SPEED... AND SOPHISTICATION
タグ・ホイヤーとポルシェの強固な関係
June 2023
タグ・ホイヤーとポルシェは2021年2月にパートナーシップを結んだが、その関係は長い歴史から築かれたものだ。「カレラ・パナメリカーナ・メヒコ」の精神を受け継いだ両社には、素晴らしい未来がある。
text simon de burton
2022年、ポルシェ 911 カレラ RS 2.7の誕生50周年を記念して登場した限定モデル。
新しい道路が開通すると、多くの国では気取ったテープカットセレモニーを開催することだろう。だがアメリカ大陸を南北に縦断する幹線道路、パンアメリカンハイウェイのメキシコ部分が1950年に完成した際、メキシコ政府はユニークな方法を考案した。5人乗りセダンにしか参加資格がない、ノールールの公道レースをこの道路で開催したのである。
公道レース「カレラ・パナメリカーナ・メヒコ」(カレラとはスペイン語でレースを意味する)のスターティンググリッドには、プロのレーシングドライバーからレーサー志望者、タクシー運転手、数え切れないほどのアマチュアまで、実にさまざまなドライバーが並んだ。レースは5日間で9ステージ、テキサス州エルパソ近郊から南下していくというもので、メキシコとグアテマラ国境のチアパス州エル・オコタル(現在のクアウテモック市)がフィニッシュラインだった。
初年度のレースには132名のドライバーが参戦した。優勝賞金17,000ドルを手にしたのは、アメリカ人のハーシェル・マックグリフ。彼のマシンは1,900ドルのオールズモビル88、優勝タイムは27時間34分25秒、平均速度は時速78.75マイル(約126.71km)だった。このレースでドライバー3名と観客1名が死亡したため、“世界で最も過酷なレース”という悪評が立った。それでもその後の4年間には世界トップクラスのドライバーたちが参戦し、スリリングな四輪レースが繰り広げられた。
1952年のレースでは、カール・クリングが運転するメルセデス・ベンツのフロントガラスにハゲタカが突っ込んだという記録もある。それだけコースには天然の障害物が数多く存在し、桁外れのスピードによる死亡事故も頻繁に発生した。1954年にはウンベルト・マリオーリが平均時速138マイル(約222.04km)で2,100マイル(約3,380km)のコースを完走し優勝したほか、ファン・マヌエル・ファンジオ(1953年大会で優勝)やフィル・ヒルといったトップレーサーもこのレースに参戦を果たした。
最後の開催となったのは通算の死者数が27名に達した1954年(第5回)だったが、レースが正式に中止となったのはル・マンの大惨事が起きた1955年だ。
1950〜54年に5回開催された「カレラ・パナメリカーナ・メヒコ」。メキシコの公道を5日間駆け抜けるレースだ。
その数年後の1962年、時計製造会社ホイヤーの創業者エドゥアルトの曾孫であるジャック・ホイヤーは、セブリング12時間耐久レースを観に行った。このレースには、メキシコで最も有名なレースドライバーとして崇拝されていたロドリゲス兄弟が、ノースアメリカンレーシングチームのドライバーとして参戦していた。その日は彼らの両親も姿を見せ、ホイヤーはピットで会話を交わしているのだが、そこでカレラ・パナメリカーナ・メヒコの話題になり、ホイヤーはそのレースの発想と「カレラ」という想像力をかき立てる名前に魅了されてしまった。多くの言語において響きがいい言葉だから、新しいドライバーズウォッチの名前にぴったりだと思いついたのである。そこで彼はホイヤーの次のクロノグラフ(1963年)に「カレラ」の名前を採用し、すぐにこの名前を使用する独占権を取得した。
一方ポルシェは、1953年と1954年のカレラ・パナメリカーナ・メヒコで550スパイダーがクラス優勝を果たした後、1955年から自社の高性能モデルに「カレラ」という名前を使い始めていた。ただし、「ポルシェ」と「カレラ」の組み合わせが真の意味で自動車の歴史に名を刻んだのは、「911 カレラ RS 2.7」を発売した1972年である。通常の911の馬力を上げ、余計なものを極限までそぎ落とした妥協のない仕様で、当初はグループGT4レース向けのホモロゲーションモデル250台のみを生産する予定だった。
1972年10月5日にパリのモーターショーで披露されたこのモデルは大変な注目を集め、翌月末までに初回生産分が完売。最終的には1,580台が生産された。その内訳は、超軽量の「スポーツ」仕様が200台、「ツーリング」仕様が1,308台、レーシングカーが55台、ホモロゲーション用モデルが17台であった。
