Discussing the Future of Classics: TETSUYA ITO×AKIHIRO SHIKATA

クラシックとモードが交差する場所、クワイエット・ラグジュアリーを体現する「サロン ド プリュス」

September 2025

話題の「サロン ド プリュス」に、メンズを代表するスタイリスト四方章敬氏が訪れた。伊藤哲也氏の美学と四方氏の審美眼が共鳴し、新たなクラシックのかたちが紡がれていく。

 

 

photography tatsuya ozawa

 

 

(左)伊藤哲也氏 LINK+代表取締役

1978年、東京都生まれ。20年以上セレクトショップで経験を積み、2018年に予約制オーダーサロン「サロン ド プリュス」を設立。デザインから接客まで自ら担い、クラシックとモードを融合させたスタイルを提案。卓越したセンスで知られている。

 

(右)四方章敬氏 スタイリスト

1982年、京都府生まれ。文化服装学院卒業後、有名スタイリストのアシスタントを経て、2010年に独立。『THE RAKE JAPAN』をはじめ『LEON』『MEN’S EX』など多くのメンズ誌でスタイリングを手がけ、クラシックファッションを牽引する。

 

 

 

 東京・神宮前。その静かな一角に、ファッション感度の高い大人たちが足を運ぶ隠れ家がある。完全予約制のパーソナルオーダーサロン「サロン ド プリュス(Salon de +)」だ。

 

 このサロンを率いるのは、セレクトショップ業界で20年以上のキャリアを重ねた伊藤哲也氏。2018年に自身の美学を凝縮した空間を立ち上げ、顧客を迎えている。“プリュス”の名が示すように、そこでは洋服以上の付加価値が提供されているのだ。

 

「年齢を重ねても自分を磨き続けたい方々のために、豊かで洗練されたスタイルをご提案したいのです。クラシックを基盤にしながらも、常に新しさを取り入れ、時代に合ったモダンな装いを追求しています。クラシックとモードの融合──それが私たちのテーマです」と伊藤氏。

 

 

 

 

 象徴的なのが「ニュアンスカラー」である。淡いグレーやベージュといった中間色を重ねることで、都会的かつ知的な印象を生み出す。この繊細な色彩表現こそ、従来のスタイルを超える洗練の証といえるだろう。

 

 そんなサロン ド プリュスに、今回特別なゲストが訪れた。スタイリストの四方章敬氏である。『THE RAKE』をはじめ、『LEON』『MEN’S EX』などで活躍する、日本を代表するメンズファッションのクリエイターだ。四方氏のスタイリングは、クラシックをベースにしながらもひと捻りを加え、ヴィンテージ感や抜け感を巧みに取り入れる点に特徴がある。そのアプローチは、サロン ド プリュスの理念と深く響き合う。四方氏は言う。

 

「以前から気になる存在でした。オーダーメイドといえばクラシック一辺倒になりがちですが、ここには唯一無二の個性がある。テーラードは好きですが、もっと遊び心のある服が欲しいと思っていたときに出合い、『これはいいな』と感じました」

 

 四方氏によれば、サロン ド プリュスは現代のメンズファッションにおいて、まさに求められる存在だという。

 

「今ファッション界には明確なトレンドがなく、セレクトショップもテイストごとに細分化が進んでいます。顧客は自分の好みに合う場所を自ら選んで通っている。サロン ド プリュスは、そうした“サロン型ショップ”の先駆けだったと思います」

 

 さらに四方氏は、この店が“クワイエット・ラグジュアリー”のパイオニアであったことも強調する。

 

 

 

 

「ロゴが強調されたTシャツよりも、上質素材を使い長く着られるシンプルな服が注目されています。これがクワイエット・ラグジュアリーと呼ばれる流れですが、サロン ド プリュスはその考えをずっと前から実践していました。ようやく時代が追いついてきたのではないでしょうか。ここで扱うアイテムはどれも最高級の素材で仕立てられており、10年後も袖を通せるものばかりです」

 

 クラシックをベースにしながらモダンさを感じさせるデザイン、ニュアンスカラーによる洗練されたカラーリング、そしてアラシャンカシミアをはじめとする極上の素材──。そのすべてが、敏腕スタイリストの審美眼を満たした。

 

 伊藤氏と四方氏。ふたりが談笑しながら選び抜いたコーディネイトは、まさに現代の紳士に向けた新しい提案である。そんなスタイリングの数々を見ていこう。

 

