THE MARQUESAS ISLANDS, TAHITI
テ・ヘヌア・エナタ(人間の大地)と呼ばれるマルケサス諸島へ
August 2024
地上の楽園タヒチ島から貨客船クルーズで秘境マルケサス諸島を巡る旅に出た。3回(第1回・第2回・第3回)にわたってその様子をお伝えする。本記事は第3回。
text yoshie hayashima
@Gregoire Le Bacon
見るもの全てに心躍らされる未知の島々での冒険旅
マルケサス諸島はタヒチ島から北東に約1500km離れた場所にある12の島々から成る。その中で人間が住んでいるのは6つで、タヒチ島とは異なる独自の文化が発達しており、手かずの自然が残る秘境だ。タヒチに人が住み始めたのは紀元前300年、その始まりはマルケサス諸島からと言われている。マルケサス諸島は1595年にスペイン人に発見され、その名がついた。そして人々は1970年代まで車も電気もない生活を送っていたという素朴な島々だ。
つい先日の2024年7月26日(金)には、このマルケサス諸島がユネスコ世界遺産に登録されたことが発表された。ユネスコは、マルケサス諸島を「その普遍的な価値は、
貨客船アラヌイ5号でタヒチ島を出発し、ツアモツ諸島のファカラバ島、マルケサス諸島のウアフカ島、ヌクヒバ島、ウアポウ島、ファツヒバ島、ヒバオア島、タフアタ島、そしてランギロア島、ボラボラ島を巡る12日間の旅。日本のガイドブックにもめったに登場しない未知なる地の冒険旅へいざ。
マティスブルーを生み出したファカラバ島
タヒチ島を出航した貨客船アラヌイ5号がマルケサス諸島へ向かう途中、1つ目の島ファカラバ島へ降りた。ここはツアモツ諸島に位置し、タヒチの島々の中で2番目に大きい環礁でユネスコの生物圏保護区に分類されている。遠浅の青いビーチ、どこまでも続くヤシの木。私達が思い描く南国のリゾートそのものだ。1年を通してサメやマンタ、エイ、イルカなどが訪れ世界中のダイバーの憧れの地でもある。
色彩の魔術師と呼ばれるフランスの画家アンリ・マティスが滞在し、その海の美しさを絵画に写し取った“マティスブルー”が誕生した地としても知られている。
アラヌイ5号が着岸できる港がない為、ボートに乗り換えて島に降り立つ。島に降り立った第一印象は、本当に長閑。
船着き場の前。商店などは何もない。レンタサイクルで島を回るのもよいだろう。
ファカラバ島はタヒチ島から約480km離れており、人口800人の島。観光客も少なく素朴な雰囲気だ。この島ではシュノーケリングを楽しんだ。少し泳ぐと熱帯魚がたくさん。美しいブルーの世界に浸れる、まさに人々が思い描く楽園のような島だ。
野生の馬が駆け巡るワイルドな美しき島、ウアフカ島
©Aranui5
©Aranui5
ファカラバ島を出て丸一日以上、海の上を航海しマルケサス諸島で最初に訪れたのは、ウアフカ島だ。断崖絶壁、乾いた土壌と雄大な田園地帯の風景が続く。
マルケサス諸島の北部に位置し、面積約77㎢、人口674人の小さな島。野生の馬や放し飼いの山羊が約1500頭と、人口より動物の数のほうが多いほど。
この島は自然ばかりでなく、メイアウテの赤いティキやヴァイピキ高原の精巧なペトログリフ(岩に刻まれた絵)などの貴重な遺跡や工芸品が数多く残っていることでも知られている。
ここでもアラヌイ5号では着岸できず、ボートに乗り換えて上陸。コーラルリーフが少ないのもマルケサス諸島の特徴のひとつ。
ロープを岩肌に括り付け、船を固定する。
島に降り立つと、種で作ったネックレスを一人一人にかけて歓迎してくれる。
マルケサス諸島の中でも一番古くから人が住み始めたのが、ここウアフカ島。この島では4WDで移動して島内を巡った。
ウアフカ島の植物園入り口に置かれたティキ。ティキは古代ポリネシアの神の像を指す。
熱帯植物の楽園ともいえる植物園を散策。特に柑橘類が豊富で、それらを含む300種以上の樹木が集まる。
糖尿病に効くというクーネット、ライチのようなローガン、マカダミアナッツ、マンゴー、オリーブ、タマリンド。バニラもある。タヒチは良質なバニラが採れることで有名で世界中のシェフやパティシエがタヒチ産のバニラビーンズを使っている。バナナ、ココナッツ、タロイモなどもタヒチでの名産品だ。
小さなペトログリフの展示室では、島内で発見されたものがかなり良い状態で見られる。
海の博物館には昔使われていた道具類が展示されている。右は島での生活に欠かせない昔のカヌーなどの道具類。
