STEELY COURAGE

オーデマ ピゲ、SSモデルが切り開いた新境地

July 2023

2019年、オーデマ ピゲによるCODE 11.59の発表は、ウォッチメイキングの世界における新時代の到来を告げるものだった。そして今年、新たにコレクションに加わったステンレススティールケースの6モデルは、マニュファクチュールにとってさらなる大きな飛躍を意味する。
text scott harper
photography kim lang
fashion direction grace gilfeather

CODE 11.59
バイ オーデマ ピゲ クロノグラフ
満を持して登場したSSケースモデル。特別に開発されたダイヤルの同心円モチーフが印象的だ。写真のスモークベージュはガルバニック加工が施されたカラーリングで、中央から外周にかけてのグラデーションが美しい。また、このカラーリングのみミドルケースがブラックセラミック製となっている。クロノグラフは自社製のキャリバー4401を搭載。ケース厚は12.6mm。自動巻き、SSケース、41mm。¥4,620,000 Audemars Piguet ジャケット、シャツ、タイ all by Edward Sexton

 何年もの間、時計業界ではSIHH(ジュネーブで開催されていた国際高級時計見本市。現Watches & Wonders Geneva)が終わると、翌年の開催までにさまざまな噂が広がった。次はどんな時計が発表されるのか。どのモデルが廃盤になるのか、そしてどのモデルが完璧なリニューアルを果たすのか。そんなことである。

 とはいえ、どこかひとつのブランドとその新しいコレクションの話で持ちきりになることはめったにない。しかし、2019年のSIHH開催前にそのようなことが起こった。創業からおよそ1世紀半の間、創業家の手を離れることなく時計製造の世界で崇拝されてきた名門、オーデマ ピゲと、その新コレクション「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」についてだ。

 SIHHの開催前から「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」についての噂が熱狂的だった理由は多数ある。まず、マニュファクチュール自体の卓越性が挙げられる。オーデマ ピゲは、高級時計製造において世界で最も名声あるメーカーのひとつであることは間違いない。次に、SIHHに参加する予定の人々は、新しいコレクションが何年もかけて研究開発された成果であることをよく知っていたからだ。

 そして、同社による言葉を使えば、「クラシックなラウンドウォッチを現代的に進化させ、目に見える以上のディテールを備える」という魅力的な約束があった。だから、時計関係者の間では、新コレクションが傑作「ロイヤル オーク」に次ぐ主軸となることは明らかだった。

 正式なお披露目は、SIHH会期中に行われた。参加者は既にネット上で写真を見ており、極薄ベゼルと八角形のミドルケース、印象的なラッカー仕上げのダイヤル、丸みを帯びたアワーマーカーといった、おおよその特徴は知っていた。オープンワークのラグがベゼルに溶接されていることや、ケースにサテンやポリッシュといった仕上げが巧みに組み合わせられていることも知っていただろう。

 しかし実際に時計が披露されると、感嘆の声が上がった。クラシックながらもモダンな美しさを持つこの時計は、ダブルカーブの反射防止加工サファイアクリスタルによって視認性を高めるだけでなく、展示スペースの照明を美しく屈折させ、対面したときに畏敬の念を抱かせるほどの崇高な存在感を放っていた。

 オーデマ ピゲは伝統的な技術や最先端のテクノロジーを革新的な美学、素材、形状、文字盤に融合させて、常に時代を先取りしてきたが、この新コレクションはデザインの卓越性と緻密なマイクロエンジニアリングの勝利といえるものであった。オーデマ ピゲのCEO、フランソワ-アンリ・ベナミアスはこう語った。

「オーデマ ピゲにとって大きな出来事でした。なぜならこの特別なコレクションに、私たちが誇るすべてのサヴォアフェールを注ぎ込み、仕上げの細部を新たな限界まで追求したからです」

時計「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ クロノグラフ」¥4,620,000 Audemars Piguet ジャケット ¥293,700 Ralph Lauren Purple Label

 オーデマ ピゲは、その名声に甘んじるメーカーではない。これまでは、ロイヤル オークのハイエンドモデルを中心に、宝飾を施したモデルや、フロステッドゴールドモデル、超薄型モデルなど、性別を問わないモデルを発表してきたが、今回は“CODE 11.59”をマニュファクチュールの歴史上初めて、女性と男性の両方の着用を意識してデザインした。性差を超えたジェンダーレスなモデル作りに成功した点が、高く評価されたのだ。

 2021年、オーデマ ピゲ は“CODE11.59”の一部のゴールドモデルにセラミック製のミドルケースを組み込み、そのデザインにさらなるエレガンスを加味。さらに2022年後半から今年初めにかけては、ふたつの新たなコンプリケーションを発表し、コレクションの強化を後押しした。そのひとつは、1,140点以上の部品によって23の複雑機構と40の機能を備え、時計界から大きな称賛を浴びた「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル RD#4」。もうひとつは、17世紀に発明された、針を使わない時刻表示機構を搭載する「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ スターホイール」だ。

 そして今、“CODE 11.59”の新たな章が始まった。18Kホワイトゴールドやピンクゴールドを中心に展開してきたこのコレクションに、待望のステンレススティール製の6モデルが追加されたのだ。このニュースは、ふたつの理由から瞠目に値する。まず、スティール素材はゴールド素材よりも加工が難しいということ。“CODE 11.59”は、スタイリッシュな中空構造のラグ、極薄ベゼル、八角形のミドルケースを特徴とし、非常に複雑な構造となっている。だから、デザインコンセプトを変えずにスティール素材を採用するには、マニュファクチュールのデザイナー、エンジニア、職人たちが長年の伝統から生まれた技術を駆使し、それぞれの専門分野の境界を広げることが必要だった。