 

ドラッパーズ社の「フェザーフランネル」を使用したジャケットは、きちんと見えるにもかかわらず、とにかく軽く、着心地がいい。モカグレージュの美しいニュアンスカラーが着る人のエレガンスを引き立てる。

ダブルジャケット¥188,000、ショートスリーブカットソー ¥30,800、シルバー製ネックレス ¥37,800、カルネ社のピンウェール製ドローコードトラウザーズ ¥74,800(以上すべてMTM)all by Salon de Plus

 

 

カルネ社のタキシード用の生地をジャケットに転用した一着。ゼブラ柄のシャドウパターンが織り込まれている。スタンダードモデルより着丈もやや長めに仕上げ、エレガントな雰囲気に仕上がっている。

ハリントンジャケット¥288,000、スーパー120Sのウール生地にデニムプリントを施したトラウザーズ ¥72,800、ショートスリーブカットソー ¥30,800、シルバー製ネックレス ¥37,800(以上すべて MTM)、ブラックスエードのベルト ¥22,000、ユタカーフメスエード製アンラインドローファー ¥265,100 Edward Green/all by Salon de Plus

 

 

 

― いま注目しているスタイルとは?

 

伊藤「私が注目しているのは、クラシックにモードを掛け合わせた“モダンクラシック”です。これはずっと掲げ続けているテーマでもあります。歴史に裏打ちされたクラシックには敬意を払いつつ、その枠に新しい要素を取り入れることで、きちんとした装いの中にも余裕や遊び心が生まれると考えています。とはいえ、選ぶアイテムは一過性の流行ではなく、長く着続けられるもの。目指しているのは“オシャレ”という表層的なものではなく、“イケてる”と感じさせるスタイルなのです」

 

 

イタリア随一のテキスタイルブランド、ピアチェンツァ社が誇る最高級素材「アラシャンカシミア(3プライ)」製世界でも限られたラグジュアリーブランドのみに提供される究極の素材だ。

ダブルラグランコート ¥928,000、カルネ社のピンウェールコーデュロイ製ハリントンジャケット ¥188,000、ドラッパーズ社のストレッチコットン製2プリーツトラウザーズ ¥74,800(以上すべてMTM)、グレースエード製アンラインドローファー ¥245,300 Edward Green/all by Salon de Plus

 

 

ピアチェンツァのアラシャンカシミア製ダブルコート¥720,000、ダブルジャケット¥188,000、ショートスリーブカットソー ¥30,800、カルネ社のピンウェール製ドローコードトラウザーズ ¥74,800、シルバー製ネックレス ¥37,800(以上すべて MTM)、ユタカーフメスエード製アンラインドローファー ¥265,100 Edward Green/all by Salon de Plus

 

 

 

—コレクションは「ニュアンスカラー」でまとめられていますね。

 

伊藤「ニュアンスカラーは、グレー、ベージュ、グレージュなど、穏やかなトーンを持つ色の総称です。ニュアンスカラーとひと口にいっても、その幅はとても広いんです。例えば『グレージュ』といっても無数のバリエーションがあります。私は毎シーズン、新しい色を探し、今までありそうでなかったトーンを提案したいと考えています。また素材との相性も大切にしています。カシミアはもちろんですが、コットンひとつとっても、目付けや染料、起毛感によって光の陰影の出方が大きく変わります。見た瞬間に『これで仕上がった姿が浮かぶ』と思える素材に出会えたときが、何よりうれしいですね」

 

四方「ニュアンスカラーは、ここ最近のトレンドのひとつです。多くのブランドが手掛けていますが、スタイリング的にはとても取り入れやすい色だと思います。同系色でまとめれば自然と調和します。サロン ド プリュスのアイテムはすべての色に統一感があるので、何をどう組み合わせてもサマになる。トータルコーディネイトがしやすいのです」

 

伊藤「ワントーンで統一することで、あえて“静かな迫力”を表現できる。声高に主張はしませんが、身に纏った瞬間に自然と馴染み、その人らしさを引き出すのがニュアンスカラーだと考えています」

 

 

サロンを代表する流れるようなAラインを持つダブルブレステッドのラグランコート。生地はピアチェンツァが誇る最高級素材「アラシャンカシミヤ(3PLY)」100%。キャメルブラウンのカラーは洗練と温もりを漂わせている。¥928,000

