MANCHESTER BY THE V.C.
プライベート ホワイトV.C.:マンチェスターの遺産を守り抜く
July 2021
プライベート ホワイトV.C.は、世界初の工業都市マンチェスターに残る最後の衣料品工場だ。
すべての服が、ひとつひとつ手作りで作られている。
誇りある歴史が、このレーベルの未来への力となっている。
text & photography rikesh chauhan
社内のアーカイブ・ルームより、1943年当時のヴィンテージ・コート。ミリタリー用として作られたものだと思われる。
過去数十年の間、英国マンチェスターといえば、この街の有名なサッカークラブチーム―ユナイテッドとシティのみが語られてきたと言ってもいいだろう。1992年のプレミアリーグ発足以来、ふたつのクラブは合計17回のタイトルを獲得している。しかしこの街が現代の歴史の中で果たしてきた重要な役割を知るためには、19世紀までさかのぼってみる必要がある。
1800年代に英国の綿花産業が驚異的な成長を遂げ、マンチェスターに空前の好景気をもたらした。そしてマンチェスターは産業革命を果たし、世界で最初にして最大の工業都市としての地位を確立したのだ。
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コットン都市と呼ばれていたマンチェスターは、西欧世界の常識を変えてしまった。英国で最初の“高度成長期”がやってきた。技術の進歩により、人々は繁栄を謳歌し始めた。コットン製品の需要によって雇用と所得がもたらされ、それが爆発的な人口増加に繋がった。サルフォードのアーウェル川のほとりにあった赤レンガ造りの巨大工場“コッテナム・ハウス”が、繊維製品のトップメーカーとして脚光を浴びるようになったのは、1853年のことだった。
そして今日では、マンチェスターに現存する最後の衣料品工場であり、紳士服の名門として知られている。“プライベート ホワイトV.C.”のホームグラウンドでもある。ジャック・ホワイト二等兵は、第一次世界大戦中の勇敢な行動でヴィクトリア十字章を受章し、マンチェスターに戻ってきた英雄だった。彼は当時レインコートを製造していた地元の工場、コッテナム・ハウスでパターン・カッターとして見習いを始めた。彼は出世し、1934年にゼネラル・マネージャーに任命され、20年足らずの勤務の後、工場の唯一のオーナーとなった。第二次世界大戦後、ホワイトは健康を害し、引退を余儀なくされた。彼は52歳という若さで死を迎え、会社は他人の手に渡ったが、彼が残した“レガシー”は後の世代に影響を与え、ひ孫たちが会社を再びファミリーの所有に戻した。ジャック・ホワイト二等兵が築いた価値観を守り続けているのは、彼のひ孫であり、現代のブランドの創始者であるジェームズ・イーデンだ。
THE RAKEがマンチェスターを訪れたのは、冬の寒い朝だったが、イーデン氏はわれわれを温かくもてなしてくれ、一足早く春がきたようだった。ピカデリー駅から近隣のサルフォードまで車で8分ほどで到着し、工場へは裏口から入った。コロナ禍のせいで、従来の表玄関は、当分閉鎖されたままだ。
プライベート ホワイトV.C.のC.E.O.ジェームズ・イーデン。
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あらゆるものを社内で作る
工場を見学している間も、話題は自然とパンデミックのことになってしまう。同社は状況の変化に迅速に対応したという。強みは、さまざまな衣料品を製造し、地元で素材を調達できることだとイーデンは語った。
「何年も前から、私たちのビジネスの根幹は、さまざまなラグジュアリー・ブランドのOEMでした。戦時中から連合国軍やロンドン警察、サヴィル・ロウの老舗ファッションハウスやテーラーのために製品を作ってきました。私たちはあらゆるものに手を貸してきましたが、今でも私たちが作るものの90%は社内で作られています」と話した。
この柔軟性の高さが、ロックダウンの最中に工場を再構成したり、改造したり、保健社会福祉省にサービスを提供したりすることを可能にしたのだ。ほんのちょっとラインを変更するだけで、工場は医療用ガウンや手術用マスクの国内最大のメーカーとなり、現在も生産を続けている。厳しい時期にもかかわらず、ラグジュアリー・ウェアの生産も続けられている。特にアウターの需要は多い。
英国マンチェスターにあるプライベート ホワイトV.C.のファクトリー、およびアーカイブの内部。ここにはデザイン部門、生産工場、事務所、生地と製品のアーカイブなど、ブランドのすべての機能が集められている。送り出す製品の90%以上はこの自社工場にて作られたものだ。
数あるブランドのなかで、アイコニックな服を持っていると主張できるブランドはほとんどない。しかし、プライベート ホワイトV.C.には5つもの代表作がある。定番の“ベンタイル® マック”と“ハリントン”、“ピーコート”、“モレスキン・ボンバー”。それらに加えて、このブランドのアウターウェアのハイライトは“ツイン・トラック”である。フロントに配された2つのジップアウト・プラケットですぐにわかるこの最新作は、スコットランドのダンディーを拠点とする生地メーカー、ハリー・スティーブンソン社と共同開発した6オンスのワックスド・コットンを使用している。
プライベート ホワイトV.C.には、1900年代初頭までさかのぼる何百ものスタイルやモデルが保管されているアーカイブ・ルームがある。それを守っているのは、ブルドッグのブルータスだ。物館級のコレクションは、クリエイティブ・チームが生み出すデザインのベースとなっている。プライベート ホワイトV.C.の成功により、彼らはロンドン中心部のメイフェアにフラッグシップ・ショップをオープンすることができたが、コロナ禍とロックダウンが強い逆風をもたらした。
イーデンは、2020年を振り返って率直な感想を述べた。
「すべてがロックダウンされた時には、生活、雇用、経済、健康に対する真の脅威に直面していると感じました。ビジネスのオーナーとして、チームの安全が最優先でした。この場所を存続させるためには、思い切った行動を取らなければなりませんでした。工場は何年もかけて作り上げてきたものですが、もし生産中止になった場合、一夜にして崩壊する可能性があるのです。私たちはすぐにPPE(個人用防護具)の不足に気付きました。私たちは非常に美しく装飾的なアパレルを作ることができるので、医療用のガウンやマスクを作るのは、比較的簡単でした」
このような適切な舵取りによって、プライベート ホワイトV.C.は雇用を継続し、実際にスタッフを増員することができた数少ない企業のひとつとなった。ァッション・ビジネスにおいて、昨年は間違いなく厳しい1年となったが、2021年には希望がある。
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「幸いなことに、ウェブ・ビジネスは好調です。世界には私たちのクラフツマンシップを理解し、尊敬してくれている顧客がいます。われわれの代名詞である、地元で生産された、職人的な工芸品に対する人気が、高まってきているのを感じています」
プライベート ホワイトV.C.のサステナブルで長持ちする服を作るというコンセプトは、過去から学び、未来を形作るという彼らの姿勢から生まれた。ふたつの世界大戦を生き延びるのは並大抵のことではない。コロナ禍はわれわれが知っている世界を変えるかもしれないが、かつて世界を変えた街、マンチェスターの遺産を守り抜こうというイーデンの決意には、感動的なものがある。
さらなるPrivate White V.C.のコレクションはこちらより
本記事は2021年5月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。
THE RAKE JAPAN EDITION issue40