会の教育と文化保護のためのプロジェクトに寄付された。

 

 

ヴァシュロン・コンスタンタンのオーヴァーシーズ・デュアルタイム・プロトタイプ。

 

 

 ベースとなったモデルは、2016年に誕生したコレクション「オーヴァーシーズ」だ。オーナーが環境に合わせてストラップやブレスレットを気軽に付け替えることができるインターチェンジャブルシステムを採用し、冒険と旅の精神が体現されている、同社の中でも人気のコレクションである。昨年のSIHHでは、超薄型の自動巻きトゥールビヨンムーブメントを搭載し、80時間のパワーリザーブを実現したステンレススティール製ケースのモデルも発表され話題となった。

 

 

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