 第二に、オーデマ ピゲの輝かしい歴史において見逃せないスティールの重要性があること。機械式時計がゴールド製である場合にのみプレミアムな価格を設定できた時代、ジェラルド・ジェンタが創造した傑作ロイヤル オークは、まさにスティールで製作されデビューしたのだ。“CODE 11.59”のステンレススティール製6モデルは自動巻き3針モデルと自動巻きクロノグラフで、それぞれエレガントなグリーン、ブルー、スモークベージュ(セラミック製ミドルケース)の3色展開。控えめで洗練されていて、なおかつ技術的な現代性を融合させている。

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティックスティールケースを纏ったシンプルなセンターセコンドモデルは自社製キャリバー4302を搭載。こちらもグリーン、ブルー、スモークベージュの3色展開で、いずれもテキスタイル調のラバー加工ストラップを備える。ケース径はクロノグラフモデルと同様の41mmだが、厚みは10.7mmとスリムで装着感も良好。オンオフ問わず活躍する新定番だ。自動巻き、SSケース、41mm。¥3,135,000 Audemars Piguet ニット 参考商品 Canali

 時計愛好家たちを魅了するであろうポイントは、スイスのギヨシェ職人ヤン・フォン・ケーネルとの共同開発による、同心円状の模様で構成されたギヨシェが施されたダイヤルだ。彼が手がけた職人技は計り知れないものがある。きめ細かで複雑な工法によりベーススタンプを準備し、これにハンドグレービングを施している。波模様のモチーフは外側に向かって広がり、100以上の微小な穴が光を捉える。模様をより鮮明にするために、ブルーとグリーンの文字盤にはPVD(蒸着)加工、スモークベージュの文字盤にはガルバニック加工が施されている。これによりスタンピングのレリーフが効果的にアピールされ、モチーフが光を捉えてさらに輝くのだ。前述のダブルカーブのサファイアクリスタルとの相性も抜群だ。

 “CODE 11.59”は、2019年のスタート当初から視認性が重視されてきたが、今回のスティールモデルではこれまでのアラビア数字に代わって、新たに細長いアワーマーカーを採用している。平らなファセットとポリッシュ仕上げの針と同様、18Kホワイトゴールドでデザインされており、より詳細な秒単位の目盛りも搭載。新しいダイヤルパターンの強さと心地よい調和を生み出している。

 スティールモデルにおける美的進化はこれだけにとどまらない。リュウズはより丸みを帯びたフォルムとなり、ストラップのバックルはエングレービングのAPモノグラムに代わってフルシグネチャーとなった。インナーベゼルはわずかに広げられ、より滑らかな面取りとなり、角度もわずかに変更されてダイヤルとの高さと調和するようになった。ストラップはテキスタイル調のラバー加工を採用。モダンなスタイルを完成させた。

左:時計「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ クロノグラフ」¥4,620,000 Audemars Piguet ジャケット ¥293,700 Ralph Lauren Purple Label
右:時計「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック」¥3,135,000 Audemars Piguet ニット、シャツ ともに参考商品 Brioni

 オーデマ ピゲは、あらゆる二面性をバランスよく融合させる。伝統と創造の自由の融合。伝統的な技術と最先端技術の融合。そして人間工学と卓越した機械工学の融合。このマニュファクチュールは、腕時計史上初のミニッツリピーター機構やジャンピングアワー機構、ダイレクトインパルス式の脱進機、3つのコラムホイールを備えた機械式クロノグラフなどを開発しているのだから当然だ。“CODE 11.59”のスティール6モデルに搭載されるムーブメントは、キャリバー 4302(秒、デイト)とキャリバー4401(一体型クロノグラフ、コラムホイール、フライバック機能)で、精巧に飾られたその様子を22Kピンクゴールド製ローターとともにケースバックから見ることができる。ちなみにキャリバー4401は、クロノグラフ作動時や停止時に針がぶれることを防ぐ垂直輪列システムを備える。

 オーデマ ピゲの製品開発責任者であるソフィア・カンデイアスは、こう語る。

「これら新作タイムピースの発表は、『CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ』の進化を示すものです。特にスティールモデルの登場、そして弊社のチームによって特別に開発された新しいダイヤルデザインは、コレクションの新たなシグネチャースタイルとなります」

 オーデマ ピゲの素晴らしい歴史についてもっと知りたい方は、スイス・ジュウ渓谷にある「ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ」 を訪れてみてほしい。デンマーク出身の建築家ビャルケ・インゲルスが手がけた螺旋状の印象的な建築で、同社の150年近くにわたる技術革新と卓越性を紹介する素晴らしい施設である。総計300以上のタイムピースが展示されているが、その中には、1,168点の部品によりグラン&プチソヌリ、ミニッツリピーター、アラーム、パーペチュアルカレンダー、デッドビートセコンド、スプリットセコンドクロノグラフなどの機能を搭載した、1899年の懐中時計「ユニヴェルセル」も含まれている。

 将来、ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲを訪れる人々は、現行の「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」を歴史に残る傑作として目にするに違いない。その中には、2023年に発表されたスティール製モデルも含まれているだろう。

時計「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ クロノグラフ」¥4,345,000 Audemars Piguet ジャケット、シャツ both by Edward Sexton

DIGITAL TECHNICIAN: DERRICK KAKEMBO
LIGHTING TECHNICIAN: JOE DABBS
STYLING ASSISTANT: ELENA GARCIA
GROOMING: TYLER JOHNSTON AT ONE REPRESENTS
MODELS: TOM AT MODELS 1; EDGE AT SELECT
LOCATION: COURTESY OF JJ MEDIA