何より驚くべきは、モータースポーツ界を代表するふたつの企業、つまりレーシングカーを手がけるポルシェと、計時装置とドライバーズウォッチを手がけるタグ・ホイヤーが、「カレラ」という共通の物語を生かして正式にパートナーシップを結んだのが2021年だったということではないだろうか。
この提携の発表後、初めてコラボレーションウォッチとして結実した第1弾が、「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ ポルシェスペシャルエディション」である。ベゼルに「PORSCHE」のネームが刻印され、ステアリングホイール型のリュウズとアスファルト風の仕上げを施したダイヤルが特徴のモデルだ。次に2022年に登場した第2弾がブラック×イエローの限定クロノグラフで、さらにそれに続いたのがE4世代のコネクテッドウォッチのスペシャルエディションである。ポルシェ初の100%電気自動車、タイカンにインスパイアされたデザインで、フローズンブルーのディテールとプリント基板風のウォッチフェイスが特徴だ。内部のスマートソフトウェアにより、車両の管理システムとのペアリングが可能。ポルシェIDやポルシェコネクト、My Porscheアプリなどを使ってリンクすると、全走行距離、バッテリーの残量と温度、走行可能距離などが時計に表示される仕組みだ。対象モデルは、パナメーラ(2022年以降のG2 IIモデル)、パナメーラ(G2)、911(2022年以降の992モデル)、911、カイエン(2022年以降のE3モデル)、カイエン(E2 II)、718、マカンII/III、マカン、タイカンである。
タグ・ホイヤー カレラ × ポルシェ リミテッドエディション
ポルシェのレーシングカーに見られるイエローをそこかしこに取り入れてスポーティな雰囲気を前面に出した限定モデル。メタリックな車体から着想を得たシャイニーなブラックダイヤルと、アスファルトを思わせる質感のサブダイヤルがコントラストを生み出している。ムーブメントは自社製の「キャリバーホイヤー02」。約80時間のパワーリザーブを誇る。
TAG HEUER Connected CalibreE4 Porsche Edition
ポルシェのレーシングカーに見られるイエローをそこかしこに取り入れてスポーティな雰囲気を前面に出した限定モデル。メタリックな車体から着想を得たシャイニーなブラックダイヤルと、アスファルトを思わせる質感のサブダイヤルがコントラストを生み出している。ムーブメントは自社製の「キャリバーホイヤー02」。約80時間のパワーリザーブを誇る。
しかし、2022年におけるこのふたつのブランドの最高のコラボレーションはこれだけではなかった。伝説の「911 カレラRS 2.7」の誕生50周年を記念した、ふたつのエディションの時計「タグ・ホイヤー カレラ×ポルシェ RS 2.7」が発表されたのだ。ブルーエディションは白の文字盤に青のディテール、ストラップは白と青のファブリック製だが、ステンレススチールのブレスレットも付属。500本の限定生産である(完売)。一方、250本限定のレッドエディションは、より鮮やかなRSカラーのひとつであるインディアレッドを採用し、ローズゴールド製のケースに赤のディテールとレザーストラップを組み合わせた。どちらのモデルも、ケースサイドには「Carrera」の文字があしらわれており、シースルーのケースバックからはRSのステアリングホイールを模したローターを鑑賞することができる。
しかし我々の経験から言うと、このスペシャルモデルでさえも、今後タグ・ホイヤーとポルシェが投入する製品の通過点に過ぎない。なにしろ2023年は初代「ホイヤー カレラ クロノグラフ」の誕生60周年なのだ。ふたつのブランドがそれを大々的に祝うであろうことは間違いない。我々としてはもう準備万端だ。
タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ×ポルシェオレンジレーシング
2023年は「ホイヤー カレラ クロノグラフ」誕生60周年。2月に突如発表されたポルシェコラボ最新作は、アスファルト上でマシンが放つ灼熱の閃光にインスパイアされた、鮮やかなオレンジを随所に取り入れたスペシャルエディション。ブラックとのコントラストのほか、レースの世界観が随所に見られる。ムーブメントは「キャリバー ホイヤー02」。特別にデザインされたWネームパッケージが付属。