GOING THE DISTANCE: TAG HEUER’S CARRERA TURNS 60

不朽のアイコンウォッチ、タグ・ホイヤーの傑作「カレラ」

February 2024

タグ・ホイヤーの傑作「カレラ」が2023年に誕生60周年を迎えた。この節目を記念して数々の新作がリリース。新たな章の幕開けとなった。

 

 

 

text scott harper

 

 

 

60周年アニバーサリーエディションの元となった、1960年代のホイヤー社を代表するクロノグラフ、Ref.2447SN。

 

 

 

「carrera(カレラ)」という言葉は、スペイン語で「レース」や「キャリア」、「大通り」を意味する。特に、モータースポーツや時計の歴史に情熱を持つ人にとっては、感情を揺さぶる特別な言葉である。「スピード」や「競争」、「アドレナリン」、「達成」、「道」、「旅」、そして「物語」といった意味をも含んでいる。

 

 2023年に60周年を迎えたタイムピースに、この名称はまさにふさわしい。カレラの物語は、誕生の前年の1962年、当時ビジネスを率いていたホイヤー家の4代目であるジャック・ホイヤー氏がスポーツカークラブ・オブ・アメリカに計時装置を提供したことから始まる。タグ・ホイヤーのヘリテージ・ディレクター、ニコラス・ビーブイック氏はこう語る。

 

「フロリダで開催されたセブリング12時間レースに招待されたジャックは、有名なメキシコ人レーシングドライバー、ロドリゲス兄弟の両親に会いました。そこで危険な公道レース、『カレラ・パナメリカーナ・メヒコ』の話題になり、彼は『カレラ』という名前に魅了されました。モータースポーツとつながりがあり、道、キャリア、人生といった意味を含むこの言葉の普遍性に惹かれたのです」

 

 こうして新型クロノグラフは翌年に誕生したが、「カレラ」はその名前以上の魅力を備えていた。卓越した堅牢性と防水性を誇り、さらに視認性も優れていた。

 

「ジャックはチューリッヒのスイス連邦工科大学で学び、原子力発電所の制御盤の設計を担当しました。迅速な決断と計算が求められる制御装置を操作する人に対して重要なのは、最大限の情報をできるだけ明確かつ簡潔に伝えること。だから彼は視認性に徹底してこだわったのです。新型クロノグラフでは文字盤から余分な文字を取り除き、タキメータースケールをテンションリングに移しました」

 

 ジャック・ホイヤー氏は、学生時代にチャールズ・イームズのラウンジチェアを購入するため節約に励んだほどのデザインオタクだった。だから時計も実用的なツールとしてではなく、ファッションアイテムとして意識していたに違いない。

 

「1960年代初頭、多くの人々にとって、時計はもはや実用品ではなくなっていました。特に富裕層にとっては、ファッションアイテムへと変化していったのです」

 

 

危険な公道レースで知られた「カレラ・パナメリカーナ・メヒコ」。

 

 

1972年のRef.1153。

 

 

 

 初代「カレラ」が発売されてから6年後、Ref.1153が発表され、革新的な自動巻きムーブメント、キャリバー11が搭載された。しかし、もっと注目を浴びるであろうカレラが水面下で待機していた。

 

 ホイヤー・レオニダス社のスイス証券取引所上場を記念して発表されたRef.1158は、大胆な18Kイエローゴールドのモデルだった。それまでのカレラは、白地に黒、または黒地に白のデザインで、さりげなく色のアクセントが加えられていた(それは見事な戦略でもあった)。ジャックは1971年以降、スポンサードしていたフェラーリチームのドライバーに刻印を施したこのモデルを贈るようになった。ニキ・ラウダ、クレイ・レガツォーニ、マリオ・アンドレッティ、ジョー・シファート、ロニー・ピーターソンといったスターたちがこの時計を手にした。Ref.2447NST“逆パンダ”を着けたジェームス・ハントの写真は、今やブランドの伝説として語り継がれている。

 

 ビーブイック氏は、モータースポーツのレジェンドたちがカレラを着用することで、その名が「文化的に忘れられない存在になった」と説明する。著名人の間でカレラの人気が相互に影響し合ったのだ。

 

「クリエイティブな人々に選ばれるブランドとしての評判を築き始めたのです。カレラの歴史における重要な時代に、ミック・ジャガーがRef.1153を着けていましたが、ジョン・レノンとヨーコ・オノも同じ時計を着けていました。また、スタンリー・キューブリック監督やサミー・デイヴィスJr.がモナコを着用していましたし、スティーブ・マックイーンとのつながりもあります。カレラは、モータースポーツとの結びつきだけでなく、文化的でデザイン性に富んだアイテムとして認識されるようになりました」

 

 

タグ・ホイヤーのヘリテージ・ディレクター、ニコラス・ビーブイック氏。

 

 

 