木彫りのティキはお土産に。
左:島でいただいたランチ。チキン、ゴートのココナッツミルクがけ、アボカドサラダなど。食事は本当に素朴だが、島で採れた自然の恵みを存分に味わえる。右:デザートはバナナのフリット、ココナッツブレッド、マンゴー。どれも島内で採れる果実から作られている。
マルケサスの料理は海の幸に豚に鶏、パンの実、タロイモ、マンゴーがふんだんに使われているが、どれも自然の恵みが凝縮されて美味しい。太陽の日差しをたっぷりと受けて育った新鮮な食材を、素朴な味付けでいただくことの贅沢さを実感できる。
島内を車で走っていると、崖の上や道端に立つ山羊を何度か見かけた。人に会うより山羊に会うほうが多いかもしれない。
マルケサス諸島最大の島、ヌクヒバ島
ヌクヒバ島は火山の火口が隆起して出来た島。青い太平洋と急勾配の斜面で印象的な景色を楽しめる。またこの島でも考古学的に重要な遺跡が多く見ることができる。
ヌクヒバ島の中心地タイホハエには1973年~1977年にかけて建てられたカテドラルがある。外観はキリスト教のカテドラルそのものでありながら、内部にはティキのモチーフ装飾があり、カトリックと土着の宗教がミックスされているのがユニークだ。
外装にはフラワーストーンというウアポウ島を始めとする世界中で4つの地域でしか採取できない石を使用している。
茶色に花びらのような模様の入った石がフラワーストーン。この後訪れるウアポウ島の海岸で見つけられるので、探してみては。
大きなバンヤンツリーの下でマルケサンダンスを披露してくれた。ここヌクヒバ島は4年に1度開催されるMatavaaというダンスを始めとするマルケサス文化の祭典の会場にもなっている。@Tahiti Tourisme
ヌクヒバ島にはマラエと呼ばれる古代の神聖な祭祀場がある。宗教的儀式の行われた場所の跡や石の神殿であり、長方形に石で囲われている。タイピバイ渓谷とハティヘウには、岩面彫刻や廃墟、古代の宗教的遺跡が残っており、これらはぜひ見てほしいポイントだ。
左:かつて木の実の貯蔵庫だった穴。右:ハティヘウで見られる岩に彫られた象形文字。伝説の魚や舟が彫られている。
山の途中から見下ろすとグリーンとブルーの絶景が!©Aranui5
天空にそびえ立つ玄武石がアートのようなウアポウ島
巨大な玄武岩の柱が空に伸びている。
ウアポウ島はマルケサス諸島でヌクヒバ島、ヒバオア島に次いで3番目に大きな島。オアベ山(標高1,230m)、マタヘヌア山(標高1,228m)、プテタイヌイ山(標高979m)の玄武石の山を囲むように多くの尖塔や柱のような石がそびえ立っている。
島の特産品はマンゴー、バナナ、レモン。この島でピックアップしたフルーツ類はアラヌイ5号の明日の朝食に出るそうだ。
ハカヘタウ海岸では花びらのような模様の入った希少な石、フラワーストーンが見つかる。
道路脇の無人販売所。ドラゴンフルーツやマンゴーなど色とりどりのフレッシュなフルーツが並ぶ。
ウアポウ島では、車で島を見下ろす高台に行き文化センターを見学。島の景色を上から眺めると、島全体が山を切り開かれ岩と緑に覆われていることがわかる。
左:高台からの眺め。建物は本当にごく僅かで、ここも自然豊かな島だ。右:ヤシの木で作られた家。周りは石づくりで、聖なる場所と称されている。
芸術的なタトゥーを施した男たちのダンス。島々でかけ声などが異なり、何度見ても飽きない。
マルケサスのタトゥー、マルケージャンスタイルは、直線的なデザインと黒い面積が多いのが特徴だ。タトゥーの起源はかなり古く、紀元前には既にポリネシアに存在していたと言われている。18世紀末からキリスト教宣教師によって古代の悪習だとタトゥーは禁止され、1980年代になりポリネシア人としてのアイデンティティーを取り戻そうという機運が高まり復活した。今では若者はほとんどタトゥーを入れているという。
この島にタヒチの有名人が住んでいる。彼の名はRatoro(ラタロー)。タヒチ随一のミュージシャンでありながら、カヌースクールを経営している。滞在した日も子ども達が練習していた。タヒチでは今もカヌーが生活に密接に関わっている。
ラタロー氏。Youtubeチャンネルもある。カヌースクールはビジターも歓迎してくれ、他にセイルボートもある(要事前問い合わせ)。
子ども達にはカヌーの操作ももちろんだが、魚を殺してはいけない、など海でのマナーを教えているそう。興味がある方はレッスンを受けてみてはいかがだろう。
