社会が激変している今だからこそテーラードが面白い!

今シーズン、狙うべき一着とは?

Friday, October 9th, 2020

人々のライフスタイルが激変した中で、我々がスーツに求めるものにも大きな変化が起こっている。

今年はひと味違ったオーダーを楽しみたい。

 

 

photography jun udagawa

 

 

(左)長谷川喜美氏 ジャーナリスト

英国、イタリアをはじめとするヨーロッパのテーラーや職人文化を中心に多くの媒体で執筆。著書に『サヴィル・ロウ』『ハリスツイードとアランセーター』『ビスポーク・スタイル』『英国王室御用達』など。著書『サルトリア・イタリアーナ』は日本語版、英語版、イタリア語版と、世界で3カ国語版が出版された。

(右)山浦勇樹氏 三越伊勢丹 メンズテーラードクロージング バイヤー

1983年生まれ。2006年伊勢丹入社。イセタンメンズのクロージング部門を統括。昨年3月の新宿店メンズ館5階のリニューアルでは指揮を執り、バーカウンターを併設したオーダーサロンを設けるなど、売り場を大変身させ、大成功に導いた立役者となる。英国やイタリアからのテーラーたちからの信頼も厚い。

 

 

 

 

山浦 イセタンメンズは4月、5月と約2カ月間休業したあと再オープンした際、もうスーツは売れないのではないかと思っていたのですが、サロンでのオーダーは非常に好調な動きを見せておりまして。お客様は誂えるという行為そのものを楽しまれているんだな、と。こんな状況下だからこそきちんとした服を誂えたいという思いが自分にも伝わってきたのがとても嬉しかったです。一方でライフスタイルが大きく変化している中では、新しいことに寄り添っていくことも大切です。今なおリモートワークの方は少なくないですし、ただその方たちにナイロンの伸縮素材を提案できるかといえばそれは違っていて、天然素材のナチュラルなものを、今までとは大きく異なるかたちで、新しくご提案できればなと思っています。

 

 

長谷川 サヴィル・ロウのテーラーに関しましても、今までクラシックなスーツ一辺倒だった老舗でも、よりパーソナルに着こなせるスーツが求められるようになってきているように思います。オーダーする側も、今まではクラシックの究極とは何か、クラシックの最高峰が欲しいという中で、カジュアルにはなかなかシフトしてこなかったわけですが、こういう状況の中で、スーツであってももっと日常的に着られるものが求められるようになってきましたよね。テレカンが主流になって縛りが緩くなる中で、今までは遊び心がありすぎるから避けられていた生地が注目されるようになったのは、大きな流れだと思います。要はガチガチのクラシックでなくてもよくなってきたわけです。今までのスーツと同じに見えるからスーツは買わなくていいと思っている人もいるかもしれませんが、コンストラクションもより軽くなり、サヴィル・ロウでさえもアンラインドで仕立ててほしいという要望が多くなってきている今、スーツスタイルは大きく変わってきているわけです。

 

山浦 そんな今季を象徴する生地としてオススメしたいのが、VBCの“ウールコーデュロイ”です。

 

 

長谷川 そうですね。“ウールコーデュロイ”は今までのスーチングの新作とはだいぶ趣きが異なります。ビジネスで着るものとはちょっとかけ離れているのですが、通勤でのスーツがマストではなくなった今、スーツにおいてもよりパーソナルに楽しめる生地で仕立てることに人々の嗜好が向き始めたわけです。中にニットを挟んで楽しむスタイルもありでしょうし、今後はそういったスーツスタイルがより広く浸透していくと思います。それともうひとつ、スーツで買ったとしてもセットアップでも使いやすいのも、同生地の魅力です。

 

 

スポーティなだけでなくエレガントさも備えていて、スーツでも仕立てられる強度も持ち合わせているVBCの新作ファブリック。上のベージュの生地が“ウールコーデュロイ”、山浦氏が手にしているのが“ソルト&ペッパー フランネル”だ。スーツをよりパーソナルに楽しもうとする流れが強くなっている今年は、ニットと組み合わせたスタイリングが市民権を得そうだ。

 

 

THE RAKE ジャケットだけでもトラウザーズだけでも使えそうですね。そして、もうひとつの新作、“ソルト&ペッパー フランネル”も興味深い。

 

山浦 私たちはマギーのドニゴールツイードにもフォーカスしているのですが、重くてチクチクするし、でもあのテイストが好きなお客様って結構多いんです。VBCの“ソルト&ペッパー フランネル”は、それに近い見た目や感覚を取り入れながらもとても優しいタッチで着られるのがいいですね。こういうスーチングって探すとなかなかないので、これはオススメしたいです。今、こういったシーズンを感じさせる素材の人気が高いんです。

 

THE RAKE  その一方で、こういう状況下だからこそヘビーウェイトの長く着られる生地で服を仕立てたいというお客さんの声も多いわけですよね。

 

山浦 今季は英国のスタンドイーブンの“チャーチル”という重たくてゴワゴワの生地を使ってナポリのサルトリアで仕立てた服を数多く揃えています。1着のスーツを一張羅として長く大切に着ている人って素敵じゃないですか。でも実はヘビーウェイトの生地をイタリアのサルトリアで仕立てるという流れというかブレイクのきっかけになったのは、あえて太く粗野な糸で織られたVBCの“21マイクロンウール”だったんです。それをきっかけに、生地のクオリティの本質はどこにあるのかというのを皆が見つめ直すようになりましたよね。

 

長谷川 英国を愛するVBCのクリエイティブ・ディレクターのフランチェスコにとって、究極のスーツに対する答えが21マイクロンだったんです。艶々していませんし、重量級の6プライもありますし。

 

山浦 今や日本のドレス好きが求めているのはナポリの柔らかさと素材の強さ、というのもひとつの流れになっています。ですので“チャーチル”もきっとご満足いただけるのではと思っています。メリハリがないと何をしても同じになってしまいますからね。今こそファッションがもっている力を楽しめるときだと思います。

 

 

英国のスタンドイーブンの“チャーチル”は390g/m。リアルなヴィンテージファブリックのようにタフな素材感を楽しめるのが魅力だ。ナポリの本格サルトリアの軽い仕立てを、質実剛健を地でいくヘビーウェイトの本格生地で長く楽しむ流れにも注目したい。