グレンチェックのショールカラージャケット ¥248,000、ショートスリーブカットソー ¥30,800、カルネ社のコーデュロイ製トラウザーズ ¥74,800(以上MTM)、ユタカーフ×スエード製アンラインドローファー ¥265,100 Edward Green/all by Salon de Plus

 

 

 

―使っている素材には特にこだわりがあるそうですね。

 

伊藤「素材のよさには自信があります。ウールやコットンをはじめ、すべて世界最高クラスのものを揃えているつもりです。特におすすめしたいのは、イタリア最高峰の生地ブランド、ピアチェンツァが誇る「アラシャンカシミア」です。その軽さ、触り心地、発色……どれをとっても素晴らしく、現代最高峰の生地のひとつと言っても過言ではありません」

 

四方「アラシャンカシミアは本当に『めちゃくちゃいい!』と感じます。とにかく着ていて軽いし触り心地も素晴らしい。コートやジャケットに仕立てるのも、もちろんいいですが、カジュアルなアイテムに使っても面白そうです」

 

 

日本が誇る繊維メーカー「東レ」による人工皮革『ウルトラスエード®』を使用。まるで本革のような高級感がありながら、イージーケアを可能としている。シャツとしても、ジャケット代わりとしても使え、スタイリングの幅が広がる。

オープンカラーシャツ ¥115,000、ショートスリーブカットソー ¥30,800、コットン×ウールのトラウザーズ ¥78,000(以上すべてMTM)all by Salon de Plus

 

 

 

―新しい素材も積極的に取り入れていますよね?

 

四方「単に高級素材に頼るのではなく、アルカンターラ(人工スエード)のような新しい素材も積極的に取り入れている。その姿勢に今っぽさを感じますね」

 

伊藤「人工スエードは、いま非常に種類が豊富です。中には驚くほど薄手で、ショーツやインナーにも使えるようなものもある。クラシックの枠に縛られず、そうした新しい素材もどんどん取り入れていきたいと考えています」

 

 

左:カルネ別注コーデュロイWジャケット ¥188,000、シヨートスリーブカットソー¥30,800、ドラッパーズトラウザーズ ¥78,000、シルバー製ネックレス ¥37,800、ユタカーフメスエード製アンラインドローファー ¥265,100 Edward Green(完全別注)/all by Salon de Plus

右:イタリアの名門ビアチェンツァが誇る最高級素材「アラシャンカシミア」製ハリントンジャケット¥780,000、ショートスリーブカットソー ¥30,800、コーデュロイ製トラウザーズ¥78,000、グレースエード製アンラインドローファー ¥245,300 Edward Green(完全別注)/all by Salon de Plus

 

 

 

― 今シーズン、特に注目したいアイテムは?

 

四方「まず惹かれたのは、カシミアのハリントン・ジャケットです。カシミアはテーラードジャケットやコートでよく使われますが、ブルゾンに落とし込まれることは珍しい。しかも生地はピアチェンツァ製の最高級カシミア。ブルゾンに仕立てるという発想自体が新鮮でしたね。もし私がカシミアのハリントンを手に入れるなら、やはりグレーのワントーンでまとめたいですね。インナーはハイゲージのニットかカットソー、パンツはウールのトラウザーズでワントーン明るめを合わせるかもしれません。それから、サロン ド プリュス別注のエドワード・グリーンのローファー。英国靴らしい硬派な一足を、アンライニングで柔らかく仕立て、しかもグレーに染め上げている……これはまさにアップデートされたクラシック。思わず『こんなのあるんだ!』と驚きました。私自身、撮影現場などで体を動かすことが多いのですが、これなら実用的にガシガシ使えると思います。私はスラックスにローファーというスタイルが多いので、グレーのローファーは間違いなく毎日の相棒になるでしょう」

エドワード グリーンが誇る不朽のローファー「DUKE」を、サロン ド プリュスならではの感性で、スタイリッシュに仕上げたエクスクルーシブ・モデル。トラディショナルとモードを融合させた意匠である。ラストには137Eを採用し、シルエットはスリムで美しい。モデル名の由来である英国王室随一の洒落者、ウィンザー公を彷彿とさせるような端正でエレガントなシェイプに仕上がっている。特筆すべきは、その履き心地。クラシックな見た目とは裏腹に、足を入れた瞬間に驚くべき柔らかさを感じる。その秘密は、ライニングを極限まで省いたアンラインド仕立てとしたこと。内張りを省いた分、非常にソフトな一足に仕上がった。足を包み込むような履き心地で、まるで素足で歩いているかのような軽快さを実現している。 

