LOUIS XIII LOVERS -Interview-

変わらないために、変わること

February 2020

銀座の老舗テーラー、壹番館洋服店の渡辺新氏は、生粋の銀座人だ。行きつけのバーで渡辺氏が愛飲するのは、世界最高級のコニャック「ルイ13世」である。

 

 

photography tatsuya ozawa

 

 

Shin Watanabe/渡辺 新氏

壹番館洋服店 代表取締役社長

1966年東京都生まれ。88年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、渡欧。イギリスのセントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン、イタリアのドムスアカデミーで洋服作りを学ぶ。94年に壹番館洋服店に入社。97年より現職。三味線や茶の湯などの日本文化を愛する。

 

 

 

 日本を代表する商業地として歴史を刻んできた街、銀座。その銀座で1930年に創業し、90年近く経つ今も日本の最高峰テーラーのひとつとして君臨する老舗が、壹番館洋服店である。代表取締役社長の渡辺新氏は同社の3代目であり、またカッターとして自らも手を動かす。

 

「先日、お父上様の1955年製の当社スーツをご子息がお直しで持ち込まれました。また92歳のお客様が、28歳の時に作られたコートをご自身でお持ちいただいたこともあります。普段の接客の中で、当社の歴史という“時間”を感じる場面が多々あります」

 

 古いスーツであっても、解体すると作りの良し悪しは目に見えてわかるという。

 

「だから私たちの仕事は嘘がつけません。時代を超えて残るモノにごまかしはきかないのです。私たちは、単にモノを売っているのではなく、“時間”そのものを扱っているのだと思い知らされます」

 

 ゆえにオーダースーツの魅力や価値をきちんと顧客に説明し、次世代へとつないでいくことに使命を感じている。

 

「ネット通販が興隆を見せていますが、私たちが行うべきは、人と人が向き合ってモノの魅力を伝えていくことなのです」

 

 銀座の街に根づいた丁寧な接客を行う一方で、さまざまな商店による組織「全銀座会」に所属し、人脈も広げている。

 

「定期的に集会があり、情報交換をします。年配の方もいらっしゃいますが、若い方もいます。そうやって次世代に銀座イズムを受け継いでいくのです。銀座には長い歴史があり、人々の集まる街として栄えてきましたが、決して変わっていないわけではありません。新しいものをどんどん取り入れながらブランドを確立したのです。“変わらずにいる”ということは、ある意味で“変わっていかないといけない”ということだと思います」

 

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