美しい伝統手工芸が受け継がれた小さき島、ファツヒバ島
©Aranui5
総面積85㎢、人口612人。草木が生い茂るとても小さな島、ファツヒバ島。ここでは私達はヴァージン湾の絶景を目指してのハイキング。ハイキングが困難な場合は車でビューポイントへ向かう。
その前に島の手工芸品、樹木の繊維で作られるタパのデモンストレーションを見学した。
タパはパンの木やガジュマルの木の皮を削り、繊維を叩いて伸ばして作る。
まだ布が存在しなかった時代、人々はこのタパを身にまとっていたという。タパにはマルケサス諸島にまつわるタトゥーと同じモチーフが描かれている。オレンジ色はガジュマルの木、ベージュのものはパンの木から作られており、小さいものから大きいものまで様々。現在ではここファツヒバ島でのみ残っている工芸品だ。最近ではタトゥーのモチーフ以外にもウミガメやマンタ、ティキ、マルケサス諸島の地図など旅の思い出となる文様が多く、お土産にもお勧めだ。
さまざまな文様のタパ。
女性が身に着けるウム ヘイというブーケ作りのデモンストレーションも見学。茹でたバジルやサンダルウッドのパウダー、イランイラン、ミントやモノイオイル(ココナッツオイル)を混ぜ合わせ花を束ねて作る。その昔、身につけたウムヘイのその芳醇な香りで戦士たちを誘惑していたという。
左:ウム ヘイ。様々なハーブなどの植物とオイルをミックスした香りにうっとり。右:島で採れるバニラビーンズ。マルケサス諸島で採れるバニラビーンズは高級品として知られている。
さて、デモンストレーションの後は一気に山の上のビューポイントを目指す。この日のメインはハイキング後のビューポイントでの食事。アラヌイ5号の乗員がピクニックランチを用意してくれていた。
好きな具を選ぶとバゲットサンドを作ってくれる。デザートもあり、大満足のピクニックランチだった。
この日は生憎曇り空だったが、ハイキング後の山の頂上からの景色を眺めながらのランチは最高だ。
道端でフルーツを販売していた。マルケサスはどこの島もとにかくフルーツが美味しい。特にマンゴーは絶品。
ゴーギャンの眠る緑豊かな島、ヒバオア島
©Aranui5
肥沃な土壌と生い茂る緑。数多くの遺跡や古代文明の史跡があり、フランス領ポリネシアで最大のティキ像がある島が、ここヒバオア島だ。フランスの画家ポール・ゴーギャンや歌手・俳優のジャック・ブレルが晩年過ごしたことで有名。
島の面積は約320㎢。人口は2000人ほどのマルケサスの中では大きな島で、空港もある。
太平洋を見下ろすカルヴェール墓地に眠るフランスの歌手・俳優ジャック・ブレルの墓。彼は晩年の2年間、この島で過ごした。©Aranui5
フランスの画家ポール・ゴーギャンの墓。同じくカルヴェール墓地の見晴らしのよい丘にあり、鳥のさえずりや波の音が聞こえてくる。いつもプルメリアの花が飾られているそう。©Aranui5
ここヒバオア島でゴーギャンは晩年の2年間を過ごした。島のゴーギャン博物館にはゴーギャンの生涯をたどった資料やレプリカが展示されている。レプリカといえどもかなり見ごたえがあるのでぜひ訪れていただきたいスポットだ。同じ敷地内には、ゴーギャンが暮らした家を再現した高床式住居もある。
左:ゴーギャン博物館。見覚えのある作品に出会え、販売証明書や友人に送った手紙なども展示されている。右:寂しい晩年を送ったと言われているゴーギャンの家。色彩豊かな彼の絵に、この島の力強い自然の力が与えたものは大きいのでは、と想像した。
駆け足でマルケサス諸島を巡る旅をご紹介したが、独自のポリネシア文化と手つかずの自然が色濃く残る島々は、どこも興味深く、見るものすべてが新鮮だった。野生的な自然、遺跡、美しい色彩の工芸品。
日本からの観光客も少なく、まだまだ秘境の地と言ってもよい。未知の景色に出会う楽しみ、わくわくとした冒険心を満たしてくれるマルケサス諸島へのクルーズ旅。次のデスティネーションのリストに加えてはいかがだろう。
タヒチ観光局ホームページ
https://tahititourisme.jp/ja-jp/
アラヌイ5号のクルーズの運航予定や料金は各ホームページにて
www.aranui.com/(英語またはフランス語)
https://oceandream.co.jp/cruise/aranui/aranui_index/(日本語)