 

 

アッパーを握りしめてみると、まるでスニーカーのように自在に変形する。長年DUKEを扱ってきたサロン ド プリュスだからこそ可能となった仕様で、他の店で同じものを手に入れることはできない。サロン ド プリュスの完全エクスクルーシブ・モデルとなっている。ソールには、デイリーユースを想定したR1ソール(ラバー)を装着。厚みはレザーソールとほぼ同等ながら、軽量かつ滑りにくく、雨天にも対応可能な万能底材である。カラーバリエーションは2種類。ひとつはコンビネーション・モデル。油分をたっぷり含んだオイルドレザーにシボ加工を施した「ユタカーフ」のブラックをベースに、甲部分を同色スエードで切り替えている。全体をオールブラックでまとめることで、エレガントさとモード感を兼ね備えた表情に仕上がっている。足元を引き締める効果もあり、あらゆるスタイリングと相性抜群である。もうひとつは、サロン ド プリュスだけのエクスクルーシブカラー「スモークグレー」モデル。わずかに青みを含んだ美しいグレートーンは、どんなスタイルにも溶け込む上品さを持ち、足元から全体のスタイリングを格上げしてくれる。

左:ユタカーフ&スエード コンビ ローファー ¥265,100、右:スモークスエード ローファー ¥245,300 both by Edward GreenSalon de Plus

 

 

 

伊藤「私としては、やはりニュアンスカラーのアイテムをおすすめしたいですね。同じグレーでも彩度を少し変えることで、まったく違う表情を楽しむことができます。そして何より、特別な場面だけでなく、日常でどんどん着倒していただきたい。ちょっとした外食や普段の外出でも“いいもの”を纏っていると、それだけで気分が上がります。まさにスマートカジュアルの真髄だと思います」

 

 

シングルコートの生地はピアチェンツァ社「アラシャンカシミア」100%を採用。とろけるような柔軟さと優美なドレープ感は他に類を見ない。

ラグランコート ¥700,000、ウルトラスエード®のオープンカラーシャツ ¥115,000、ショートスリーブカットソー ¥30,800、コットン×ウールのトラウザーズ ¥78,000(以上すべてMTM)、グレースエード製アンラインドローファー ¥245,300 Edward Green/all by Salon de Plus

 

 

 

― コーディネイトのポイントは?

 

四方「ニュアンスカラーは同系色でまとめれば簡単にまとまりますが、さらに“素材感をずらす”ことがコツだと思います。例えば、カシミアのアウターにコーデュロイやウルトラスエード®のアイテムを組み合わせたり……。同じグレーでも素材を変えることで立体感が生まれ、単調でのっぺりとした印象になりません。これはテーラー的な発想ですね。カジュアル寄りの人は同じカシミアなら安価なものを選びがちですが、テーラーを知る人は“どのブランドのカシミアか”にこだわる。サロン ド プリュスには、その確かな選択眼があります」

 

 

ドラッパーズ社のシャドウ・ヘリンボーンストライプ生地(スーパー130’S)で仕立てたスーツ。美しいシルエットと非常に軽い着心地を両立させている。四方氏も絶賛した一着だ。6Bダブルスーツ ¥258,000(MTM)Salon de Plus

 

 

 

 サロン ド プリュスが提案するのは、クラシックの格式を尊重しながらも、モードの感性を取り入れたモダンクラシックだ。淡いニュアンスカラーと最高級の素材を駆使し、声高に主張するのではなく、着る人の個性を自然に引き出す。スタイリスト四方章敬氏の言葉を借りれば、そこには「アップデートされたクラシック」が息づいており、時代の空気を的確に捉えながらも、10年後にも袖を通せる普遍性を備えている。

 

 伊藤氏と四方氏が共鳴し合いながら組んだコーディネイトは、まさに現代の紳士にふさわしい新しいクラシックの姿といえるだろう。

 

 

サロン ド プリュス

THE RAKEが自信を持っておすすめするパーソナルオーダーサロン。クラシックに飽き足らない人、格上のモードを目指す人に。

東京都渋谷区神宮前3-6-4 フォーラムビル3F

TEL.03-6434-0470 ※完全予約制(定休日:月曜日)

https://salondeplus.com/