 カレラが時計史において確固たる地位を築くまでの道のりは、3つの章から成り立っている。その第2章の始まりが、1996年、12年間のブランクを経ての復刻である。ふたつのスティール製モデルと18Kソリッドゴールドモデルの3バージョンは、36mmケースに手巻きクロノグラフムーブメントを搭載しており、現代の技術と素材を取り入れつつも、外観はオリジナルに忠実だった。「1963年のモデルと同じようにデザインされた初の“復刻”でした」とビーブイック氏は言う。

 

 カレラ復刻の成功は、タグ・ホイヤーがヘリテージをブランド哲学の中心に据える新時代の幕開けとなった。以来、ラ・ショー・ド・フォンの研究開発チームは、大胆な時計の数々を生み出してゆく。2012年にジュネーブ時計グランプリ(GPHG)で最高位のエギーユ・ドールを受賞した「タグ・ホイヤー カレラ マイクロガーダー」、2018年の「タグ・ホイヤー カレラ“ テットゥ ドゥ ヴィペール” クロノグラフ トゥールビヨン」、そして2019年の、世界初となるカーボンコンポジット製ヒゲゼンマイを搭載した「タグ・ホイヤーカレラ キャリバー ホイヤー02T トゥールビヨン ナノグラフ」などだ。

 

 また、2018年には藤原ヒロシ氏によるフラグメントデザインとのコラボレーションや、ポルシェ911カレラとのパートナーシップなど、それまでの流れをがらりと変えるゲームチェンジャーな取り組みも見られた。さらに2022年には、「タグ・ホイヤーカレラ プラズマ」を発表。ラボグロウン・ダイヤモンド技術がカレラの視覚的な素晴らしさをさらに高めた。CEOのフレデリック・アルノー氏は「ダイヤモンドウォッチとダイヤモンド全般の可能なパレットとデザインを拡大し、カーボンとダイヤモンドの新デザインや、最先端の光の効果を極めた、息を呑むような新しいビジョンを創造したい」と語った。ビーブイック氏もこれに同意する。

 

「これまで、マイクログラフ、マイクロガーダー、マイクロタイマー、マイクロペンデュラムなどの素晴らしい複雑機構を発表してきましたが、現在のタグ・ホイヤーの最も重要なイノベーションはプラズマです。これは業界にとって大きな飛躍であり、私たちの研究を通じて実現できたことを誇りに思います」

 

 

1970年、ジャック・ホイヤー(左)とともに、ホイヤーのアトリエを訪れたニキ・ラウダ(中央)とクレイ・レガツォーニ(右)。

 

 

レーシングカーのスピードメーターから着想を得て、鮮やかなオレンジのディテールを利かせた42mmモデル。ラウンドケースに一体型ラグ、2時位置と4時位置にプッシャーを配したスタイルで、1960年代のオリジナルデザインを彷彿とさせる。ムーブメントは自社製自動巻クロノグラフ、ホイヤー02を搭載。自動巻き、SSケース、42mm。

 

 

 

 カレラの第3章は、60周年記念となる2023年にスタートした。その一環として、ブランドアンバサダーのライアン・ゴズリングによるショートムービーや、数々の新作カレラが発表された。

 

 中でも、1970年代のカレラが備えていたヘサライト製ドーム型風防を、サファイアクリスタル素材で再現したグラスボックスは話題となった。しかし、最も熱いのは18Kゴールド製モデルの再登場だ。ビーブイック氏はこう語る。

 

「これらすべては、過去からのインスピレーションを用いながら、非常に現代的な要素も取り入れることで、私たちの歴史とDNAを説明しようとするものです。結局のところ、1960年代の時計の完璧なコピーを作ることは簡単ですが、それは誰の役にも立ちません。ですから過去のスタイルコードを取り入れつつ、最新のムーブメント技術や製造工程の改良でアップデートしています。これは私たちにとって物語を継続させる素晴らしい方法です。新たな基盤を築き、さらに進化させることができます。もちろん、カレラ・コレクションの未来を担う新しいデザインコードは、アーカイブの中にまだまだたくさんあります。これからもっと楽しみにしていてください」

 

 

ブランドアンバサダーを務めるライアン・ゴズリングが、カレラの60周年を記念したタグ・ホイヤーのスペシャルムービー『The Chase for Carrera』に出演。

 

 

1970年代のカレラに見られるドーム型のヘサライトガラスをサファイアクリスタルで再現。39mmのケースは、あらゆる腕に快適にフィットするよう人間工学に基づきアップデート。双方向巻き上げ式のローターが新たに搭載された自社製の次世代ムーブメント、TH20-00を搭載。パワーリザーブは約80時間。写真のブラックとシルバーによる「逆パンダ」のほか、ブルーダイヤルも展開。自動巻き、SSケース、39mm。

 

 

60周年のアニバーサリーのラストを飾ったのは、ジャック・ホイヤー氏がかつて成功の証としてドライバーに贈ったモデルを彷彿とさせるゴールドモデル。18K 3N イエローゴールドプレートの文字盤にブラックのアジュラージュ加工のサブダイヤルを配置し、パンチング加工を施したブラックカーフレザーストラップと、18K 3N イエローゴールドのピンバックルが付属する。自動巻き、18KYGケース、39mm。