Mario Moretti Polegato Interview

ワイン農家からトップ経営者に
マリオ・モレッティ・ポレガート
”勝者の哲学”

December 2018

text mio komura

 

「呼吸をする靴、それは革新だった」ーーそう語るのは、GEOX創始者マリオ・モレッティ・ポレガートだ。イタリア・トレヴィゾのワイン農家に生まれた彼の家は1622年に建てられたヴィッラ サンディというお屋敷で、プロセッコワインにおけるリーディングワイナリーとしても有名だ。ワイン農家の御曹司からシューズ業界へ。畑違いのマーケットで”勝者”となれた、彼の哲学を探った。

 

 

 

「ワイン見本市のために訪れたアメリカで蒸れた靴の不快さを解消するために、私は履いていた靴のラバーソールに穴を開けました」

 

 GEOX誕生の瞬間は業界ではあまりに有名すぎるプロローグだ。これをきっかけに、ミクロ孔構造の特殊なメンブレンを間に潜ませた穴の開いた独自のソールを開発。すぐに特許申請を行ったマリオ・モレッティは、「当初、僕はこのソールを大手靴メーカーに売り込むつもりでした。でも、どの企業も興味を示さなかった。だから自分でブランドを始めたのです。今思えば断られたことは幸いでしたね」そう微笑みながら、マリオ・モレッティは当時を振り返る。

 

「このメンブレンは湯気湿度を放出するんだけど、水は通さない。足を常にドライで清潔な状態に保てるんです」。品質の高さの証となる”メイド・イン・イタリア”と革新的なアイデア、この2つを備えたGEOXはヨーロッパで瞬く間にスターダムにのし上がる。世界100カ国で登録されたこの特許によって”呼吸する靴”が作れるのは、現在もGEOXだけだ。

 

 

 

ブランドのサクセスストーリーとともに常に注目を集めてきたのが、マリオ・モレッティの経営手腕だろう。ブランドを現在の地位へと成長させた戦略やリーダーシップには、多くの起業家やビジネスパーソンが耳を傾ける。

 

「最初は若者5人を雇い、生産、マーケッティング、経理など一人一人に異なる職務を分担をしました。あっという間に社員は5人から50人、500人、5000人と増え、現在GEOXグループ全体で3万人の人が働いてくれている。ある意味ひとつのムーブメントを作ったようなものです」

 

 この急成長の背景には、彼独自の「勝者」としての哲学あった。彼はGEOXを成長させるための経営学をはじめ、これまでにルーマニアやイタリアで経済学や農業、獣医学、化学と次々に博士号を取得している。もちろん、ワイン醸造学もだ。なぜ、分野を跨ぎ学び続ける必要があったのか?その問いに彼はこう答える。

 

「マーケットの中で勝者になるために必要なものは『教養』、そして『カルチャー』です。今は、パワーや武器だけで勝てる時代ではなく、『教養』『カルチャー』の中にこそマーケットの中で勝者になるための鍵が隠れている。だから、もしあなたが勝者になりたいと思うなら学び続けるしかないのです。そして同時に、その革新的なアイデアを信じ、それに投資し、信念を持ち続けることです」

 

 現在ではミュンヘンに本部を置く欧州連合のヨーロッパ特許オフィスではストイノベーションパテント賞の審査委員長を務める傍ら、知的所有権の権威として各国の著名大学で教鞭を執る。その活動もまた、GEOXブランドにまたひとつの個性をもたらしてるようだ。

 

 

 そして今、マリオ・モレッティはGEOXを新しい方向へと導こうとしている。アジアマーケットの拡大やEC、SNS戦略などあらゆる方向へとビジネスを拡大させる中、最も力を入れたいと語るのがファッション性の向上だ。

 

「我々は子どもから大人までファミリーをターゲットにしているブランドです。愛用してくださる方々は長年我々のウェルビーイングを高く評価してくださっていますが、お客様のご要望としてよりファッション性の高いシューズを求める声が年々高まっていました」

 

 そうした声に応えるため、同族企業として運営してきたGEOXブランドは「TOD’S(トッズ)」や「Sergio Rossi(セルジオロッシ)」などで活躍した重鎮Ernest Esposito(エルネスト・エスポジート)を迎え入れ、「2019年春夏には充実したラインナップとカラフルでファッショナブルなGEOXシューズを見ることができるでしょう」と自信を覗かせる。

 

「ブランドが最も大事にしなくてはならないものは、コミュニケーションです。どれだけテクノロジーが進化しようとも、我々がお客様の声に耳を傾け、届けていくということに変わりはありません」と顧客に学び成長の礎を得る。66歳になっても衰えぬその姿勢に、 “勝者”の哲学を垣間見ることができた。