The Arch of Rome and Japan - AUGUSTO
ローマと日本にかかるアーチ 出色の出来、「アウグスト」の財布
December 2023
text kentaro matsuo
雑誌編集者は、「モノを見るのが仕事」である。さまざまな場所を訪れ、いろいろな製品を拝見する。素晴らしい出会いがある一方、やや落胆して帰路につく場合もある。その比率は2:8くらいか……。だから「知られざる逸品」を発見した時は、（おこがましいかもしれないが）日々の努力が報われたような気分になってしまう。
今回ご紹介する「アウグスト（AUGUSTO）」の財布〈トリオンファル・シリーズ〉は、間違いなく前者に属する。見た瞬間に、心がときめいた。これほどのレザーグッズには、なかなかお目にかかれない。
まず、素材がいい。クロコダイルのなかでも最高級とされる「ポロサス（イリエワニ、スモールクロコダイル）」が使われている。養殖のポロサスは成長が遅い。しかも獰猛で、多頭飼いしているとお互いに傷つけあってしまう。そのため、一頭ずつ飼育する必要がある。手間のかかる動物なのだ。
竹斑（たけふ）と呼ばれる四角形のうろこ模様が、まるでトウモロコシのようにキレイに揃っている。二つ折りの財布を開くと、真ん中に継ぎ目がなく、左右対称となっている。原皮の腹側の中心を贅沢に切り取った証拠である。質感はマットである。マット仕上げは艶ありよりもキズが目立ってしまうため、より質の高い原皮が要求される。
ヒマラヤクロコ（クリーム〜グレイのグラデーション・カラー）のラインナップも多い。これは鞣しの工程で脱色されたものだが、薄い色だとキズが目立つため、そのチョイスはさらに難しくなる。マーケットでは大人気だが、供給量が少ないため、常に品薄状態である。
それから縫製が素晴らしい。手に持ってまず感じるのは、軽くて薄いこと。これは、革を薄く削いで使っているからだ。部位ごとに革の厚さを変え、財布やカードケースをいかにフラットに作るかが、職人の腕の見せどころである。
当たり前だが、もともと薄い革を削ぐのであるから、高い技術が必要となる。内側に革を巻き込んで貼り合わされた部分など、ぼってりと厚ぼったくなってしまいそうだが、革の厚みを調整し、均一な薄さを維持している。
二つ折りの財布は、うまく閉じられるように、内側と外側の革の長さを変え、ズラして縫い合わされるが、この塩梅が難しい。この点においてもアウグストの財布は群を抜いている。ぴったりと閉じられた状態から、パタリと180度まで開くことができる。
コバの仕上げや「ネン押し」と呼ばれるコテで描かれた線も実に丁寧。腕のいい職人が、時間をかけて、丹精込めて仕事をしたことがわかる。
金具はローマの「コスタンティヌスの凱旋門」をモチーフにしたものだという。小さなか金属が描くアーチが美しい。金具内部の角度を微妙に調整し、ストラップがスムースに差し入れられるよう工夫されている（いかにも引っ掛かりそうなデザインだが、これがスルリと入るのだ）。
アウグストの財布は、その佇まいが全体的に、すっきりと爽やかである。ヘンな表現だが、「小股が切れ上がっている」のだ。
アウグストは、ローマのブランドである。1960年に創業者のマルチェッロが妻と一緒にローマ郊外に小さな工房を開いたのが始まりだという。贅沢な素材を使って、ハンドメイドによって作られるバッグが、ローマの富裕層に支持されてきた。現在でも、すべてのバッグ類は、ローマにて製作されている。
しかし、財布が発売されたのは、つい最近、2022年のことである。実はこれらは、日本の工房の手を借りているらしい。デザインは生粋のローマ人、製作は日本人というわけである。道理で、手が細かいと思った。
マルチェッロの息子であり、現当主のマウロとアンドレアは、こう語る。
「われわれはローマにこだわりがある。しかしクオリティにはそれ以上のこだわりがある。だから日本の手を借りているんだ。彼らは細部に関して世界で最も優れた技術を持っているし、悔しいけどその点ではわれわれ以上さ」
このマトリモーニオ（伊語で「結婚」の意）は、大成功だといえる。イタリアの洗練と日本の技術を融合させたアウグストの財布は、両国にかかるアーチのような存在だ。こういった逸品で出会えるからこそ、編集者稼業はやめられないのである。
〈トリオンファル・シリーズ〉
レザー ¥78,000〜
クロコダイル ¥164,000〜
リザード ¥135,000〜
LONG（長財布）、FOLD（二つ折り財布）、CITY（コンパクト財布）の3サイズ展開
Augusto Roma
