JENS HENNING KOCH Interview
禅寺からモンブランへ
May 2016
Jens Henning Koch イエンツ・ヘニング・コッホ
Executive Vice President Marketing, Montblanc International
ドイツ ヘルデッケのウィッテン大学で経営管理学と経済学を学ぶ。1993年、ヒューゴ・ボスでブランドマネージャーとして、また戦略企業開発室でキャリアをスタートしたのち、ヨーロッパ最大の経営戦略会社ローランド・ベルガーでプロジェクトマネージャーを務める。その後、広告代理店スプリンガー&ジェイコビーのマネージングダイレクターとして、コカ・コーラやメルセデス・ベンツのアカウントを獲得、さらに、北京に本拠を置く地元マーケティング・コンサルタント会社とのコラボレーションで、中国の市場への進出戦略を構築。2010年、ランゲ&ゾーネにマーケティング・ダイレクターとして入社、2013年8月よりモンブラン・インターナショナルのプロダクトマネージメント、ブランドコミュニケーションを監修している。
長身で堂々とした体躯、剃り上げられた頭、インテリジェンスを感じさせる銀縁メガネ。イエンツ・ヘニング・コッホ氏は、日本人が考えるドイツ人のイメージによく当てはまる。ドイツを出自とするモンブランのスポークスマンとして、彼ほど適当な人物はいないようにも思える。今年創業110周年という記念すべき年を迎えたモンブランの、過去・現在・未来について聞いてみた。
「私は以前コカ・コーラやメルセデス・ベンツといった巨大企業とも仕事をしたことがありますが、モンブランはすべての点でそれらの企業とは違っています。何よりも大切なのはクラフツマンシップであり、すべてはその上に成り立っています。長い歴史を持っているブランドで、われわれのスタイルは、その過去の延長線上にあるのです。しかしそれは過去に安住しているという意味ではありません。モンブランがいつも掲げているのは“パイオニア・スピリット”ということです。われわれの歴史は挑戦の歴史でした。初めてインクの漏れない万年筆を考案して売り出したのが好例です」
マーケティングやコミュニケーションの専門家でもあるコッホ氏は、ブランドのアンバサダーにヒュー・ジャックマンを起用したことについて、こう語る。
「ヒュー・ジャックマンを使ったのは、彼がモンブランの持つ洗練さと質実さというブランド・イメージを完璧に体現してくれると思ったからです。それに、彼はモンブランの商品にとても興味を持ってくれて、理解し、愛用してくれています。彼はすでにわれわれのファミリーの一員ですよ。しばらくは彼以外のアンバサダーを使うことは考えていません」
ジャックマンは、アンバサダーに起用される以前から、モンブランの大ファンだったという。ブランドへの愛は本物なのだ。それだけに、110周年記念のキャンペーンにもいっそう力が入っている。
「110周年を記念して製作したフィルムをお見せしましょう。ヒュー・ジャックマンが案内役となって、モンブランの歴史を駆け足で辿っていくというものです。創業者が大西洋を渡ってアイデアを持ち帰ったことや、筆記具の代名詞となったマイスターシュテックの発表などを紹介しています」
そのフィルムはこちら。
http://www.montblanc.com/ja-jp/discover/specials/pioneering.html
精巧なセットとスペシャル・エフェクトが使われたショート・ムービーは、まるで本物の映画のような完成度だ。ヒュー・ジャックマンの軽妙な語り口も冴え渡っている。
ところでコッホ氏は、実は日本に住んでいたこともある。しかも禅寺で修業をしていたというのだ。
「もう随分と昔のことになりますが、確かに2ヶ月間ほど、禅寺で修業をしていました。場所は福井県の小浜市です。朝6時に起きて、瞑想して、お務めをして、おかゆを食べて、毎日11時間も座禅をしていました。私は何者なのか? どこから来てどこへ行くのか? といったことを追求していたのです。素晴らしい体験でした。それでわかったことは、日本は信じられないほど深い文化を持っているということです。日本人の沈黙の背景には、深い知恵が隠されている」
この事実を鑑みても、コッホ氏が単なるマーケッターではないことがわかる。モンブランというブランドに対する真摯な姿勢は、日本の禅寺における経験から紡ぎ出されたものなのかもしれない。
「パイオニア・スピリットを持って生きて下さい。そしてモンブランのプロダクトが持つスピリットを、ぜひ体験してみて下さい」
そんなコッホ氏からのメッセージも、氏の過去を知ると、より深いものに思えてならない。